見出し画像

あらゆる創作の悩みを解決する……かもしれない本のご紹介~「物語のつくり方」~

「クリエイティブ」というのは、実は案外論理的なものだったりする。
 勿論発想力が肝要な部分もあるだろう。だが発想力だけでは曲は書けないし、刺繍も出来ない。音楽コードとコード進行だったり、ステッチの刺し方だったりを知らないまま、むやみやたらに始めたところで、形に出来るのはごくわずかな天才だけだろう。
 こと小説においても同じである。だというのに、自分も含めて何故か発想力とか想像力の方に目がいきがちなのは何故だろう。
 個人的な考えで申し訳ないが、一つ理由を挙げるとすれば「最初から文章を書ける人が多い」という部分が大きそうだ。他の何かを創り出すような趣味は、新しく基礎を学ぶ必要がある。一方、文章生成はある程度親しみがある人が多いし、実際、頭の中に浮かんだものを取り留めなく文字に起こすことは私にも出来てしまうくらい簡単だ。しっかりとした文章構成や文章を分かりやすくするための工夫など、考えだしたらキリが無いが、「文章」としての見てくれを整えることはある程度の人が出来ると言って良いだろう。
 故に、既に基礎が出来上がっていると錯覚しやすい。
 或いは、基本的な枠組みを使うと型に嵌ったつまらない物ができあがる、という誤解もあるだろうか。正直なところこんな主張をしている人を見たことが無いので、理由として適しているかは怪しいが。
 とにもかくにも、こと文章を介した創作というのは、基礎を疎かにされがちだと思っている。かくいう私も深く考えずに書いてきた人の一人だし、文章術の底なし沼に囚われた身でもある。
 今回はそんな悩める文字書きを救うかもしれない一冊を紹介する。


「プロ作家・脚本家たちが使っている シナリオ・センター式 物語のつくり方」(著:新井一樹、日本実業出版社)

この本を読もうと思ったきっかけ


 いい加減創作をしたくて堪らなかったからである。そして、溢れ出る創作意欲と裏腹に、さっぱり筆が進まないからである。
 筆が進まない原因は様々あるが、とりあえず色んな人の基礎を参考にしてみようと思いこの本を購入した。「物語のつくり方」というタイトルが私好みだったというのもある。

どんなことが書かれているか


 著者の祖父が設立した「シナリオ・センター」で実際に教えられているノウハウが詰まった一冊だ。シナリオ・センターというのは、プロの作家や脚本家を何人も輩出している脚本家の養成機関のことだ。映画やゲームの制作会社向けに研修も行っているらしい。そこで実際に教えている技術を元に本にしたというのだから、それはもう凄いことである。
 著者曰く、物語というのは「何を書くか」と「どう書くか」の掛け算で成り立っているという。「何を書くか」というのは人それぞれ違うもので、こちらが発想力や想像力が試される部分。対して、「どう書くか」というのは技術、所謂ロジカルな部分のことだ。プロはこの「どう書くか」が確立しているから、余計なことで悩まず、「何を書くか」のみに集中出来るので面白い作品が生まれると言うのだ。何とも耳の痛い話である。
 そしてこの「どう書くか」のみに重点を置き、解説をしたのが本書という訳だ。
 例によって詳細を知りたい方は是非本書を読んでいただきたいが、軽く本書の内容に触れると、初めの部分で創作についての誤解を解き、その後設定やキャラクター創出など細かい技法について触れていくという構成になっていた。全部読んでもいいし気になるところだけ読んでもいいという形式で、私は相変わらず全てを読んだ。
 私の場合キャラクター創出は割と得意な方なのだが、それでもキャラクターについての項は非常に勉強になったので、得意だと自負している部分でも読み進めてみたら新たな発見があると思われる。

この本を読んで感じたこと


 私は創作は好きだし、想像力に関してはそこそこの自信があるが、私の思考が創造的かと言われると疑問が残る。
 私は基本的に人の真似しか出来ない。人の優れた部分を真似して、欠点に見える部分は反面教師にして気を付ける。そうして人を分析した情報からこうしよう、ああしようを決めているので、決して創造的ではない。
 それに真似は所詮真似なので、参考にした人には敵わない。私が出来るのは所詮、猿真似だということだ。
 この人の後追いしか出来ないことは、私にとってコンプレックスの一つであった。皆何か突出して出来ることがあるのに、私には何も無いと思っていたからだ。
 そしてその「猿真似しかできない」というコンプレックスは、創作において特に強力なものとなる。他人のアイデアを膨らませることは出来るけれど、自分が出したアイデアは凡庸極まりない。他人の真似は出来るけれど、オリジナリティのあるものは思いつかない。
 何につけてもそうだから、「自分が書かなくてもどうせ誰かが思いつくから私が書かなくたっていいんだ」と物凄いいじけ方をした。今でも心のどこかでこの考えは居座っている。
 けれど、本書の中にあった「あなたがいまから書こうとしている物語は、他の誰にも書けない」という一言と、鍛えれば誰でも手に入れることの出来る創作技術のおかげで、少し心が軽くなった。
 技法を真似することなら私にだって出来る。
 もしかしたら、余計なことに脳の回路を使っていたせいで、面白い物語を思いついていなかっただけかもしれない。
 技術は一朝一夕で身につくものではないけれど、今まで散々真似をしてきたのだから、やめなければいつかは身に付けられるだろう。
 希望的観測は嫌いだが、この本は間違いなく、私にとっての希望の書だ。

まとめ


 創作をする全ての人に読んで欲しい一冊だと思う。
 けれど、正直創作なんて縁が無いと思っている人にも読んでほしい。きっと「ここも工夫されているんだ!」と、創作物を見るのがより一層楽しくなると思うから。
 そうして自分でも創作をしてみたいと思って頂けたら何よりである。私は書くことも勿論好きだが、人の創作物を読むことも同じくらい好きだ。この本の紹介を通して、創作物と創作に携わる人口が増えてくれれば、この上なく嬉しい。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?