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友への選書

緊急事態宣言下での入院になるのか…。
尚更、彼の奥さんやお子さんは
殆どお見舞いに行けないな。

僕より10歳若い、40代半ばの彼が8月に入院し、
手術を受けることになったことを、
6月末、本人からの直接の電話で知った。

彼とはもう10年以上の付き合いになる。
別の会社の幹部。そんな多忙の彼が珍しく、
メールではなく電話で、かなり不安げに
入院と手術の予定を知らせてきたこと、
彼にとって人生初の入院・手術であること。

そして、彼は僕の数少ない親友であること、
東京のど真ん中で日本酒を飲みながら
プライベートな諸々を語り明かした夜のこと、
彼は僕の葬式には是非とも
参列してほして存在であること…。

そんな数々の想いが錯綜し、
少しでも励ましになればと、
読書家の彼におこがましくも
何冊かの本を送ることにした。

選書にあたり、
しげしげと拙宅の書棚を眺める。
入院中の方には、どんな本が良いのだろう。
同じ姿勢で長時間読むのは身体に毒だから
長編小説は違うな、
気が滅入るだろうから
シリアスなものも駄目だな、
ましてやビジネス関連など、
もってのほかだな、等々、思案していく。

僕は半世紀以上生きているが、
入院経験がない。
わが両親は長い闘病の末に他界したので、
病棟へのお見舞いに何度も通った。
僕が持ち合わせているのは、
その程度の想像力である。

愛読家の彼であっても、
好みはあるだろう。
そして僕の価値観を押し付けるのも、
拙いが流儀に反する。

結果、以下の5冊の文庫を選び、
手紙を添え、今週、彼に送った。

1. 「ふっと心がかるくなる禅の言葉」
(永井政之監修、ナガオカ文庫)
2.「おやすみ、東京」
(吉田篤弘著、ハルキ文庫)
3.「あなたは、誰かの大切な人」
 (原田マハ著、講談社文庫)
4.「花や散るらん」
(葉室麟著、文春文庫)
5.「自省録」
(マルクス・アウレリウス・アントニウス著、
岩波文庫)

昨日、受け取った彼から電話があった。
「ありがとう。なんか、入院前に、
5冊とも読みきってしまいそう」
なんとも彼らしい。
この様子なら、大丈夫だと踏んだ。


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