コーヒー。
また、懲りもせず、かあちゃんとの出来事。
物心ついた時から、お酒と共に、
かあちゃんは、コーヒーが好きであった。
と言っても、インスタントコーヒーである。
仕事に行く前には、必ずコーヒーを飲む。
砂糖多めの牛乳多めの、コーヒー牛乳。
私が幼少期の頃、
かあちゃんにコーヒーを作ってあげる!
と息巻いて、コーヒーをつくったのだが、
それを、かあちゃんはすごく喜んで、
笑顔で飲んでくれた。
少し飲むと、
もったいないから、
仕事から帰ってきたら飲むね。
とそのまま仕事に向かった。
私は、
かあちゃんが喜んでくれて、嬉しかったし、
少し役に立てたのだと誇らしかった。
残ったコーヒー牛乳を眺める。
あのコーヒーのいい匂いがする。
どれどれ、どんな味がするんだろう。
一口ぐらい、飲んでもわからなはず!
そのコーヒー牛乳を飲んだ瞬間…。
吐き出した…塩っ辛い…。
それはすぐにわかった。
砂糖と塩を入れ間違ったのだ。
かあちゃん…これよく飲んだな…。
かあちゃん多分…オイラの為に、
無理して飲んだんだ…。
かあちゃん…ごめんよ…。
こんな塩っ辛いコーヒー飲ませて…。
しかも、気を使って、オイラを、
傷つけないように、してくれたんだ。
塩っ辛いコーヒー牛乳…すぐに捨てた。
かあちゃんに、
悪い事をしてしまった、自分を責めた…。
なんて事してしまったのだ。
オイラのせいで、かあちゃんに、
気を使わせてしまった…。
あの時のかあちゃんの笑顔を、
裏切ってしまった…あーオイラはバカだ。
夕方、かあちゃんが帰ってきた。
私は、
かあちゃんごめん、朝のコーヒー、
こぼしちゃった…だから、もう一回、
作ってあげるから、待っててね!
と、今度はちゃんと砂糖を確認して、
甘いコーヒー牛乳を作った。
かあちゃんは、
そうなのかい…ありがとうね。
せっかくだし、のんでみようかな。
とコーヒー牛乳を飲んだ。
かあちゃんは、私の頭をクシャクシャ撫で、
お前は優しいね…すごく美味しいよ。
あーなんだか、疲れがぶっ飛ぶよ!
今度から、かあちゃんのコーヒー、
お前が作ってくれるかい?
こんなに美味しいコーヒーなら、
かあちゃん仕事も頑張れるよ!
かあちゃんの優しさに泣きそうに、
なったが、ぐっとこらえて、
うん!今度からは、
オイラがかあちゃんのコーヒー、
毎朝作ってあげるからね!
かあちゃんが喜んでくれて、良かった!
それから、毎朝かあちゃんの為に、
甘いコーヒー牛乳を作ってあげていた。
中学に入ると、距離的に、
朝早く家を出なきゃいけなくなって、
年頃もあいまって、コーヒーを作らなくなった。
私が実家のアパートを出て、
月に一度の仕送りに、かあちゃんに会いに、
アパートへと向かう。
かあちゃんは、家事一般が苦手である。
かあちゃん一人なのに、コップの数が多い…。
なぜなら、かあちゃんはコップを洗わない。
次から次へと、コップを使うのだ。
そこには、コーヒー牛乳を飲んだ後の、
コップがたくさん置いてある。
この、コーヒー牛乳のコップが厄介なのだ。
コーヒーの跡が、なかなか取れない。
ぬめりと共にコーヒーの渋みが、
コップに張り付いて、黒ずんで、
洗えど、洗えど、取れない。
しかも、ガラスのコップだと、
気が滅入る…もちろんくすんでいる。
そして、底についたカピカピの牛乳成分が、
なかなか取れないのだ。
私は、コップ達をハイターで漬け込む。
特にガラスのコップは、
えっ!こんなに透き通ってたの?
と思うぐらい、キレイになってて、
もう…感無量です…。
かあちゃんも、
こんなにキレイだったんだ!
お前、すごいね!
こんなキレイなコップで、飲むコーヒーは、
最高に美味しいだろうなー!
なぁお前、
またあたいに、コーヒー作っておくれ!
お前の作ったコーヒーが一番美味しいんだ!
私は、やっとキレイになったコップに、
インスタントのコーヒーと牛乳…
そして、なぜがカチカチになっている砂糖、
これを、ガリガリとこそいで、作る。
かあちゃんは、これだよ!
このコーヒーが飲みたかったんだよ!
お前の作るコーヒーは本当に美味しいね。
と、ぐびぐび飲んでいる。
かあちゃん…砂糖カチカチだから、
あまり甘いコーヒー飲めないのかも…。
確か…濡らしたキッチンペーパーを、
入れとくといいと聞いた事がある。
試しに入れとこう!
次来た時は、上白糖ではなく、
グラニュー糖を買う事にしとおこう…。
かあちゃんに、キッチンペーパーは、
取らないでね、カチカチになるからと、
伝えといた。
かあちゃん、もしかしたら、
アルコール中毒とカフェイン中毒なのか?
やれやれ、しょうがないな、かあちゃん。
そんな、思い出を、
病室の自分のコップに着いた茶渋を見ながら、
あんな事あったな…としみじみ思う。
この茶渋だらけのコップ…。
あーハイターに漬けたい…衝動に駆られる。
あの時の、かあちゃんのコーヒー牛乳。
もう一回作ってあげたいな。
飲むのは、私だが、
かあちゃんのご機嫌になるコーヒー牛乳を、
作って、いい匂いを感じて、ごくごく飲んで、
かあちゃんになりきって味わいたいな。
あの、塩っ辛いコーヒー牛乳は、
私の中では、忘れられない味で、
今も思い出すと、顔がしわくちゃになる。
かあちゃん…。
あれを飲み込むって相当、根性あるよな…。
もし、
私が知らずにいたらどうするつもり?
仕事から帰ってきて、塩っ辛いコーヒーを、
また根性で飲むのだろうか…。
かあちゃん、そこは素直に言ってくれよ…。