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第7話 鯵の頭の落とし方教えてやれ。

僕のすぐ上の先輩は、当時18歳の高校を卒業したばかりの男の子でした。
私は20歳。たった2つとはいえ年上で、しかも社長の跡取り息子。
どう考えてもやりにくかったと思います。(笑)

修行初日、そんな彼からお店の一連の流れと仕事を教えてもらいました。

朝は9:30に出勤。
営業開始までに掃除をはじめとする営業のための準備や各種セッティング。仕込みや出前の回収、ゴミ捨て等を済ませます。
昼の営業時間中は、接客、出前、皿洗いなど営業に関する仕事をこなしながら、まかないの準備をします。
その後、夜の営業までの間に、店の各種仕込みや出前の回収。
そして、交代でまかない作りを行っていました。
当時は30人分を作っていましたので、これはこれでひと仕事です。
休憩はこの時間帯に交代で約1時間とります。
そうこうしていると夜の営業時間が始まります。接客、出前、皿洗いなどをし、営業が終わると閉店後の作業。掃除や後片付け、出前の釣り銭合わせなどをやっていると終業はいつも23:00でした。

この通り修行当初の私は、当然包丁すら持てない状態でした。
しかし彼は私が入ってから包丁が持てるようになり、仕込み場に立つようになりました。
そこで気づいたのです。

「これはちょっと厳しいなぁ。後輩が来ない限り、私は包丁が持てない。」


当時の僕の頭の中は単純で「とにかく上に上がりたい!その為には、目の前の先輩たちよりも上手にならないと!」という一心でした。
そして、「どうすればこの人たちを超えて早く父と肩を並べ、
そして追い越していけるか?」ということをずっと考えていました。

本当にその一心だったので「どうやったら?」を常に考えていたというか、むしろ「どうやったら?」しか考えていませんでしたし、そしてブレずに「父を越えるためにも、早く技術を持ちたい。」と強く思っていました。

そこで私はまず、すぐ上の先輩である18歳の男の子を「一瞬で」超えることを決めました。(すぐに、ではないんです。一瞬なんです。この辺りに私の負けず嫌いが滲み出てますね。笑)


それからは、とにかく彼の動きをよく観察しました。
彼は先輩たちと一緒に寮から9時半に出勤していました。もちろん私も寮から出勤。そして、前述したような流れで仕事をスタートするのですが、彼は私が入って手が空いた分、包丁を持っていました。
となると、この差を埋めさらに「一瞬で超える」ためにはどうすればいいか?

そこで、私はあることを決めました。

−9時半出勤ではなく、7時半に出勤する。
「彼が寝ている間に仕事を終わらせる。それくらいしないと、彼には追いつけない。彼が出勤する9時半までに、出前回収以外はすべて終わらせよう。」と決心し、即、行動に移しました。

最初は時間がかかっていましたが、次第にコツを掴み、技術も上がったようで、ギリギリ9時半までに終わるようになりました。

そんなある日。

父である親方が市場から車に積んで持ち帰ってきた魚を、先輩たちと一緒に下ろしていた時のこと。
「一洋、お前全部終わったんか?来るなら終わらせてから来い。」
と声をかけられました。すかさず
「全部終わってます。」と答えると
「わかった。」との返事。
そして
「こいつに鯵の頭の落とし方教えてやれ。」


そう言われた時、それはそれは本当に嬉しかったです。

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