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『自然の涙』 写真

目次
「いつもの感じ」
「涙」
「幸せのかたち」
「劣等感」
「初診」
「つづく」

「いつもの感じ」

いつものような会合だった。
100人ぐらいだっただろうか。
ほとんどが顔見知りで、初めて見る
人なんてちらほら。
その中でも比較的若いおれは
いつものように酒を注ぎに回った。
中身のないような話をしたり、
されながら時間が経過していく。
内心〝つまんねー〟と思っていたのも
いつものことだった。
それでも勿論、いつものように
振る舞っていた。笑顔で。

「涙」

急だった。
何かが起こったわけでもなく、
誰かに何かを言われたわけでもなく、
ただ、この場にいたくない、
一刻も早く立ち去りたいという
感情が湧き出てきた。
それは恐怖心なのか、不安感なのか
その時はまだよく分からない感覚で、
身体中が何かに取り憑かれたようだった。
会合などで、誰にも何も言わずに
途中で帰ったのは初めてだった。
もちろん会が締まれば
「あれ?どこ行ったん?」となるのは
分かっていた。
それでも、すぐにその場から離れたかった。
ホテルから家まで歩くと30分かかる。
人口5万人程度の町。
真っ暗というわけでもない。
コンビニやドラッグストアの明かりが
歩道を照らした。
スーツ姿の30過ぎの男は、
とぼとぼと歩いていた。
ふと、涙が出てきた。
何を考えていたか覚えていないが、
自然と涙が出てきて〝ダメだ〟と
思った。

「幸せのかたち」

結婚して妻の親が経営している
建設会社に務めさせてもらった。
今から18年前、まだ23歳の頃だ。
現場経験、営業、資格取得、会合、
右も左も分からず苦労したことも多々
あったが、どちらかと言えば社交的な
方だと思っていたし、何とかやって
これたんだと思う。
3人の子育ても同時にあったが、
子どものことは勿論大好きで、みんな
特に大きな怪我や病気もなく、
順調に成長してくれていた。
経済的に不満があるわけでもなく、
不幸せなんて言葉は当てはまる要素は
なかった。
仕事はどんな職種にも、どんな立場でも
それぞれ大変さがある。当たり前だ。
自分が経営者側になるなんてことは、
10代の頃には全くイメージしていなかった。
義父が社長だったり、妻の姉の婿(義兄)
が会社に入ってきたり、
良い環境でありながら、その中で
耐えるべきことも多々あった。
でもこれありきの今の自分の家庭であり、
子ども達を幸せにできる手段であることに
間違いはないから、自分なりにやってきた
つもりだ。

「劣等感」

おれ自身、特にいい大学を出たとか、
特別な能力を備えていたわけでもない。
だから、いろいろな場面で劣等感を
感じた。
悔しいから、勉強して取れるならと、
国家資格もいくつも取った。
でもだから何なんだと、まだまだ
足りないし、こんなんじゃダメだと
思い、ビジネス書や自己啓発本を
読み漁った。その瞬間だけ、自分が
変わったように思えてモチベーションが
高まるが、翌日にはまた落ちる。
飲み会で人と出会えば、何となく
人脈が増えた気になるが、その時
だけで、シラフになれば何だったんだ
昨日の飲み会は…となる。
まぁ相手も同じことを思っていたかも
知れない。
ここまで読んで下さり〝みんなそうだよ…
別にその程度なら全然いいじゃん〟と思う
方もいると思う。それが正しいのかも
知れないし、おれが甘いだけなのかも
知れない。でも辛かった。

「初診」

またタイトルに惹かれて、1400円の
自己啓発本を買おうとしていた。
でもなぜかその時、鬱病の本を手にし、
パラパラと読んでみた。
〝おれじゃん〟
どんな自己啓発本にもそりゃ載ってない。
選んでいた本のジャンルがそもそも
違っていた。
それから精神科を受診するまでには
時間を要した。
おれが鬱?精神科に通うの?マジか…。
悩んだ挙げ句、もう行くしかないと
決意し、市外の病院を探し、翌週に
予約をした。
おれより具合いが悪そうな人達が
待合室にはいた。
この世の中って何なんだろう…と思った。
初診はおばちゃん先生と1時間ぐらい
話した。次までに用紙に生い立ちとか
色々と書いてきて下さいと言われた。
事細かく書いた。伝えたかったから。
今もその用紙(コピー)を見ると
その時の自分の必死さが見える。
可哀想なほどに。
結果、社会(社交)不安障害・鬱・
HSP(後に言われる)だった。

「つづく」

続きはまた今度書きたいと思う。
薬飲んだり、飲まないようにしてみたり、
良くなったり、悪くなったり、
今も続いている。
最近、根本的な原因も分かり、
逆に凹んでいたりしている。

同じように苦しんでいる人が
いっぱいいる。
比べられないけど、おれより苦しんで
いる人がいっぱいいる。
話してみたら、身近な人で
同じように苦しんでいる人もいた。
そういう人はみんな優しい。
みんなにとって、明日の朝が
怖いものでありませんように。





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