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カナダに住んで64日目、それでもやっぱり『他人の靴を履く』。



よく晴れて雪も溶けて街の色が見えてきて、"もう春かな〜"なんて浮かれていた矢先の大雪。

壊れた充電器も無くなりかけの歯磨き粉も買いに行けずに数日間を引きこもって過ごしてしまう。


"大雪が降ったけど大丈夫?"


その一言も相手(文化)によっては負担になりうると思い、本当に伝えたい相手ではなくサラッと受け答えしてくれそうなカナディアンに送った。



1.最近の生活



Tim Hortons というコーヒーチェーン店で、ブラックコーヒーを頼んだら"ブロッコリースープ"が出てきて、それはそれで美味しかった。

中国スーパーですごく怒ったような表情で母国語を話す店員さんが、質問したら信じられないくらいの笑顔で対応してくれて嬉しかった。

シェアハウスで隣の部屋のインドネシアの男の子がもうすぐオーナーさんになる経営者だと知って、大きい鼻歌の謎が解けた。


街の新人から生活者へと近づいていることを意識しながら、知らなかった頃には戻れないのだと変に感傷的になったりもしている。



2.ちょこっと福祉のこと



考える時間がある分、いつまでも守られる立場ではいられないのだと悟った自分がいる。

社会は上手くまわっていないのだから生きることは闘いであるとも考えるようになった。


部屋のオーナーさんは"カナダでチップを稼いで(福祉は政治に任せて)たくさん遊びなさい"と話していたけど、わたし世代の老後には福祉システムはどうなっているのか懐疑的だし。


週に1回程、訪問介護で通っているクライアントさんは甘やかしつつも英語の間違いを指摘してくれたり、ビザや福祉の仕組みを教えてくれたりするけど、"カナダは福祉職が足りてない"ことが明らかだったりする。


(現在、彼自身はリッチな部屋に住み、彼への補助金から十分なお給料を貰っているのでインフレーションってすごいな〜とは感じるけどね。)



3."エンパシー(他人の靴を履くこと)"について



"ヘイ、イエア、雪のおかげで仕事が入ってむしろ稼げたよ!美術館に行こうよ!"


期待通りの明るい返事を見て、やっと重い腰を上げてスーパーへ行くことができた。


結局、わたしはこういう"人間らしい心のやり取り"がエネルギー源なのだと実感する。



"ただ、エンパシーは守りたい"と強く思った。


"empathy(エンパシー)"とは「その人の立場になったことを想像して、どのように感じているか、どのような経験をしているかを分かち合う能力」とされている。
エンパシーとは?-あしたメディア



この言葉を印象つけてくれたのは、ブレイディみかこさんの『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』という1冊。


イギリス在住の社会派エッセイストで、代表作には『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』等がある。


彼女の魅力は、混沌とした社会を専門的に分析するだけでなく、悲惨な状況とも丁寧に向き合い、生活者として母としてそのエピソードを共有してくれるところだ。


"他者の靴を履くこと"の実践を続けている彼女をわたしはとても尊敬している。




わたしはカナダに来て、他人の靴を履くには至らずとも、他文化に触れて社会を見る目が変わって少し視座が高くなったつもりでいる。


だから、"エンパシーを守ること"は同時に"シンパシーを制限をすること"だと覚悟もしている。


冒頭の"大雪、大丈夫?"も雪国に住むカナディアンにとっては挨拶代わりだと知っていながら、慣れない海外生活でシンパシー(同情)が便利なのでつい使いすぎてしまうことを振り返る。


でも、わたしが望んでいたのは挨拶ではなくて、相手にとって本当に必要な言葉を必要な場面でしっかりと伝えることだった。



4.訪問先でわたしの靴を履いてもらった話



先日、訪問介護のクライアントさんがあるドラマを教えてくれた。


元マフィアのアメリカン主人公が、逃亡先として選んだノルウェーの小さな街で生活していく様子を描いたコメディなもの。

聞くと、"とてもアメリカンな作品だけど、北欧の文化や景色を楽しめて良かったよ"とのこと。

以前にわたしが北欧に行きたいという夢について拙い英語で話したあとで、その気持ちに寄り添うために観てくれたのだと分かった。


実際にそのドラマを観たのだけど、イメージ通りのアメリカン主人公が北欧のど田舎で暮らす人々のペースに戸惑う感じがたまらない。

"そうそう、わたしは北欧こそ平和だと思っているし幸せのヒントが学べると思っている"と、伝えきれない思いまでも共有できた気がして嬉しかった。


他人に自分の靴を履いてもらった経験だった。


そのやり取りは彼にとっても重要で、全身麻痺ゆえに支援者(わたし)との関係性が体の調子や食事、睡眠の質を大きく左右するからだ。

良い人でいれば良い訳でなく、時にはブラックジョークやバッドワードで盛り上がりながら、身体の強張りや負担を減らすことも大切な時間であったりする。

わたし自身がどのような人であるかを知ってもらえる安心感のおかげでその場で心を開いた支援ができて、結果として効率と楽しさが返ってくる。


このような経験を積み重ねて、"エンパシーを守る以上に、より豊かに高めていくこと"に繋げていきたいと心から思った。



そして、来月も変わらずに、頭も心も身体も使ってこの福祉の仕事を楽しもうと決めた。





とは言いつつも、仕事ばかりでなく、しっかりとプライベートも楽しんでいます。

よかったら、覗いてみてくださいね〜

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