tokyo
ビルとビルの隙間を冷たい風がすり抜け、無数の電気に目を細めては人混みの中信号を待っていた。22歳の夏、私は東京にいた。
何もかもが新鮮でキラキラしていてワクワクしていたあの頃、時にはホームシックになったりもしたが不思議な事にすぐ慣れてしまった。正直慣れたくなかった。東京に染まるとよく言うが染まってしまったのだろうか。
私の地元名古屋は生まれ育った街で大好きだった。
たまに何故自分は東京にいるのだろうとか思ったりもする。帰りたい場所がないから?仕事が楽しいから?何でもある東京だから?わからないけど、もう東京なんだな。東京なんだ。
恋愛したり仕事したり休みを過ごしたり、私は東京で生きてる。
生きているだけでお金がかかる東京
生きてるだけで、窮屈な東京
人混みに埋もれてしまう、東京
すぐ新しい店ができて人の入れ替わりが激しい東京
でもなんでかなあ、私はきっとこの先も東京にいるんだろうなと思う。こんなにも窮屈な、東京に。
でも一回皆んなで殺し合いとかして人数減らして欲しいなとか思うな。多すぎるもん。何て我が儘よね。人間って私利私欲な生き物で、現状に満足できないんだよね。
都内に飽きたり自然が見たくなったりするけど結局帰ってくるのは東京だもん
勘違いしちゃうんだよね、東京にいると。
たまに見上げた空が綺麗なだけで嬉しくなったり
人の視線、無愛想な顔とか声聞くだけで冷たいなとか思ったり。空はいつだって綺麗だってこと。人は温かい人が多かったこと、忘れちゃうんだよね。
もう限界です。疲れました。頑張る気力がありません。ってダンボールの切れ端に書いてコイン入れと一緒に置いてるオジサンが三軒茶屋の駅の地下通路にいた。そんな勇気があるならまだ頑張れるよ。甘いんだよ。まだ大丈夫だよ。
東京。
実家に帰らない理由を母に話した。きっとどこだろうと帰らない。東京にいなくとも帰らない。頑なだよなあ。家族って家族のようで遠く血が繋がっているだけの像。家族に拘りすぎている私は。きっと私だけが。
いつか自分だけの家族を作りたい。誰も心配しない、興味がない。価値観の違いなのか、尊敬できないのか軽蔑する部分があるからなのか。感情の行き場がなくただただ飲み込んだ。温かい家庭を作りたい。
東京。
出会っては別れての繰り返しだと思ってた今までは。でも違った。大事なものはすぐ近くにあって切りたくない糸がいくつもあって。大事な人たちが側にいてくれるからやってけるのかな。それが東京だったってだけで。大事な場所や居たい場所は自分で作る。
大好きだけど許せないの。
それが辛くてもどかしくて。悲しくて。
関係ないって思っても愛はあるんだ
私はこれからも東京で生きる。
見切りをつけ、現実味のある東京で自分の価値観を大事にして。自立していたいいつまでも。
風を切って人混みを掻き分ける。人混みの中をすり抜けて冷たい風を感じながら心地のいい匂いを吸い込み走る。どこまで行っても東京は東京で。走り尽くすことなんてなくて。強く逞しく自分の足で立てるのが東京なんだ
守りたいものを、壊したくない宝物を。
私だけのいくつもの系、絡ませないように。
2023.10
tokyo