【architecture】自邸|前川國男
前川國男という建築家をご存知だろうか?
1905年生まれの前川氏は全国に県庁や美術館など多くの公共建築をつくった人物である
近代建築の巨匠であるル・コルビュジエの元で2年間働いた経験をもつ
後に丹下健三など巨匠となる建築家が師事した
上野公園内にある東京文化会館や港区の国際文化会館などが有名である。コルビュジェの日本での唯一の建築である国立西洋美術館(上野)の設計も担当している
私の住む岡山県の県庁は初期の作品として知られている
コルビュジエの影響もあり、コンクリートの大型建築を数多く手がけてきたが、前川國男氏の自邸は木造の小さな住宅である
1942年の戦時中に竣工した自邸は当時東京の上大崎にあったが、現在は小金井市の江戸東京たてもの園に移築されている
現在は緊急事態宣言中のため休園しているがネット上で360度カメラによる内覧ができるようになっているのでぜひ見てもらいたい
戦時中に出来た建築ということもあり、面積制限が30坪以内に規制されていた
30坪は一般的な住宅の平均的な広さである
無駄なものを削ぎ落とした小さな住宅には、小さいながら沢山の思考の蓄積が感じられる
学生の頃から何度なく通っては、都度新たな発見のある建築である
まず外観だが大きな切妻屋根が全体を包む三角屋根である
左右対称の立面の真ん中には円形の柱が中心性を高めるようにかけられている
これは戦時中の資材統制のため、中古の電信柱が使われている
1階平面図
2階平面図
南側立面図
1階は北側からアプローチを歩いて玄関に向かう
内部は中央に天井の低い食事室と天井の高い吹き抜けの居間があり、左右に諸室と水回りがあるシンプルな構成である
2階は今の吹き抜けから階段を上ったところに書斎がある
一番の見せ場はやはり吹き抜けの南側の格子のガラスでできた建具からの景色である
光や風が入り込みながら南側の庭と一体になったダイナミックな空間である
少しマニアックな話になるのだが、なるべく分かりやすくお伝えするのでお付き合い願いたい
このダイナミックな吹き抜けであるが高さは4.5メートルである
現代の一般的な住宅でも吹き抜けはよく用いられるが、その高さは5メートル以上は最低あることを考えると高くはない
おそらく2階の書斎は2.1メートル程度の天井高さなのでかなり低いはずだ
前川邸が高さを抑えながらも圧倒的なダイナミック感があるのには計算された設計力にある
それは建築に入る前のアプローチからはじまっている
長いアプローチには大谷石で出来た低い塀を設けうまく動線を長くしながら建物への期待感を高めている
玄関の位置が独特でわざわざ正面ではなく回り込むような位置にある
そして玄関の入ると回り込むように左手に大きな回転扉がある
通常居間の吹き抜けを見せたいのであればホールから開戸を開けた途端に見えるように左側に吊り元がくるようにするが、ここでは右側に吊り元がきておりすぐには吹き抜けが見えないように敢えて視界を制限しているのだ
そして天井の低い部分をわざと通らせて居間へと通じる焦らし効果を狙っていると思われる
また2階の書斎がある下の一階部分は天井高さが2.25mまで抑えられているのも対比が強調される効果を生んでいる
吹き抜けの幅は6.363mありこの高さと横幅の関係性も広さに影響を与えている
この建築では巧みな動線操作によって小さいながら様々な人の動きや目線の動きを利用して人の感情を演出している
また建具の大きさや開く向き、天井の高さの変化によりリズムを生み出し適度な焦らしを作り出している
なぜか一般的には天井は高い方がいいとか、居間は何帖ないといけないとか言われることが多いが、丁寧な設計をすることにより、より快適で居心地の良い空間をつくることは出来るのだ
そういった意味でも
私は小さなスケールが生み出す空間に居心地の良さを感じるのである
前川邸には他にも語りたい要素は山ほどあるのだがあまりにもマニアックになってしまうのでこの辺にしておこうと思う
緊急事態宣言が明けた折には是非とも訪れてもらいたい
あまり肩肘を張らずに自然な気持ちでこの空間を楽しんでもらいたいと思う
住宅の居心地について何か感じることがあるはずである
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