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第20話 木宮一高の想い、夢が詰まった一心鮨 光洋

ある晴れた日のこと。
突然、父、一高から
「もう一軒、新しい寿司屋を開きたいんだ。」
と告げられました。

その言葉に、僕は一瞬耳を疑いました。
そしてすぐに
「え……やめたほうがいいんじゃない?」
つい、反対の言葉が口をついて出てしまいました。

というのも、自分なりにいろいろと勉強している中で、どうしても大型店舗より、小型店舗の方が店のこだわりを反映しやすく、高級店として向いていると考えていたからです。
だからこそ、父が考えていることが少し理解できなかったのです。

「おふくろはどう言ってる?」
そう尋ねた時、父の顔に少し困惑の色が浮かんだのを私は見逃しませんでした。

「あまり賛成はしてくれてない。」
「じゃあ、やっぱりやめたほうがいいんじゃない?」

実は僕と母は、新しい店舗の開店には反対だったんです。
なぜならこの頃、一心鮨や回転寿司の一番星が、地方の大手回転寿司チェーンの進出によって、緩やかではあるけれど、売り上げが落ち込み始めていたんです。そんな中、さらに大きな店を構えるという父の考えには、やはり、どうしても賛同できなかったんです。

周りの環境はそんな状況ではありましたが、ありがたいことに、一心鮨は連日忙しい日々が続いていました。特に接待需要で希望が多い座敷は満席で、予約を断ざるをえないことさえありました。そんな様子を父は勿体ないという気持ちで見ているようでした。と同時に、「応えられなくて残念だ。」とも感じていたのだと思います。
だから、より多くのお客様をもてなすために、広い座敷が必要だという強い信念が生まれていたようです。そして、座敷のすべての席から眺められるような庭。それも、里山の風景を思わせる自然な雑木林の庭。実は、そんな店を作りたいという夢もあったのです。

「(今の)寿司屋では、どうしてもお客様が急いで食べなければならない。俺は、ゆっくりとした時間の中で、心も口も豊かになる食事を提供したいんだ。それが俺の夢だ。」

父がそう言った時、僕の胸の中で反対する理由はすっかり消え去りました。
そして、常にお客様のことを想って物事を考え産まれた父の夢を、心の底から応援したいと思いました。

そして、ついに2003年(平成15年)9月25日――
父と母の結婚記念日の日に、新しい店舗が完成しました。
その名は「一心鮨 光洋」。
母の光代、四男の一光、そして僕、一洋のそれぞれの名前から一文字ずつ取り、座敷の名前には一成、一樹、祖父の一好、祖母の美穂の一文字ずつが入れられました。
店全体に、家族を大切に思う父らしい、愛情あふれる命名が施されていました。

そして、この時からこれまでの一心鮨は本店と呼ばれる様になり
一心鮨 本店・光洋・そして回転寿司の一番星の3店舗を展開する寿司屋となりました。

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