全社統一CRMの運用後に現場で出てくる実践的課題と解決策
こんにちは、米田 @ 富士通にてマーケティング変革実行中です。今回は、比較的大きな組織で全社統一のマーケティングオートメーション (MA) やCRMを導入して運用を開始した際に、営業部とマーケティング部の間でよく発生する課題とその解決策について書きます。私も、現職、前職、前々職で、ビジネス側のMAやCRMの運用に携わってきましたが、割と共通で出てくる課題があります。これらのことを予め想定して先手先手で次のフェーズに移っていくことで、MAやCRMの運用を着実なものにして効果を出せるようになってくるでしょう。
尚、運用開始前に要件定義やKPIの設定、関係部門間での合意はあらかじめ行われた上で運用開始しているものとします。
課題フェーズ1: 必要な商談がCRMに入らない
運用開始後3ヶ月から半年くらいは、とにかくCRMの中に商談が入らない状態が続きます。マーケティング部はMAを有効活用するにはCRMと一体での運用が不可欠であり、MAの部分の運用ルール決めや運用はきちんと行ったとしても、MQLから営業部に商談に変換してもらう後のところが中々うまく行かないことが多いです。
具体的には、いくつか課題が出てくる可能性があります。
前者の、「マーケティング部からのMQLが商談に変換されない」場合、営業がマーケティングからの商談優先度を下げていることが考えられます。何故下げられているかについて考えると、大抵の場合は「マーケティング部と営業部で商談作成基準のすり合わせが不十分」であることが多いです。
商談作成基準は定義の文章上は「BANT条件のうち〇〇を満たす」等と定義されていますが、マーケティング部がマーケティングの方法 (デジタルやイベントなど)を使ってリードにコンタクトして確認した内容と、営業がその組織で普段コンタクトしている意思決定者に確認した内容が異なっている場合もあります。「マーケティングによる手法では組織内の1個人 (必ずしも意思決定者でない場合もある)に確認したBANT」と「営業が組織としてのBANTとして確認したもの」に差があることはよくあり、「リード (個人)から商談 (組織)に変換する際の溝」により消滅するリードは常にあると考える必要があります。
また、マーケティング部が追っていた製品は単価が小さいので営業部は追いたくない、もしくは営業部から見るとどの商品にも落とせないので追えない、ということもあります。
これはひとくくりに「マーケティングと営業の間の溝」と呼ばれるもので、完全に解決するような特効薬はないのですが、溝を小さくするための施策がいくつかあります。
*
後者の「営業部が自分たちで入れるべき営業部起源の商談をなかなか入れない」については、営業がExcel/SharePointリスト/別の商談管理ツールなどの別の方法で個別管理している、営業がもしもの時の入れ替え用に隠し商談を持っている、といったことが考えられます。忙しくてCRMに商談を入れる時間がない、という営業もいるかもしれません。
基本的な対応策としては、営業一人一人に全社CRMに入れることによるメリットを改めて説くとともに、それ以外の選択肢を取れないようにする必要があります。
課題フェーズ2: 商談が重複して入りすぎてしまう
課題フェーズ1の解決が進み、営業が全社統一CRMに商談を入れはじめると、今度は逆に「商談が重複してたくさん入ってしまう」問題が発生します。この頃には、営業部門のトップから「どんどんCRMに商談を入れろ!もっともっと入れろ!」と大号令がかかっていることが多いです。ひとつの商談について、マーケティング部、インサイドセールス部、事業部、営業部など、複数の部門がかかわっていることが多いのですが、大号令の結果、それぞれが別にCRMに商談を新規に入れようとする現象が発生します。たいていの場合は、どの部門が商談を作ったかを全社的に競っているため、それぞれの部門が「自分たちの手柄である」ことを主張し始めるのです。
これを防ぐために、Salesforce Sales Cloudなどの代表的なCRMには、「キャンペーンコード」と呼ばれる属性情報を商談に付加することができるようになっています。これはどの活動が起源であるかの情報を付加できる仕組みで、ひとつの商談に複数紐づけることができるため、「誰の手柄」問題を解決することができます。ただし、運用開始当初はきちんと運用できていないことが多いので、CRM運用管理者は定期的に運用状況を確認して、厳密に運用されるようにします。キャンペーンコードは自動で商談に付与され商談管理者以外は手動で変えられないようになっていることも多いですが、場合によってはマーケティング部などからの申請でキャンペーンコードを後からも付加できるようなヘルプデスクをCRM運用部に設置する必要もあります。
また、CRMで商談を作成できるのは営業 (または同等のロールの人)に限る運用をしている場合が多いのですが、営業が商談作成時にMQLの一覧を見ないで別に商談を作成してしまう、もしくは他の営業がMQLから商談に変換して作成した商談を見ずに、別に商談を作成してしまう、ということも頻繁にみられます。対策としては、日次/週次のCRMレポートを営業が見る習慣をつけるようにして、自分が入れた商談だけではなく自分の担当範囲の商談の全体像をMQLも含めて把握するようにすることが必要になります。CRMツールによっては、既存商談と似た商談を入れようとすると、既存商談の候補を表示してくれる機能があるものもあります。
課題フェーズ3: 商談フォーキャストの精度が上がらない
前述の課題が解決された後に残るのが商談フォーキャストの精度です。全社統一CRMに全商談を入れる一つの理由は、特定の時期までに受注予定の商談の予測を正確に行い、計画的に売上を上げるためです。売上は多く上がれば多いほどいいというわけではなく、B2Bでは計画に対する実行の正確さが求められます。計画値より多く売上が上がってしまうのは、次年度の売上を先食いしているだけのケースも多いのです。
商談フォーキャストの精度が上がらないというのは、殆どの営業部門で持っている課題ではないかと思います。様々な内的/外的要因が考えられるため、これをやれば解決する、といったものはないのですが、少なくとも週次の商談管理動作は営業部全体で徹底して行い、CRMに入っている商談を最新に保つことを行う必要があります。つまり、営業部の中にCRM推進部門 (セールスオペレーション)を作り、週の始めに各営業が一斉にCRMの更新をする時間を取ることで商談情報を最新に保つようにします。商談クローズ予定日の更新、一定時間以上経っている商談の更新や確度の低い商談のクレンジングとクローズ等を行います。商談フォーキャスト会議も週次、場合によってはそれ以上、もしくは四半期の終わりに近づいたら毎日行い、精度を高めるようにします。
ビジネスの種類によっては、たとえば年次による状況の変化が少なく、大型商談の影響が少なく、小さめの商談が多く積みあがってくるタイプのビジネス (中堅中小向けのランレートビジネス) では、過去数年間の商談状況をAIに学習させることでかなり正確に商談フォーキャストをAIが行ってくれるようにすることも可能です。
*
いかがでしたでしょうか。課題フェーズが上がるほど多くの組織で共通で課題になっていてなかなか解決が難しいものが増えてきます。ただし、それを見越して必要な対策はあらかじめ打っておくことで、その時点での最善策を取ることができるのではないかと思いますので、この記事が読者の皆様の何かの参考になればと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。では、また!
関連記事: