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第16話 悔しさと決意。

寿司技術コンクール九州大会の当日、会場は熊本市でした。
周りを見渡すと、私よりも遥かに技術の高そうな先輩方が勢ぞろいしており、緊張で胸が高鳴りました。

今ではやや記憶が曖昧なのですが、私が参加した時に審査される内容は
・笹切り 
・鉄火巻き 一本
・干瓢巻き 一本
・かっぱ巻き 一本
・創作巻 二本
これらを指定された平皿に盛り付けて提出、というものでした。


いよいよ、技術コンクールがスタート。
私の立つまな板の上には、雑然とした道具や材料が置かれています。
スタートの合図とともに、それらを練習の時にやっていた道具の配置に整えながら、作品作りを始めました。

しかし全く整わない。。。
だってまな板も、器も、巻き簀といった道具類の大きさの違いに加え、用意されていたシャリの具合、それが手に馴染む感じも、練習とは全く異なっていたからです。

慣れない環境で緊張がピークに達し、頭が真っ白に。。。

自分がどんな動きをして、どのように巻いていたのか、ほとんど覚えていません。ただ、ただ、夢中で、日頃の練習の成果を発揮しようと、作業に取り組むことに必死でした。
制限時間ギリギリで作品を完成させたものの、最後の盛り付けの際に緊張で手元が狂い、鉄火巻きを床に落としてしまいました。
結果的に、作品は未完成と判断され、失格となりました。

その瞬間、とてつもない悔しさが胸に込み上げました。
コンクールチャレンジ当初から支えてくれた、大先輩のゆうさんの顔が思い浮かび、恩に報いることができなかった自分の未熟さに涙が止まりませんでした。

この大会で、ハッキリと経験値の差を感じました。
この時の悔しさはしっかりと胸に刻まれ、さらに成長したいと強く決意した出来事でした。

試合直後はショックと悔しさでいっぱいで、大会の行方など、全く余裕がなかったのですが、後日、巻物の部で金賞を取った職人さんのことを聞きました。
その職人さんはなんと!私と同年代で宮崎出身!
しかも長崎市内の栄寿司の職人さんでした。
さらに驚くことに、私と同門だったのです!

その職人さんは最終的に、全国から集まった技術の精鋭達が参加する本大会の巻物の部で金賞を受賞。なんと日本一に輝きました。

ショックと悔しさしか残っていなかった大会でしたが、この話を聞き、この方と同じ舞台に立てたことを誇りに思うと同時に、その技術と結果に心から感嘆しました。そしてあらためて、さらに成長したい、成長できる!と感じた瞬間でもありました。


※少しだけ補足。
日本一になった職人さんがいた長崎市内の栄寿司さんは、父が修行した栄寿司の暖簾分けのお店だったんですね。寿司屋って同じ様な名前が多かったりしますが、これは暖簾分けのお店であることも関係します。(もちろん、全く関係なく、たまたま同じ名前ということもありますが。)
同門とは一般的には「同じ先生の元で学んだ人」ということです。なので今回のことを例えるなら、同じ大学で同じ時期に学んでいた、全く知らない同級生が優勝した、みたいな感じでしょうか?
私が驚いたのと、やったるぞ!という気持ちになった理由が少しはお分かりいただけたかな?(笑)

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