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第15話 すし技術コンクールへのチャレンジ

「おい、お前、今度すし技術コンクールに出るだろう?」
「いや、どうするか悩んでるんですよね…」
「何言ってんだよ、出ろよ!」

そんな会話が少しずつ聞かれるようになっていました。

「すし技術コンクールって何なんですか?」
「4年に1度開催される、すし職人たちの技術を競う大会だよ。
俺たちはみんなこれに参加してきた。
ほら、ゆうさんは全国で銀賞を取ったし、やすおさんも全国で銅賞を受賞した。
一心鮨の登竜門なんだ。」
「それって、僕も参加できるんですか?」
「もちろんだ。ただ、まだ握りは早いから、巻物の部門でトライしてみたらどうだ?」
「ありがとうございます!ぜひやらせていただきたいです!」

宮崎に戻ってから目立つ活躍ができていなかったと思っていた私。
仕込みを任されるようにはなりましたが、それでも自分の技量がどのくらいまで伸びているか確かめたいと思っていたので、先輩たちが迷っている中、私はいち早く手を挙げました。もうとにかく早く技術を身につけ上に上がっていきたかったんです。

そんなやりとりをみていたコンクール入賞経験のあるゆうさんが
「よし、一洋。俺がお前に教えてやるから、毎日1時間、仕事が終わったら一緒にトレーニングしようか。」
と声をかけてくれました。

※ゆうさんは、一心鮨本店で父の片腕として活躍していた花形板前で、
私が一心鮨光洋時代に大変お世話になった方です。
現在は宮崎市青島で人気店「ゆう心」の親方を務めています。

「本当ですか⁉ ゆうさんが教えてくれるんですか‼️ありがとうございます‼」
と、思ってもみない申し出に大歓喜でした。
そして、この挑戦が、まさか自分の成長にこれほど影響を与えるとは思いませんでした。

その日から、朝や休憩時間は自主練習、仕事後には横について教えてもらう日々が始まりました。

まずは80グラムのシャリを均一に取る練習から始めました。その際、手に米がつかないよう気をつけることが求められました。最初は手に米がたくさんついて苦労しました。どんな方がやっても必ず、最初のうちは手に米がついちゃうんですよね。しかし練習を重ねるうちに米がつかなくなっていくんです。
次に取り組んだのは、巻物の分量のシャリを取る練習。巻物用のシャリって握りとは違って量が多く、手のひらの中に入らないんです。だから、おにぎり大のシャリをおひつから取り、両手で円柱に整形していく必要があります。これらをまな板の上で何度も繰り返し練習しました。シャリを伸ばして広げ、整形していく、という動作を、何度も何度も繰り返しました。
それができたら海苔にシャリを敷く段階に進みます。海苔に敷く前に手に米がついては進めませんし、量が多かったり少なかったりともたもたしていたら海苔がダメになってしまいます。
ここまでができるようになったら、さらに美しい巻物に仕上げるため、シャリを置く配置についても細かく指導を受けました。

「一洋、海苔のこの部分に山を作りなさい。ここに山を作る理由は、巻いた後の海苔巻きが垂れてしまうのを防ぐためなんだよ。」
そんな風にひとつひとつ、理屈も交えながら教えてもらいました。

コンクールに向けたトレーニングのおかげで、はじめは1本巻くのに1分かかっていたかっぱ巻きも、1分で3本巻けるようになりました。そのうち、ただ巻けるだけではなく、何度やっても量や形など正確に巻けるようになり、次のステップである細工巻きもできるように。
やがて、それら全てを規定時間内に巻き終えられるようになりました。

さらに先輩たちはスポーツ選手のフォームチェックさながら(笑)
私の作業をビデオで撮影し、立ち振る舞いや手の動かし方、いかに早く丁寧に作業を行うかなど、細かい部分まで徹底的に教えてくれました。
毎日が大変でしたが、ゆうさんのみならず、先輩方のサポートのおかげもあり、自分の技術が確実に上達していくのを実感でき、とても嬉しかったです。


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