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追憶の価値

大型連休こそ沢山読むぞと意気込む。
最初の一冊は、年末に読み掛け、途中だった
浅田次郎氏の小説「おもかげ」(講談社文庫)。

総合商社の子会社役員を勤め上げ、
定年退職を迎えた65歳の主人公、
竹脇正一がその送別会の帰路、
地下鉄で意識を失い倒れ、
救急車で運ばれるところから始まる。
そこを起点に回想や幻想、憧憬の場面で
本作は綴られていく。

親に捨てられ孤児院で育てられた正一と、
同様に親の愛情に恵まれなかった妻節子。
同期入社で後に上司(社長)となった親友、
親類以上の絆で結ばれている幼馴染み、
粋で心優しい娘婿、
正一と20年以上の面識がある担当看護師、
そして幼い頃亡くなった息子春哉。

登場人物たちの個々の物語がクロスし、
様々な伏線となって後半で結ばれていく。

正一は死の間際にベットの上で
過去を振り返る機会を得る。
それは、不遇の生い立ちを乗り越え
人生を切り拓いてきた正一への
天からのご褒美のように思えてならない。

作者が描きたかったのは、やはり
親と子の切っても切れない、えにし。
この世に生を受けた根源と、
その生をどう全うしていくかということ。

僕もあと何年かしたら、
送別会はなしかもしれぬが
最終出社の日を迎える。
作中の途中ごと、正一の追憶に、
我が20代の追想を
何度も重ね、読み進めた。

今、何とか生きられている。
もう感謝しかない。

たとえどんなに辛い過去があろうと
懸命に生きていれば、
人は幸せだということ。

正一とは違い、
生涯を振り返る間もなく突然に、
この世を去る場合がある。

誰もがいつどうなるかの人生。
日々の感謝だけは手放すまいと
心するGWの出だしである。

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