【architecture】表参道ヒルズ②|安藤忠雄
建築家安藤忠雄氏が『同潤会青山アパートの建て替え計画』のプロジェクトに選任されたのが1994年である
100人近い地権者と毎月の話し合いがはじまった
安藤忠雄氏は大阪をホームグラウンドとしている
大阪と東京を行き来する日々が始まった
これだけ多くの人の合意を得るのは大変なことである
法制度が緩和されたりしてきたが、集合住宅の建て替えは地権者の合意が得られずなかなか進まないのが現状である
高齢の方は建て替えを望まないケースも多い
はじめの話し合いからプロジェクトの厳しさを実感する建築家
そもそも建築家の介入を望んでいない地権者がほとんどで、建築家は黙って言うことを聞いていればいいと言った状況だった
それぞれの地権者は各々の主張をするばかりで一向に話が進まない
建築家は出来るか出来ないかは置いておいて、まずはそれぞれの主張を聞くことから始めたのだった
一通りの主張を聞いた上で建築家が提案したことは3つ
①建物の高さを既存のケヤキ並木の高さ(約18メートル)以下に抑えること
② ファサードは可能な限り商業的な要素を排した、控え目な表現とすること
③ 端の2棟を旧アパートのまま残すこと
東京の一等地に建つ建築である
当然土地の価値は高い
商業的なメリットは十分見込める立地である
高層ビルにすればより多くの経済的メリットがある
商業施設としての価値の高い立地である
住宅よりも儲かる商業施設を増やすべきだ
そもそも老朽化した建築をなぜ残すのか
建築家の意見に多くの反対の声が上がった
しかし建築家はこの提案を貫き通した
4分の3世紀にわたって表参道の街並みをつくってきたこの同潤会青山アパートはパブリックとしての価値がある
敷地は地権者のものであるが風景は街のものである
多くの人がこの表参道での思い出をつくってきた
表参道の300メートルにも及ぶ街並みをつくってきたこの建築には都市の記憶を風景として受け継ぐ必要がある
これが建築家の主張である
地権者との話し合いは7年にも及んだが建築家の主張は変わらなかった
そして地権者は建築家の提案を受け入れる形で合意に至った
長年に及ぶ建築家との話し合いで根負けしたのは地権者だった
最終的にはデザインに関する事は安藤さんに任せるとなったそうだ
この合意に至ることの出来た要因を建築家は、一貫して主張を貫き通したことと、可否は別として地権者の意見をしっかり聞いたことと述べている
建築家にはデザインうんぬん以上に人間性が求められる
芯の通った主張と人々の声を聞く柔軟性
諦めの悪さ、しぶとさ、頑固さ、しなやかさ…
そして表参道ヒルズは2006年に完成した
すでに完成から15年が経とうとしている
良し悪しについては様々な意見があるかもしれないが、現在の表参道にすっかり馴染んでいるように私は思う
これから数十年にわたり表参道の風景となる建築としてはうまくいっているのではないだろうか
ここからは、この表参道ヒルズの建築に隠された秘密を見ていきたいと思う
(つづく)