スペインのミステリー(ハビエル・セルカスの「テラ・アルタの憎悪」)
自分のささやか読書趣向のひとつに、「読書を通じていろんな国を訪れる」というものがあります。(個人的に「読書的世界旅行」と呼んでます。)
まあ、常にというわけではないんですが、本との出会いの一視点といった感じで、海外のミステリーを読みながら、いろんな地域を訪れるのは、とても楽しいことなのです。
そんな自分が訪れていなかった国の一つがスペインだったのですが、今回、無事に訪れることができたので、その報告なのです。
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さて、今回、手に取ったスペインのミステリーは、ハビエル・セルカスの『テラ・アルタの憎悪』という本です。
『テラ・アルタの憎悪』というタイトルといい、紅に染められた装丁といい、禍々しささえ感じるんですが、決しておどろおどろしいものではなく、重厚な物語なのです。
主人公となる警察官の名前は "メルチョール"!
東方三賢王のメルキオールに由来して付けられたくだりがあるですが、この名前だけでも異国のミステリーって感じがしてワクワクです。
個人的にガストン・ルルーの仏ミステリー『黄色い部屋の秘密(謎)』のルールタビーユと同じぐらいの異国感を感じました。
○ドラマを感じさせる小説
冒頭、ミステリーと紹介しましたが、実は "謎解き小説" としては、トキメキポイントはあまりないんです。
もちろん、殺人事件は起きるし、捜査も二転三転するんですが、主題はそこじゃない感じなんですよね~、純然たる警察小説ともちょっと違うし、言ってみれば、一人の警察官の「正義」の揺らぎを描いたドラマって印象だったのです。
前半部では、現代の事件とともに、メルチョールの過去が並行して描かれているのですが、この過去部分にこそ、メルチョールの「正義」が形作られていく様子があって興味深いのです。
娼婦の母を持ち、父を知らずに育ち、荒んだ少年時代を送ってきたメルチョールなんですが、収監された刑務所の図書室で『レ・ミゼラブル』と出会うことで変化していくんです。
ただ、メルチョールが惹かれたのは、主人公のジャン・ヴァルジャンではなく、ジャヴェール警部だったりするんです、あの敵役の!
また、服役中に母親が何者かに殺されてしまうのですが、犯人は捕まらないままで、警察官になったメルチョールは、隠れて母親事件の独自捜査をしてたりして、監査部に目を付けられてたりするんです。
ジャヴェール警部を崇拝し、正義感が強く優秀だけど、人とは馴れ合わないメルチョールの「正義」にはどこか歪な部分があって、ともすると、ダークサイドに墜ちそうな危うさも持っているのです。
後半には、やはりスペインの闇の部分が顔を出す展開となり、その中で、このメルチョールの「正義」がどのように変化していくのか…
それがこの本の醍醐味なのです。
読み応えのある作品なんですが、ちょいちょい『レ・ミゼラブル』が登場するので、激しく再読したくなっちゃうのが難点です。
○テラ・アルタ
ある事件の後、都会のバルセロナから異動になるメルチョ―ルなんですが、それがカタルーニャ州の田舎町テラ・アルタなんです。
全然、聞いたことがない町なんですが、調べてみると高地に位置する地域なんです。
事件なんか起きそうにない長閑な感じですよね。
でも、いろいろあった歴史を持つ地域なのです。
この町で、地域を支える企業の社長夫妻が惨殺される事件が起きるのです。
○「Cacaolat(カカオラット)」
テラ・アルタも気になったのですが、今回、最も気になったのが、実は、カカオラットというココア系の飲み物です。
古くからスペインで愛されてる飲み物らしいんですが、調べてみるとパッケージにびっくり!
歴史ある商品のはずなんですが、どう見てもパッケージロゴはコ○・コーラですよね~、パロディなんですかねw
ぜひ、飲んでみたいと思ってるんで、目撃情報がありましたら教えてください!
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「読書的世界旅行」の観点から、スペインのミステリーを意識してたんですが、実は候補本としては『風の影』や『天使のゲーム』など、カルロス・ルイス・サフォンの《忘れられた本の墓場》シリーズをピックアップしてたのですが、四部作なんで、なかなか手が出しづらかったんですよね。
そんな時に単発の本書を見つけて手を出したわけなんですが、あと書きを読むと、実は、この本も三部作らしいです💦
翻訳はこれからみたいなんですが、また、読むシリーズが増えてしまいました!(スムーズな続巻の翻訳を望みます)
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