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#137 宮沢賢治の詩 「猫」【宮沢賢治とシャーマンと山 その10】

(続き)

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猫 

(四月の夜、とし老った猫が)
友達のうちのあまり明るくない電燈の向こふにその年とった猫がしづかに顔を出した。
(アンデルセンの猫を知ってゐますか。暗闇で毛を逆立ててパチパチ火花を出すアンデルセンの猫を)
実になめらかによるの気圏の底を猫が滑ってやって来る。
(私は猫は大嫌ひです。猫のからだの中を考へると吐き出しさうになります)
猫は停ってすわって前あしでからだをこする。見てゐるとつめたいそして底知れない変なものが猫の毛皮を網になって覆ひ、猫はその網糸を延ばして毛皮一面に張ってゐるのだ。
(毛皮といふものは厭なもんだ。毛皮を考へると私は変に苦笑ひしたくなる。陰電気のためかも知れない)
猫は立ちあがりからだをうんと延ばしかすかにかすかにミウと鳴きするりと暗の中へ流れていった。
(どう考へても私は猫は厭ですよ)

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ここで登場する猫は、生身の動物というより、自然現象の一種のような、流動体が仮の形に滑り込んだような、異形の物体として描かれているようにも見える。

【写真は、花巻市大迫地域の猫底橋の装飾】

(続く)

2024(令和6)年2月28日(水)

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