【蒸留日記 vol.133】倉敷ハッカ'ハクビ'の蒸留。 #ハッカ蒸留part3
北海道に生息するハーブ蒸留家のエフゲニーマエダでっす!どうも。
さてさて!
昨日の #ハッカ蒸留 part2を書き終えたところでメントール採油用の北見ハッカの収穫と蒸留を完了することができました!
が、しかしハッカ編はまだまだ終わらず、、、
実は北見ハッカとの"香り比較用"に違うハッカ品種:南方ハッカ品種の倉敷ハッカ'博美'も並びに栽培していたのでした!
お次はこの倉敷ハッカ'博美'の蒸留パートへと移ります!
●日本ハッカ'博美'のプロフィールを解説!
ハッカの栽培と品種作出は北海道の北見で突然勃興したワケではなく、江戸末期より広島・岡山県あたりで静かに始まっていたそうです。
当時の清涼薬剤としてクスノキ科楠から得られる樟脳がありましたが、このほかにシソ科の野生薄荷からメントールが得られることが分かり、農商者により半ば秘匿的・独占的に栽培が行われていたようです。
時代が進んで明治・大正時代には薄荷の栽培と販売市場が確立され、ハッカ産地も岡山県から山形県や北海道・北見など次第に北方へ広がっていったようです。
時代の流れでの栽培地拡大にともなって地域特産といえるハッカ品種が誕生していき、先に投稿(vol.132にて)していた日本薄荷'北斗'は北見エリアでの作出品種、本稿で蒸留する日本薄荷'博美'は倉敷エリアで作出された地域それぞれのハッカ品種になります。
倉敷ハッカ'博美'=唯一の純日本血統種ハッカ
栽培歴史の中それぞれの地域でいくつかのハッカ品種が作出されましたが、エフゲニーマエダが今年から栽培し今回蒸留する倉敷ハッカ'博美'は日本:本州に自生している国内種の薄荷同士を交配させて作出した、まさに日本純血のハッカ種であるようです。
というのも、栽培用ハッカの品種作出においては、メントールの濃度やハッカ油の採油量を向上させるために洋種ハッカ(海外原産)であるミント類とを人為的に交配させ生産性を向上させた品種(ホクト含む)を作っていますが、、、
改良品種の開発戦略で海外産ミントのDNAが組み込まれていく中でも、倉敷ハッカ'博美'は国内種のみで精油収量向上と芳香性を向上させることに成功した品種のようなのです〜!
「日本の国土で育まれた日本ハッカ本来の香り」といえる誇らしい品種が、本稿で扱う倉敷ハッカ'博美'(ハクビ)の魅力なのです〜〜〜\(^∀^)/
当裏庭ハーブ畑での導入意図。
まぁ上記にチラっとそれっぽい内容書いちゃってるんですが、そもそもハッカ栽培を決めた理由としては「清涼成分を入手するため」。
で、高メントール含有かつハッカ油高収品種である北見ハッカ'北斗'をまず先に清涼精油用に栽培決定しました。(メントール濃度よりも産油量を優先)
しかし、ハッカ文化を調べているうちラベンダーのようにかなり多数のハッカ品種が歴史の流れとともに作出され、現在も多数の品種が苗販売されていることがわかり、、、
海外別種ミントの遺伝子を取り入れた香りではなく、純日本育ちのハッカの香りとも比較してみたかったため、北見ハッカとの香り比較として「日本固有種のハッカ」「芳香性が良い」「生育比較」という条件で倉敷ハッカ'博美'の採用・栽培決定に至ったワケなのであります。
定植本数は20本。あくまで香り比較用なので株数は少なめ。
畝・露地植えである北見ハッカ'北斗'とは異なり、花壇での床上げ方式で栽培していました。
北海道より明らかな暖地(瀬戸内気候)で育つ作物であることを想定し、排水性を上げるために花壇での床上げ方式としていました。
また数十年放置された元畑の土がどれほど再利用に向くのか、生きている土であるのかを調べるためにも花壇方式を採用しています。
■北見ハッカ'北斗'との外見比較。
育てていて第一にわかりやすい部位である、葉っぱの比較。
海外産ミントDNAを含む'北斗'は葉が円心形でフチがギザギザ。
対して純日本血統の'博美'は葉のギザギザが目立たず卵倒形。
おまけに'博美'は葉触りに若干のうぶ毛/フワフワ感を感じる手触り質感まで違います。ホクトは葉っぱが比較的厚く硬めなんですね。
葉っぱをやさしくサラッと撫でてみても香りがわりと違っていることに気づきます。
北見ハッカ'北斗'は嗅いですぐに鼻腔が冷却されるような強烈なメントール感を強く感じますが、倉敷ハッカ'博美'はブラックガムの苦くビターで甘い香りが第一に感じられるのです。
「花」に関しては、ハッカ(Mentha canadensis cv.)同士で比べるとかなり似通った外見となってしまうようです。色も薄桃色の緻密な花を咲かせます。
対して大きく性状が異なるのが有名なミント種であるスペアミント。
外見は異なりますが種間交配は可能なようで、スペアミントと薄荷を掛け合わせて多数の改良ハッカ品種が作出されています。
ウチのハーブ畑での倉敷ハッカの苗定植日は8/7と、ホクトの7/12に比べてひと月ほど遅れましたが、秋深まり夜の気温が5℃に差し迫ることも珍しくなくなったこの頃の低気温にも葉を枯らさず耐えている様子で、倉敷ハッカ'博美'はどうやら北見ハッカ'北斗'より高い耐寒性を持つのではないか?と思われました。
育ち方も’北見ハッカ’北斗と比較すると、'博美'は芽先が空へと向かい枝葉が立ち上がる性質があるようです。
北見ハッカ'北斗'の場合、育つ土壌の栄養量や水分量にもよるのでしょうが、草丈が一定の背丈達すると這い根(ランナー)が這い回る性質が強いようです。
■材料&蒸留準備!
先に行ったハッカ編#part1,#part2での実験蒸留のデータから、20株ある倉敷ハッカは大きく3回にわけて収穫・蒸留することになりました!
ハッカ素材の処理方法は粗刻みがベストということになっていたので、そこまで細かく刻むことなく蒸留釜へと充填します。
しかし北見ハッカと違い、枝葉が長めだったので釜に収まるよう最低限は刻んでコンパクト化しています!
南方系の薄荷品種である倉敷ハッカを北海道で栽培している例はかなり珍しいと思いますが、10/18という時期も時期ながらいわゆる紅葉である葉緑素のアントシアン化(紫変)が起こっていました。('博美'に黄葉は見られず)
しっかり寒さは感じているようでした!
北見ハッカの場合、葉は黄変し枯れ落ちてしまっていました。
蒸留データ。
蒸留1本目の素材重量は929グラム。
若干かさばったので押し込み気味で蒸留釜へ充填した。
蒸留2本目の素材重量は757グラム。
2本目もハッカがややかさばったので押し込み気味で充填。
蒸留3本目の素材重量は585グラム。バケツが雨滴で濡れて多少グラム増。
蒸留3本目はいままでより打って変わって素材量が少ないので押し込まず釜に充填している。
素材量≒すき間により精油抽出されやすさ/収油率は変化するのかをみておく。
それぞれ蒸留時間は1時間半/90分としました!
■蒸留結果は…!?
蒸留1本目のハッカ精油抽出量は5mLとなった。
蒸留2本目のハッカ精油抽出量はピペット計測で4mLとなった。
蒸留3本目のハッカ精油抽出量はピペット計測で2.5mLとなった。
これにて計3回の収穫蒸留で倉敷ハッカ'ハクビ'20株分からのハッカ油抽出が完了した!
1.収油率 - EO Yield
では、蒸留3回分の収油率を算出してみます。
先に蒸留した産業用品種の北見ハッカ'ホクト'の0.725%に比べると結構低い収油率で出ていますね!
北見ハッカに比べて倉敷ハッカの採油率は約半分ほどの数値になってます。
ということから、メントール採集やハッカ油生産においていっとき世界一の座を誇っていた北見での栽培品種はものすごい生産性を達成する品種改良を加えられていることがわかりますね…!!
(さらに細かく品種をみるとメントール濃度か産油量かでも分かれている)
2.香りとか - EO Scent
しかしながら産油量においてピカイチ品種である北見ハッカ'ホクト'とハッカ精油の香りを比べると、香りの違いは一目瞭然。
北見ハッカ'ホクト'の香りは精油・蒸留水ともに嗅ぐと即座に鼻腔が冷却されるようなメントールの強さ・イカツさ・パワフルさを感じますが、、、
芳香重視とされた倉敷ハッカ'ハクビ'の香りはまさにブラックガムのような甘みとビターな苦味を感じます。まさにブラックガムそのものの香り。
メントール感は香りを嗅いだだけではハッキリとはわからず、皮膚塗布などするとスーッと確かに感じられる程度でした!
■総評、まとめ。
経験として2024年度の精油抽出用ハーブ栽培では2品種のハッカを栽培しましたが、このように比較してもハッキリとわかる機能性の違いがありました。
虫除けかつルームスプレー的に香りを楽しみたい場合は倉敷ハッカを栽培・蒸留して精油を使い…
ネズミ除け・虫除け・強烈な清涼を味わいたい場合は北見ハッカの品種を栽培・蒸留するといった使い分けができるな〜という経験が得られました!
一応、どちらとも北海道気候での栽培は可能なようです。倉敷ハッカの越冬は不明。
栽培していての見た目的にカワイイなぁ〜と思ったのは、倉敷ハッカ'博美'の方!
そしてどちらのハッカ栽培でも言えることですが、まず虫がつきません。
毛虫や芋虫が付いているのを3ヶ月間まず見たことがありませんでした!
「虫嫌いだけれど庭で青々とした植物を育てたい!」といった場合、倉敷ハッカ品種を手に取ってみること当方オススメいたしますbb