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サマセット・モーム『世界の十大小説』を全部読んだ
2020年8月頃〜2025年2月。
世界の十大小説読破を目指すまで
『戦争と平和』を読む
村上春樹に毒されている。詳細は以前語った。
つまりこのような文章に出会うことになる。
死後三十年を経ていない作家の本は原則として手に取ろうとしなかった。そういう本しか俺は信用しない、と彼は言った。
「現代文学を信用しないというわけじゃない。ただ俺は時の洗礼を受けていないものを読んで貴重な時間を無駄にしたくないんだ。人生は短い」
『カラマーゾフの兄弟』の兄弟の名前を全部言える人間がいったい世間に何人いるだろう?
「Tik Tokで話題」の小説のうち10年後も名作として書店に並び続ける本がどれだけあるだろうか。「話題作」は多くの読者に受け入れられるのだから、言葉が平易で読みやすく地の文で展開される作者の主張といったノイズが少なく単純にストーリーが受ける。
一方私は、一度読んでストーリーに感涙したとしてもネタ勝ちで一度起承転結を知ってしまえばそれで終わりな小説を好まない。例えば年齢と経験を重ねて違う自分になったら違う読み方をできそうな気がする小説、言葉の美しさを反芻するためにすぐにもう一度頭から読み返そうと思える小説。そうしたものに出会っていきたい。
だから『ノルウェイの森』でトーマス・マン『魔の山』を読みながら語る永沢の言葉を受け、当然、時の洗礼を受けていないコンテンツに触れる時間はもったいないと思い込む。さして小説に詳しくない私が名前だけでも知っている小説たちはきっと時の洗礼を受けた名作なのだろうと盲信する。いつか読みたい本リストに『魔の山』や『カラマーゾフの兄弟』、『戦争と平和』を連ねていく。
2020年、コロナ禍。時間がある。読書にハマる。『戦争と平和』に手を出した。550人にも渡る登場人物、2794ページ19世紀ロシアへの旅。この頃はきちんと読書を記録する習慣がなかったのと、海外・古典・長編小説に慣れていなかったので詳しいことは覚えていない。正直に言って理解度は70%程度だったと思う。それでもただこれが不朽の名作かと納得した。圧巻だった。
『白鯨』を読む
『戦争と平和』を読みこの手の壮大な名作をもっと読みたいと思った私は「文学 名作」で検索した。そこで初めて『世界の十大小説』という括りを知った。読んで感動した『戦争と平和』、いつか読むはずの『カラマーゾフの兄弟』、他になぜか名前を知っていた『高慢と偏見』などがピックアップされている。
5作はタイトルが人物名。控え目に言って、特にタイトルから興味はそそらない。
・カラマーゾフの兄弟
・ゴリオ爺さん
・ディヴィッド・コパフィールド
・ボヴァリー夫人
・トム・ジョウンズ
3作は[名詞]と[名詞]の並列。各単語が何を指すのかいまいちよくわからない。
・戦争と平和
・高慢と偏見
・赤と黒
残るは2作。
・嵐が丘
・白鯨
『戦争と平和』を読むのに骨が折れたので短めでタイトルが可愛い『白鯨』を読むことにした。だって白ってカワイイしクジラってカワイイじゃん。他の作品は古そう・難しそう以上にタイトルから感じられるものがなかったから。
モーヴィー・ディックあるいは『白鯨』。作品の詳細はのちに語るが、これも『戦争と平和』と並びこれまでに読んだことのある日本の現代小説とは全く異質でいい意味でも悪い意味でもとんでもない作品だった。自分の人生の後年になって振り返った時「私が読んだ本のリストの中には『白鯨』がある」ときっと言うだろうと感じた強い読書体験。
『月と六ペンス』を読む
『戦争と平和』、『白鯨』がすごかったのだから『世界の十大小説』はきっとすごい作品群なのだろう。しかし再度よく調べれば十大小説はサマセット・モームという一人の小説家により選ばれた名作小説十選に関するエッセイだという。偉そうに括っているが多数決、総意で決めたのではなくただ一人の人物に選ばれた作品群。選者のことを信用できなければその十作に意味はないだろう。なので『世界の十大小説』の著者サマセット・モームによる、これまたタイトルだけは知っていた『月と六ペンス』をまずは読むことにした。
「ひまわり」で知られる画家ポール・ゴーギャンをモデルにした画家ストリックランドの足跡を追う物語。単に作中の出来事を箇条書きにしていったら大した事件は起きないのに途中からページをめくる手が止まらなくなった。通学中、電車を降りて物語を中断するのが憎い。二宮金次郎はかのような思いで銅像になったのかと思った。知らんけど。この作品の何が名作の所以なのか。深く頷いた訳者あとがきを引用する。
恋愛小説でもなく、冒険小説でもなく、壮大なロマンスでもなく、気の利いたトリッキーなミステリーでもないのに、一気に読者を引きずりこんで最後まで離さない。小説の力そのものを実感させてくれる。小説の面白さとは一体なんなのか、その答のひとつがここにあるような気がする。
この記事では十大小説に加えいくつかの小説に言及しているが、短く読みやすく小説の面白さを感じられて一番おすすめしたい作品は『月と六ペンス』である。
読書人生第二章を振り返る
思い込む
生まれてきた意味や使命などなく、あるのはただ個々人が勘違いの果てに選び取った「私はこれをして生きていく」という強い意志だと考える。
一人の他人を選んで一生添い遂げたい。子供ができたから立派で祝福される大人に育てたい。自身と同じ目的を持つ企業に属してより大きなことを成し遂げたい。革新的な技術を探し出すための研究に身を捧げたい。目の前にある一つ一つの命を救いたい。言葉を紡いで誰かの心を動かしたい。自分にしかできない表現を追究したい。もっと卑近でも消費者的でもいい。推しの幸せが私の幸せ、何でもいい。でも私にはそう強く思い込む成し遂げたい目的が何もない。
生きる目的がないから明日死にたいみたいな、切迫した感情ではないが、もし今事故に遭って生が終わるとしても悔しく感じない。あってもなくても変わらない命なら面倒なことが増える前に早めに終わって欲しい。自分の中で消極的な希死念慮と呼んでいる鬱屈とした感情が常に薄ら降り積もっている。
スポーツを見に行くのが好きだった。でもこの試合を見届けたいとイベント単発を楽しみにしばらく過ごして、終わったらまた次の予定を立てての繰り返しを人生の目的にしていくのは心許なかった。感染症の流行でいくつものイベントが簡単に吹き飛んでいくのを見てきたから。
そんなことを考えるくらい頭が暇になってしまったコロナ禍、私は「めちゃくちゃ面白い小説・世界の十大小説を全部自分の目で読み切るために生きていく」ことを当面の目的に定めることにした。時の洗礼を受けたコンテンツなのですぐに刺さらなくても人生のどこかで効いてくる経験になる気がして大変お得。数年単位で向き合える壮大な思い込みである。『カラマーゾフの兄弟』の兄弟の名前は調べれば出てくるので、教養として全員言える人はそれなりにいるかもしれない。しかし十大小説を全部読んだ人までは中々いない気がして、いい目的だと思った。
読み進める
第一章と時期的にオーバーラップするところはあるが、最初に『戦争と平和』を読んでから十作目を読み終えるまでの期間を読書人生第二章と定めることにした。
生きる目的を成し遂げたらその先がどうでもよくなってしまうので、焦らずじっくり読み進めることにした。何より、海外古典作品は読み進めるのが難儀でぶっ通しで読み続けたらすぐに挫折してしまうと思った。
ここでは読書人生第二章として世界の十大小説、合間に読んだ本をいくつか振り返る。読了年は以下の通り。
2020年:戦争と平和
2021年:白鯨
2022年:(世界の十大小説)、嵐が丘
2023年:カラマーゾフの兄弟、ゴリオ爺さん、高慢と偏見
2024年:デイヴィッド・コパフィールド、ボヴァリー夫人
2025年:赤と黒、トム・ジョウンズ
『戦争と平和』から『カラマーゾフの兄弟』の四作は約半年おきに一作ずつ読んだ。数ヶ月後、『ゴリオ爺さん』は十作中唯一、一冊完結と短かったので立て続けに2023年8月、『高慢と偏見』を読んだ。
2024年はバンドの趣味で忙しくしていてしばらく十大小説は進まなかった。しかし2024年11月からは一ヶ月に一作のペースで四作を読み終えた。
読み進めるうえで、個人の読書史として二つの出来事が大きかった。
まず、2022年3月に大学を卒業。理系の大学にはあまり多くない小説好きな大学院の先輩に「就職しても本読み続けてね」と言われたこと。この先輩からは『魔の山』を読んでからサナトリウム小説として『風立ちぬ』の読書案内をしてもらったことがあった。本が好きで人と繋がることがあるのかと思ったし、自分に付与された「小説が好き」のラベルを大事にしたいと思った。十大小説を知った時からコレクター精神により読破を目指したいと感じていたが、本当に腹を括ったのは大学を卒業した年の2022年8月、実際にモームのエッセイを読んでからだ。先輩のおかげで、就職してからも読書を諦めないと決めてモームのエッセイを手に取った。
もう一つは2024年6月、読書好きなメンバーがいるバンドにものすごく、ハマったこと。そのメンバーが好きなのは森博嗣。シリーズものをあまり読まない私にとって森博嗣の1シリーズ10作はかなりハードルが高く感じられた。しかし、もはや陶酔の域でハマり込んでいたので絶対にその人が好きな本を読もうと決めた。読み始めたら自分の興味がある分野のSFで面白く、中断期間を挟み2ヶ月ほどでWシリーズ10冊を読み切った。少し開けてSMシリーズも1ヶ月ほどで一気に読んだ。やればできるじゃん、と思って勢いがついた。また、そのメンバーの読んだ本の中に『デイヴィッド・コパフィールド』があったのでSMシリーズ読了直後から一気に十大小説を読み進めた。
読書メーターで「読んだ本」を眺めていると、好きな作家の本を読み進める、十大小説含めいつか読もうと思っていた名作を手に取る、図書館で適当に出会う、知人やSNSのフォロワーが言及していた本を探すのパターンに大別された。伊坂幸太郎、湊かなえ、万城目学あたりは完全に私の趣味ではなくて心理的に身近な他人の趣味だ。
振り返る
十大小説を全部読むと決めてから、小説に限らず色んな本を読んだ気がする。長期スパンで十作を読む、合間の息抜きで軽い本を読む、たまには別の頭を使いそうな本を読む。「読んで何も得られない本、読まないべき本はない」という持論を補強する体験の積み重ねだった。
今年ついに全て読み終えて、一番は決めた目的を成し遂げた達成感、二番目に名作の名作性を自分で語る資格を得た喜びがある。
しかし、そんなに大昔の日焼けした本でなくて、現代の日本で受け入れられている本にもしっかり良さや面白さがあると捻くれずに思えていて安心している。小説に限らず今流行っているものに触れて、人と感想を語り合う楽しさは格別である。
今、率直に言って当面の生きる目的を失ってしまった状況なのでなんか面白いものを見つけられたらいいな〜と思っている。
世界の十大小説について
雑感:作品ごとの心に残ったところの記録
『世界の十大小説』、各書からの引用を含みネタバレあり、低レベル、概要と感想。エッセイの章の順番に沿って記録する。一番古いと4年以上前の記憶を頼りに書いているため話半分で読んでいただきたい。
明日描き直したら変わるかもしれないくらいふわっとしているが、以下4観点を全作品でまとめた。
時間軸:描かれる時間の長さを評価した。
登場人物:人数の多さを評価した。
読みやすさ:文体、面白さ、 筆者の主張等鑑みて五段階で評価した。
おすすめ度:小説を読む習慣のある他人に勧めたい度合いを五段階で評価した。本を読まない相手は想定していない。
世界の十大小説(エッセイ)
サマセット・モームが求めるいい小説の条件が仔細に語られている。『最後に、小説は楽しくなければならない』はじめ共感できる内容が結構あったので、小説が好きな人は第一章だけでも読んだらいいと思う。内容はもう少し深く以下に書いた。
十作各作品への書評・人物評は結構辛辣なものもあるが、作品は作者の個性から逃れられないとして作者の背景まで詳細に紹介されているので、読書案内にはもちろん最適。前情報不要派の人は読み終えてから解説にした方が楽しく読めそう。
①トム・ジョウンズ/ヘンリー・フィールディング イギリス
唯一18世紀と古い小説なので身構えたが、かなり読みやすく物語を通してイベントが多く、ストーリーの進行が面白い方だった。
私生児トム・ジョウンズの出生の謎とソファイアとの身分違いの恋の物語。最後の章で結婚して終わり。主人公はカラマーゾフの兄弟の三男アリョーシャと近く誰にでも好かれるタイプで読んでいてストレスが少ない。敵役のブライフィルは嫌なやつではあるが、他の作品に出てくる悪役とは比べものにならない大したことがない人物のため単に小者な印象にとどまった。
ざっくり①幼少期編②ロンドンへの移動編③ロンドン編に分かれると最初の解説に書かれていた。準備とも言える①幼少期編は年単位で描かれるが②ロンドンへの移動編③ロンドン編は各章12時間から3週間とごく短い期間での出来事のため壮大すぎず覚えておくべきことが多くない。
時間軸:短い ①を準備編として捉えた場合、②③はとても短い。
登場人物:普通
読みやすさ:★★★☆☆ 古めかしい文体であるものの作者の主張が激しくないため読みやすい。
おすすめ度:★★☆☆☆ 面白いが敢えて入手困難、知名度も低いこの作品を読むより先に読むべき本がたくさんある。
すぐれた文体は教養のある人の談話に似ていなければならぬと言った人がいるが彼の文体はまさにそうなのである。
②高慢と偏見/ジェイン・オースティン イギリス
マッチングアプリの現代的な結婚小説である辻村深月『傲慢と善良』が人気であるが、そのタイトルオマージュ元が今作。
主人公エリザベス、最初は嫌な感じの人物として登場したミスタ・ダーシーの結婚で終わり。独身女性が自立して生きていくことは難しく、生活のための結婚が重要であった時代の結婚小説。
時代が異なるのでそうはならんやろ、な点もあれば、時代が変わってもそんなもんだよなと共感できる点もあり、現代日本版が出るのもその作品が人気を博すのも納得の内容。
多様性の現代でモテ・結婚に繋がる要素は婉曲的に描かれるシーンも多いなか、古典作品ではかなりはっきり書いてあるのが面白い。
男性や結婚生活に憧れているわけではないけれど、結婚こそがシャーロットの目標だった。教養は豊かでもわずかな財産しか持たぬ若い女性にとって、結婚は唯一人に恥じることのない生活の糧であり、幸せになれるかどうかは飢えを免れる最も好ましい手段なのである
議論には、身の丈と体格というものがおおいに影響するんです。もしダーシーがこれほどの長身でなかったば、僕は今の敬意の半分も払いはしませんよ
色々夢見ちゃってこだわりの強い主人公と実際的な友人シャーロットの対比に色々考えさせられる。(25歳独身パートナーなし)
時間軸:短い ある程度大人な段階で始まってゴール員まで
登場人物:やや多い 短い割に登場人物相関を見返したら思い出せない脇役がたくさんいた。
読みやすさ:★★★★☆
おすすめ度:★★★★★ 傲慢と善良を読んだ/読む人はぜひ
偉大という点で一段と優れた作品は、その後いくつか書かれているが、これら偉大な作品は、元気な時に細心の注意を払って読むのでなければ、何の利益も得ることができない。ところが、オースティンの小説となると、どんなに疲れて意気のあがらぬ時に読んでも、必ず読む者の心を魅了してくれるのである。
オースティンは文章家として指して偉大ではないが、その文章は平明率直で気取りというものが少しもない。
③赤と黒/スタンダール フランス
「ナポレオンに強く憧れる青年」が主人公であり、戦争、宗教に絡む点では『戦争と平和』に近い。軍人の赤と聖職者の黒。
顔が綺麗な貧乏人ジュリアン・ソレルが立身出世の強い野心を抱き成り上がっていく。初めに家庭教師として入った家でレナール夫人と不倫した際は愛情や快楽というより目上の人を征服した事実で自尊心を満たすなど、計算高い性格が印象的。
下巻では、野心ではなく本気でマチルド嬢に恋してしまい、成り上がりと恋愛の間で揺れ動くジュリアンの動機が終始捉えづらく不可解。一貫性がないところにむしろリアリティがあるとは言えるのかもしれない。
上巻はイベントが少なく単調な進行に感じられるが、後から必要な話題だったのだと気づく。下巻からは政治的側面もあり深くなっていくので読み応えがあるが、私には難しかった。
時間軸:普通 親の庇護を受けていた子供の頃から奉公、学校を経て大人になるまで
登場人物:普通
読みやすさ:★☆☆☆☆ 自分に学がないためかもしないが難しかった。
おすすめ度:★☆☆☆☆ 名作の気配はわかるものの
④ゴリオ爺さん/オノレ・ド・バルザック フランス
主人公、成り上がりたい学生ラスティニャックとゴリオは貧しい下宿に住まうもの同士だ。
ゴリオは二人の愛する娘に全ての財産を注ぎ込み彼女らの幸せを自分の幸せとしたが、一見華やかな家系に嫁いだ二人の娘はゴリオを邪険にして結局彼の最期にさえ駆けつけなかった。
ゴリオが死を目前にして娘たちに愛されなかったことを滔々と述べるシーンは痛ましい。自身の幸せを他者に委ねて不幸になるパターンだと感じた。他人からの影響を受け価値観を変えていくことは必要だと思いつつ、ゴリオの人生を見ていると自身の幸せを誰かに委ねることは怖い。
時間軸:短い
登場人物:少ない
読みやすさ:★★★★★ 1冊と短いし読みやすい。
おすすめ度:★★★★☆
⑤デイヴィッド・コパフィールド/チャールズ・ディッケンズ イギリス
主人公デイヴィッドは幼い頃に父を亡くし、母、女中ペゴティーと幸せに暮らしていたが母の再婚後家に居場所がなくなり波乱の展開に。父方の伯母ミス・ベッツィが立派な愛情を注いでくれて成長していく。伯母さんはジブリに出てきそうな印象の、十大小説全体を見渡しても屈指の好人物。
貧しく苦労の時代から出世、結婚するものの上手くいかない。最後は終始支えてくれていたアグネスとの幸せな再婚で終わり。アグネスはずっとそばにいてくれたのに主人公はずっと意識しておらずお人形さんみたいな無能嫁を得て、嫁の死後にやっとアグネスの大切さに気づいた。そんな杜撰な感情に寄り添ってくれるアグネス、主人公のご都合展開すぎて気に入らなかった。
ベッツィ伯母さんの人の良さと同じく、義父マードストンとその妹の意地悪さは十大小説の人物中でもかなり上位クラス。寄宿学校のカリスマ、スティアフォースなどキャラの立った人物が多く、登場人物が多い中でも一人一人のキャラクターを手に取るように想像できる没入感はあった。
当時のイギリスの刊行方法について、分冊に必要とされる量の話題を差し込むため非常に長い小説にならざるを得なかった
時間軸:長い 生まれた頃から中年以降まで、生涯を描く
登場人物:多い
読みやすさ:★★★☆☆ 読みやすいがやや冗長
おすすめ度:★★★☆☆ ほどほどに面白いが長すぎる文量に見合う満足感ではない。
⑥ボヴァリー夫人/ギュスターヴ・フロベール フランス
ヒステリック・妻ボヴァリー夫人。結婚生活に憧れメロドラマ等読み漁り、医師シャルル・ボヴァリーと結婚したもののなんか思っていたのと違かった。
現代版に解釈するなら、いつまでも美しくありたいし丁重に扱われたいし旦那のステータスも欲しいのに、旦那は野心的な仕事には取り組まずお金も大して稼がない(※多分そんなことはない)。整形・美容に大金を出してはくれない。今の私がただ黙って座っていればそれで満足してしまうようで気に入らない。しかも旦那はどんどん醜くなっていく。みたいな話だろうか。ボヴァリー夫人の主張もわからなくはないが、シャルルの言うことの方が全うだ。
早くこいつら離婚しろよ、医者なのにバカなのかよ、とイライラしてくるがそう簡単に離婚ともいかないあたりが古典。
だいぶ曲解した気がする。が、こんな感じでライトに読めたあたり時代を超える名作なのだろう。
華美な不倫にお金を使い込み借金で首が回らなくなったボヴァリー夫人は裏主人公・薬剤師オメーのところからくすねた砒素をあおって死ぬ。旦那シャルルはボヴァリーの死後しばらくして夫人が不倫をしていたことを知りショック死。
時間軸:やや短い〜普通 序盤で結婚するしそんなに長く生きない
登場人物:少ない
読みやすさ:★★★☆☆
おすすめ度:★★★★☆ 読書を趣味とする中でボヴァリー夫人への言及は何度も見かけたことがある。被引用数が多く、読むのにそこまで骨が折れないと思えば読む価値があるかも。
⑦白鯨/ハーマン・メルヴィル アメリカ
少し前にエックスでバズってた。
白鯨って知ってますか!?!?!?
— ポテチ (@KCmFcRrfVKo4tPe) January 5, 2025
白鯨ってすごく面白いんですよ‼️‼️‼️‼️
ということで、白鯨の布教シートを作りました‼️気になってる方も、そうでもない方も、是非是非見てほしいです!☺️ pic.twitter.com/XXhOlb3KcJ
捕鯨船の船長エイハブは自身の片足を取った悪名高い白鯨モーヴィー・ディックに復讐するため執念を燃やす。
本記事の内省的な部分で以下のように書いた。
“生まれてきた意味や使命などなく、あるのはただ個々人が勘違いの果てに選び取った「私はこれをして生きていく」という強い意志だと考える。”
エイハブ船長の生き方が、まさにこれである。「絶対にあの白鯨を討つ」という強い意志・あまりに強すぎる復讐心がピークオッド号の船員たちを巻き込んでいく。
人間の狂気はしばしば狡猾であって、すこぶる猫に似ている。消えたと思っても、じつはもっと微妙なモノに変身しているだけかもしれないのだ。
冷静な判断力を失ったエイハブを突き動かす狂気に触れ、例え死ぬこととなってもエイハブには白鯨と再び相見える以外の生き方が全くないのだと知る。
全体のストーリーはシンプル、話は複雑で冗長、ところで私は今何を読んでいるのでしたっけ?という気持ちになる緻密すぎる捕鯨描写も合わせて異質な印象を受ける作品である。
読者の受ける感銘がこれまで述べてきた種類の小説とはまるで異なり、その書かれた目的がまたまるで異質的なもののように思え、したがってこれだけを独立させて一つに分類しなければならない一群の小説がある。
白鯨、嵐が丘、カラマーゾフの兄弟、ジェイムズ・ジョイス、カフカの小説である。
世の中を動かしていくのはエイハブのような人物の意志なのだろうと思う。
主人公は都合の良い語り手ポジションに思われ、印象が薄い。
時間軸:普通
登場人物:少ない 主に船員を覚えればOK
読みやすさ:★★☆☆☆ もはや体感半分が捕鯨の専門書。マッコウクジラの脳みそは美味しい。異教徒云々とかも馴染みがなかった。
おすすめ度:★★★★☆ 有川浩『空の中』で白鯨を誤認しないで
⑧嵐が丘/エミリー・ブロンテ イギリス
十大小説随一のド鬱小説。親の確執を子供世代まで引き継ぐ陰湿な手口と教育DV展開で頭がおかしくなりそう。
心の底に吹き荒れる嵐を抱え込んでいるように気性の激しいキャサリンと、
同じく気性が激しく、身分違いのヒースクリフが館・嵐が丘の周囲の人々を徹底的に巻き込んでこの世から去っていくまで。
当初キャサリンと仲良くしていたものの、身分の低さゆえ嵐が丘で虐げられて育ったヒースクリフは白鯨のエイハブ船長と同じく復讐に残りの人生を丸ごと縛られている。どんな手段でも用いるここまでの執着はどうやって育まれたのだろうと考え込むくらい見事。見事すぎて読んでいる間は徹底的に憂鬱。
嵐が丘の作中では幼少期の教育や愛の有無を描かれていたが、一言の説明では済まない力を感じる。一貫して理性的ではなく現実離れした人物ばかりが登場するが、活き活きしているので一気に読めた。
時間軸:長い 主人公らの幼少期から子供世代の物語まで
登場人物:普通 人数はほどほどだが、血縁の矢印を思い浮かべて読むのはやや難儀
読みやすさ:★★★★☆ 文体の印象はあまりないが、一気読みしたらしいので多分読める
おすすめ度:★★★★★ この本を勧めるのは非道徳的行為かもしれないが、読んだ人の感想を知りたいと思ってしまうパワー系。一緒に地獄に堕ちようぜ!
⑨カラマーゾフの兄弟/ドストエフスキー ロシア
剛気な長兄ドミートリィ、神経質な次兄イヴァン、そして我らの主人公とでも言うべき、愛されるアリョーシャの三兄弟と、その父親フョードル・カラマーゾフの殺人犯を探るサスペンス。解決編(?)のイヴァンの語りが圧巻。
ラスコーリニコフ(罪と罰)、スタヴローギン(悪霊)、イヴァン・カラマーゾフ(カラマーゾフの兄弟)は、エミリー・ブロンテのヒースクリフ(嵐が丘)やメルヴィルのエイハブ船長(白鯨)と同じ種類の人物で、いずれも生命力が脈打っている。
現存の『カラマーゾフの兄弟』は独立して読むことができるが、元より続く第二部を想定して書かれているという。しかし、第二部執筆より先にドストエフスキーは命を落とした。そのため物語は完結しているものの、もうちょっと先まで想定していたなら読ませて欲しかったナ〜、と思う。
彼(ドストエフスキー)は引き続き後の数巻でアリョーシャの成長の後を辿り、アリョーシャがさまざまな境遇の変化を経るうちに、偉大な罪を経験し、苦しみ悩んだ挙句、最後に救いに到達するという風に話を持っていくつもりであったらしい。ところが、他界したためにその意図を実現することができず、カラマーゾフの兄弟は断片で終わることになったのである。
とはいえ、今あるままでもこれまでに書かれた最大の小説の一つであることには違いない
多くの批評家は、この作品の主題は神の追求であると言っている。だが、私だけの考えを言わせてもらえば、主題はむしろ悪の問題なのだ。
時間軸:普通 第二部は十数年後の想定らしいのでそこまでいくと長い
登場人物:普通
読みやすさ:★☆☆☆☆
おすすめ度:★★★☆☆ 非常に有名でチャレンジする価値があるが、ドストならまずは『罪と罰』の方が良くない?という贔屓目の感想。
⑩戦争と平和/レフ・トルストイ ロシア
ナポレオン戦争の時代のロシア、3人の主人公とその一族の興亡を描く。手を出す前に案内が必要だった。最初にくどくど出てくる社交界の人物のうち誰に着目すべきかわかっていないとこの時点で読む気が削がれて終わり(自己紹介)
「戦争と平和」は、確かにあらゆる小説の中で最も偉大な作品である。このような小説は、高度の知性と力強い想像力とに恵まれた人、この世についての豊かな経験と人間性を見抜く鋭い洞察力とを持った人でもなければ、到底かけるものではない。これほど限りない数の人物を登場させた小説はこの作品以前には一度として書かれたことがなかったし、今後とても二度と再び書かれることはおそらくあるまい。
ざっくりすぎる印象だと実直なピエール、現実的なアンドレイ侯爵、アホの子ロストフくん。この3人と、いい感じに近づく女性陣数名に着目すれば良いでしょう。
筆者のお気に入りは愛されて育ったのだろうなと思わされる人物ニコライ・ロストフ。賭博で巨額の借金をこさえたり、皇帝に陶酔して勇ましく戦地へ赴いたと思えばすぐに勇敢な戦意とは別な方向、生を希求する姿勢へ切り替えたりと人間味に溢れていた印象(記録がないのでどれだけ合っているかは不明)。似たようにアンドレイが戦場で倒れて回想するシーンも描かれ、戦中での生への向き合い方がすごく細かく胸を打つ、のだが全体にやはり難しい文章の印象が勝つ。
ピエールは神を信じたり信じなかったりフリーメイソンにのめり込んだりで揺れていたと思うのだが、そのあたりの知識不足も理解度の低さに繋がった。近々読み返したい。
トルストイの見解は、偶然の事情、未知の力、判断の誤り、思いもよらぬ偶然の出来事から考えて、精密な戦争科学といったものはあり得るはずがなく、従って軍事上の天才というものはあり得ないというのである。
歴史の流れを左右するのは、一般に考えられているのとは違って、偉人ではなく、諸国民の間に働いて、諸国民を知らず知らずのうちにあるいは勝利へ、あるいは敗北へと駆り立てる正体不明の力である。
時間軸:普通 ※記憶が遠いので多分
登場人物:非常に多い Wikipediaによると559人、えっ?
読みやすさ:★☆☆☆☆
おすすめ度:★★★★★ 壮大で、時間をかけて真剣に向き合う価値がある作品だと思った。私もまだまだ本当の意味では読み途中だ。
年譜:読んだ順番と読了日
戦争と平和/レフ・トルストイ ロシア
(一)〜(三)不明
(四)2020/9/13
白鯨/ハーマン・メルヴィル アメリカ
(上)2021/3/15
(下)2021/3/25
世界の十大小説/サマセット・モーム
(上)2022/8/20
(下)2022/8/24
嵐が丘/エミリー・ブロンテ イギリス
(上)2022/9/12
(下)2022/9/19
カラマーゾフの兄弟/フョードル・ドストエフスキー ロシア
(一)2023/3/27
(二)2023/3/31
(三)2023/4/2
(四)2023/4/5
(五)2023/4/7
ゴリオ爺さん/オノレ・ド・バルザック フランス
2023/8/13
高慢と偏見/ジェイン・オースティン イギリス
(上)2023/8/16
(下)2023/8/20
デイヴィッド・コパフィールド/チャールズ・ディッケンズ イギリス
(一)2024/11/13
(二)2024/11/17
(三)2024/11/21
(四)2024/11/24
(五)2024/11/26
ボヴァリー夫人/ギュスターヴ・フロベール フランス
(上)2024/12/9
(下)2024/12/13
赤と黒/スタンダール フランス
(上)2025/1/22
(下)2025/1/26
トム・ジョウンズ/ヘンリー・フィールディング イギリス
(一)2025/2/10
(二)2025/2/14
(三)2025/2/16
(四)2025/2/16
※この記事を読んでくださった読書家の皆様へ※
致命的で許せない誤解釈等ございましたら、コメントいただけますと幸いです。
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