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ひとり暮らし学生に「外食減らそう」は効果なし?(執筆論文紹介)

日本人の食事摂取基準(以下「食事摂取基準」、最新版は2025年版(案);文献1)は信頼度の高い食事のガイドラインです、というこちらの話題から始まり

食事摂取基準を「作る」という面からの関連話題をいくつかnote記事にしていました。

せっかくなので食事摂取基準の話題を続けてみたいと思います。

今日の記事は久しぶりに、私が執筆した9報の論文の内容を紹介する「執筆論文紹介」です。しかも食事摂取基準の基準値を使った研究です。この研究で分かったことは、女子大学生では、家族と同居している場合とひとり暮らし(独居)の場合では食事の課題(注意点)が違うようだ、ということでした。論文タイトルは「栄養関連学科18~20歳日本人女子学生4017人を対象にした居住状況および外食頻度と栄養素摂取状況の関連:多施設共同横断調査」です(文献2)。さて、どんな研究でしょうか。

なお、この論文はこちらのページで公開されており、無料で読むことができます。



●得られた知見

この論文で得られた結論は以下のとおりです。

  • 家族と同居している女子学生(同居群)では、食事摂取基準の目標量(DG)を満たしていない栄養素(エネルギー産生栄養素、食物繊維、食塩など)の数が一人暮らしの女子学生(独居群)に比べて多かった半面、推定平均必要量(EAR)に達していない栄養素(ビタミンやミネラルなど)の数は独居群より少なくなっていました。

  • 同居群では外食頻度の増加に伴いDGを満たしていない栄養素数が増えました。

  • 独居群は同居群に比べてEARに達していない栄養素数が多く、DGを満たしていない栄養素数は少なくて、外食頻度と栄養素充足状況の間に関連は認められませんでした。


●背景:なぜ居住形態と食事に注目したの?

食習慣は住んでいる環境や同居している家族にも影響を受けるものです(文献3)。特にひとり暮らし(独居)は、中高年の場合は、低栄養や不健康な食事の危険因子であるとの報告があります(文献4)。けれども若年者で独居の場合には、不健康な食習慣を有しているとか、肥満の傾向があることは示されているものの(文献5, 6)、食事への影響は明らかになっていませんでした。女性は男性に比べると料理を含めた家事労働に従事する時間が長く(文献7)、また母親の食事は父親に比べて子どもの食事と関連が強い傾向があります(文献8)。こういった背景から、若年女性の食事に与える様々な影響を明らかにすることは、本人以外に、次世代の健康のためにも必要と考えました。そこで本研究では、独居女子学生と家族と同居している女子学生の食事の適切さに関して、栄養素が十分に摂取できているか、または過剰に摂取していないか、という状況を比較しました。さらに、若年で独居の場合、調理に使う時間の低下と外食の機会が多いことが予想されました。そこで、外食の及ぼす影響の検討も行いました。

●研究方法:どんな人にどうやって質問に回答してもらったの?

この研究の対象者となったのは(この研究で調査に回答した人たちは)、これまでのnoteの「執筆論文紹介」シリーズで説明した、日本国内85校の栄養関連学科に通う学生とその母親および祖母が参加して行われた研究の、学生世代の参加者です。このうち18~20歳の女性を対象とし、データに欠損のあった参加者等、基準にあてはまらない参加者を除外した結果、解析対象者は、4107人となりました。この中で、家族と同居している人(同居群)は3096人(75%)、ひとり暮らし(独居群)の人は1011人(25%)でした。

対象者の食事摂取量は、食事歴法質問票(DHQ)から推定しました。食事の適切さは、「日本人の食事摂取基準2015(文献9)」で定められた基準値を用いました。目標量(DG)設定5栄養素(エネルギー産生栄養素、食物繊維、食塩)に関してはDG範囲外の摂取量の場合を「不適切」としました。推定平均必要量(EAR)設定13栄養素(ビタミンやミネラル)は、EARに満たない摂取量の場合を「不適切」としました。ただし鉄だけ海外の知見を参考に基準値を設定しました。

外食に関しては、飲食店で調理された食品を食べる場合を「外食」としました。いわゆる中食も「外食」に含めています。そして、食事摂取状況に関して、独居/同居の各群で「不適切」な摂取を示した栄養素の数を比較しました。またそれに与える外食の影響も検討しました。

●結果:同居群は脂質や食塩の摂りすぎ、独居群はミネラル不足

独居群は同居群に比べて、外食摂取頻度が多くなっていました。各群の栄養素摂取量を比較したところ、炭水化物は独居群で高く、その他ほとんどの栄養素は独居群で低くなっていました。不適切な摂取量を示した人の割合は、DG設定栄養素では、脂質、飽和脂肪酸および食塩は同居群が高く、食物繊維に関しては独居群が高くなっていました。EAR設定栄養素では、ほとんどの栄養素で独居群が高くなっていました。

摂取不適切の栄養素数をDGおよびEARに分けて合計した結果、DG設定栄養素では同居群が3.3、独居群が2.9で、同居群が高くなっていました。一方EAR設定栄養素では、同居群が6.0、独居群が7.1で、独居群が高くなっていました(図1)。

図1. 居住形態別にみた摂取不適切な栄養素数

これらに及ぼす外食の影響を検討したところ(図2)、DG設定栄養素の場合、同居群では外食頻度と摂取不適切栄養素数に正の関連が認められていました。けれども、独居群では外食との関連が認められませんでした。EAR設定栄養素では同居群、独居群とも外食頻度との関連は認められませんでした。

図2. 居住形態別にみた摂取不適切な栄養素数に及ぼす外食頻度の影響


●考察:独居学生の食事は家でも外でも同じ?

ビタミン、ミネラルなどの栄養素の摂取は、家族と同居している女子学生では、独居学生に比べてEARを満たしている場合が多くなっていました。けれども、飽和脂肪酸の摂りすぎや食塩の摂りすぎなどのDGを満たしていない栄養素数は、同居学生は独居学生に比べて高く、その数は外食頻度と有意な正の関連を示していました。一方で、独居学生はビタミン、ミネラルなどの栄養素の摂取がEARに達していない場合が多く、この関連は外食頻度に関係なく見られていました。このように、同居群と独居群では、不適切な栄養素の種類が異なっていました。居住形態によって、食事改善に注目するべき栄養素が異なる可能性があります。また、外食頻度は同居群のDG設定栄養素の摂取状況のみと関連が認められていました。独居学生は、家でも外食でも同じようなものを食べているのかもしれません。このことから、独居女子学生の場合は、外食頻度を減らすしても、必ずしも食事改善につながらない可能性が考えられます。

●まとめ

同居、独居女子学生いずれにも食習慣改善点が認められましたが、その内容には違いがありました。外食頻度を減らすことは、家族と同居している学生の食事改善に有効である可能性が示された一方で、独居学生には、外食頻度を減らすよりも、健康的な食事に対する知識の提供や、食品産業による安価で健康的な食事の販売の促進、そして食品ラベルの改善などが、より効果的な食習慣の改善策かもしれません。これらをふまえて、若年女性の食事改善のためには、今後さらなる研究が必要と考えられます。

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【参考文献】
1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2025年版案. 2024.
2. Kobayashi S, et al. J Epidemiol 2017; 27: 287-93.
3. Hartmann C, et al. Public Health Nutr. 2014; 17: 2730-9.
4. Davis MA, et al. J Nutr. 2000; 130: 2256-64.
5. Kasamaki J. Nihon Eiseigaku Zasshi. 2015; 70: 81-94.
6. Goto M, et al. Public Health Nutr. 2010; 13:1575-80.
7. 総務省. 平成23年社会生活基本調査. 2012.
8. Shrivastava A, et al. Public Health Nutr. 2013; 16: 1476-86.
9. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2015年版. 2014.


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