『チェンソーマン』で読み解く『天上位階論』
今回は、天使の話を書く。
内容は簡単なのだが。ところどころ複雑な部分がある。わかりやすくおもしろい内容を目指して、書いてみる。途中、『チェンソーマン』と比較していく。
キリスト教の天使は9つに分類される。
高位は、セラフィム(熾=炎)・ケルビム(智)・スローンズ(玉座)。たとえるなら、大臣や閣僚に相当する。
中位は、ドミニオンズ(統治)・ヴァーチューズ(美徳)・パワーズ。秘書や役人といったところ。
低位は、プリンシパリティーズ(公国)・アークエンジェルズ・エンジェルズ。公務員や軍人か。
イザヤ書 6:1-4
「私は、高く高く玉座に着座された主を見た。彼の上にはセラフィムがいて、それぞれ6枚の翼を持っていた。2つの翼で顔をおおい、2つの翼で足をおおい、2つの翼で飛んでいた」
セラフィム(単数形:セラフ)が言及されているのは唯一、ここぐらいである。神を守るといっても、あかりを灯すだけの役割な可能性。
一方。ケルビム(単数形:ケルブ)は、創世記・出エジプト記・サムエル記と、何度も言及されている。
サムエル記 上22:11
「神はケルビムに乗って飛び、風の翼に乗って舞い上がった」
エゼキエル書 14節
「ケルビムは人・獅子・牛・鷲の4つの顔をもつ」
神がケルビムに乗ったーーと描写されているが。より細かくはこうで。馬車をイメージしてほしい。スローンズは馬、馬車を操縦するのがケルビム、馬車に乗るのが神。
セラフィムとケルビムには、翼がたくさん生えている。位が高いから。
複雑。当時の人々も、しっかりと混乱した。セラフィムとケルビムの区別があやふやになったり、見た目が簡略化されたりしてしまった。
ケルビムは神のすぐそばにはおらず、エデンの入口を守っている。神が移動をする時、役割を果たす。(ビームは、やはり、ケルビムからの着想だろう。普段は地中に待機しているし、戦う主人公を背に乗せるシーンもある)
『チェンソーマン』は、悪魔の驚異から世界を守るとされている側が、実際は悪魔的な存在であったーーと、そういうストーリーである。
「悪魔」の名前が「天使」からつけられていることは、この物語において、自然なことだ。
ヴァーチューズは、奇跡を起こすなどして、人間の神への信仰が強まるように働く。プリンシパリティーズは、国や教会などの組織を保護する。
これら位の高い天使は、基本、人間の前に現れたりしない。個々人には関わらない。
ラファエルとウリエルもよく聞くが。聖書に出てくる大天使(アークエンジェル)は、ミカエルとガブリエルだけだ。
ミカエルは、天使たちの王子として描かれている。ガブリエルは、自らを神の御前に立つ者と表現する。リーダー格なのがわかる。
黙示録12:7
ミカエルと他の天使たちが悪魔と戦争する様子が、描かれている。
天界で実際に敵と戦うのも、下界で細かい仕事をするのも。アークエンジェルズとエンジェルズばかりだ。
アークエンジェルズは、国際情勢などの問題を解決する。グローバルなんだな。エンジェルズは、天界ヒエラルキーの最下位。平社員だ。
人間に直接関わる。主にメッセンジャー、時に、守護者として。
クリスチャンでも、普段から、こんなに細かく天使を分けて考えてはいない。
『天上位階論』。5世紀頃に書かれた天使の位の説明書。今回しているのは、そういう細かい話だ。
キリスト教とイスラム教が、勢力を拡大しようと競いあっていた頃は、以下のような絵が描かれていた。
これはアークエンジェルのミカエル。先ほどの画像のミカエルが踏みつけていたのは、ヘビだったのに。ここでは、人間を足げにしている。異教の人たちか。
キリスト教内で、カトリックとプロテスタントが、それぞれの影響力を競いあっていた頃(17世紀)。
同性愛をにおわすような絵が、多く描かれた。まさに「におわせ」で。こちらの宗派はこのようなことに寛容ですよ〜と暗に示して、新規入会を誘っていたのだ。
堕天使の話もする。
「権威ある地位を守らず本来の住まいを捨てた天使たちは、大いなる日の裁きのために永遠の鎖でつながれ、暗やみに閉じこめられている。
ミカエルと天使たちは竜と戦い、竜とその天使たちは反撃した。
大いなる竜は、全世界を迷わせる悪魔あるいはサタンと呼ばれる古代のヘビから、投げ落とされた。
彼は地上に投げ落とされ、その天使たちも一緒に投げ落とされた」
ルシファーは最も美しい天使だった。元はセラフで、6枚どころか12枚の翼をもっていたという説がある。
ダントツ1位で (?) 驕り高ぶってしまったのだろうか。
ジョン・ミルトン『失楽園』は、ルシファーは、サタンが天使だった時の名前ではないと示唆している。
ルシファーとは、「明けの明星」や「輝きを広げる」という意味なのだが。サタンの強さを表すだけの言葉ではないかと。サタンが天使だった頃の名前は、別にあるのではないかと。
天使だった頃の名前は、この世から消えてしまった。サタン(反逆者という意味)と呼ばれ。元の名前は、みんなから忘れ去られたのだ。
堕天使は他にもいる。
サマエル。名前の意味は「神の悪意や毒」。
ユダヤ教では、サマエルはモーセの魂を天界へ案内する時に不手際を起こし、モーセに目を潰されたとされている。さらに、神にも怒られた。
堕天使になった。サマエルに同情する。ブラック企業すぎるだろ。
アダムとイヴにリンゴを食べるよう唆したヘビは、サマエルの化けた姿だった説がある。
アザゼル。「スケープゴート」の起源。
ヤギの生贄を神に1頭・アザゼルに1頭、差し出すという儀式に、由来。
アザゼルが地獄へ堕ちたのは、人間の女性と夫婦になったから。そのため(私利私欲のため)に、200人の天使を地上で働かせた。
人間との性的関係だけでなく、公私混同もとがめられたのかも。
堕天使 → 悪魔は、人間を誘惑したりする。罪を犯させようとする。
このことを知っているだろうか。
キューピッドは天使ではない。
では、キューピッドとは何なのか。順を追って説明していく。
古代ギリシャ・ローマ時代、アフロディーテ(ヴィーナスと同じと思ってよい)の従者として描かれていた、翼のある青年や少年。これがクピドだった。
後に。従者ではなくアフロディーテの息子だ、という解釈が人気になった。すると、クピドは幼少期の姿で描かれるようになった。
キリスト教が拡大すると、ギリシャ・ローマ文化のクピドは一旦、下火になった。異教の神話とされたため。ルネサンスで、古代ギリシャ・ローマの文化が再び、人気になった。
アフロディーテ = ヴィーナスの絵が、また、たくさん描かれるようになった。息子とされていたクピドも、必ず、一緒に描かれた。
長く時間があいていたため、人々は、この存在が何なのかわからなくなっていた。翼があるし小さいから下位の天使ではないか、と。なら、エンジェルではないかと。
これが、クピド(英語ではキューピット)と天使が混同された流れである。
こんがらがるでしょう。昔の人たちも今のあなたと同じ。こんがらがったのだ。笑
ギリシャ神話に「エロス」という神がいる。その別名も「クピド」(英語でキューピッド)。
しっかり区別して描かれているものの中でだが。現代の私たちが見わけるとしたら。違いは、弓矢をもっているかどうかしかない。
クピドの特徴は弓矢をもっていること。
エンジェルは弓矢なんてもっていない。エンジェルには、「恋のイタズラ」なんてしている暇はないのだから。
エンジェルたちは、(株)天界の平社員だ。戦闘や下働きに忙しいのである。
必要悪?そうね、そういうものもあるわね。けれど、その場合。国家がそいつを常に鎖でつないで、支配し続けていないとね。あんたたちのような存在も、私の飼い犬としてなら、息をしていてもいいわよ。
画像の和訳でも、原作やアニメの台詞そのままでもない。私の書きかえ。
神が、闇と光を交互に繰り返す24時間を創造した後、天使の1人が神に尋ねた。「これから何をするつもりですか?」神は答えた。「もう終わりにしようと思う」
おしまい