「もしあと1年で人生が終わるとしたら?」 小澤竹俊
「誰の、どのような人生にも、必ず意味がある 人生はただ、この世に存在しているだけで価値がある」
「もしあと1年で人生が終わるとしたら?」 小澤竹俊
もし あと1年で人生が終わるとしたら?
どうしたいですか?
この本の冒頭でそう問いかけられます。
旅行に行きたいですか?
もっと仕事をしたいですか?
おいしいものを食べたいですか?
ほしかったものを買うでしょうか?
など
なぜこのような問いかけをしたかというと、人生に締め切りを設けることで、何がやりたいか、何が大切かが明確になるからです。
今、毎日忙しく日常を送っている人にとって「人生が終わる」なんて考えもしないか、考えたとしても実感がないでしょう。
僕も実感がまったくありませんでした。一日一日が早く過ぎ去っていくだけで、慌ただしく、人生とか自身のことをゆっくり振り返る余裕なんてありませんでした。
それが約4年前、否応なしに考えなければならない事態になりました。
体調に異変が生じ、病院で検査をしました。
「癌」と診断されました。
まさか
目の前が真っ暗になりました。
家族にどのように話していいのかわからなくなりました。(落ち着くまで時間がかかり、その場から動けませんでした。しばらくしてから、妻に電話して話しました。)
ただ、「治療すれば命にかかわることはない」と言われたことだけが救いでした。そして、安心してもらうように、そのことを強調して妻に話しました。
手術をしました。しばらくの入院生活を経て、仕事に復帰しました。
そのときはまだ、そんなに人生のことを考えていませんでした。もし再発したとしても、定期的に病院に通うので、早期に発見でき、手を打つことができると考えていたからです。また、慌ただしい日常が戻ってきました。
仕事に復帰してからも、月に1回または2回、病院で診察を受けました。
そうして半年くらいたった頃でしょうか。診察のとき、主治医の先生の表情が曇りました。急遽検査をしました。腫瘍ができていました。再発でした。
腫瘍は前回よりも大きくなっていました。夢ではないかと思いましたが、CT画像を見て愕然としました。そのときの先生の深刻度がテレパシーのように読み取れました。今度は本当にダメかもしれない。
かなりリスクのあることを言われました。現実を受け入れられずに、セカンドオピニオンも受けましたが、同じ見解でした。結局、治療してみないとどうなるのかわからないということ。
考えざるを得なくなりました。
「もしあと1年で人生が終わるとしたら?」
僕がそのときに一番考えたこと。
辛かったこと。
それは、家族と別れることでした。自分がこれまで生きてきて、何もなし得なかったことでした。
「思うようにやりたい仕事ができなかったかった」という後悔の念。それが一番突き刺さったことでした。
もちろん働いているほとんどの人が、自分の思うような満足できる仕事かと問われると、そうではないでしょう。考えることもできないくらい必死に一日一日を、歯を食いしばって懸命に働いていることでしょう。
しかし
崖っぷちに立たされ正直に考えたことは、何もなし得なかったことによる後悔の念でした。
*
ホスピス医の小澤竹俊さんは25年間、人生の最終段階の医療に携わりました。3500人以上の方たちをお見送りされました。そこで気づきました。
それは、「死」を前にすると、人は必ず自分の人生を振り返るということ。
そして、自分の人生で誇れること、後悔していることなどを少しずつ整理し、最終的には多くの方が、「良い人生だった」と納得して、穏やかにこの世を去っていかれます。
小澤さんは医師になって、自身の無力さに苛まれたことがありました。自身の無力さに苦しみました。
患者さんの中には、穏やかに亡くなられた方がいる一方で、「死にたい」と言い続け、心を閉ざしたまま亡くなられた方もいます。
また、「私は死なないですよね。死なないと言ってください」という患者さんの必死の訴えに、何も言えなかったこともありました。
小澤さんは患者さんのために支えになりたい。誰かの役に立ちたいと仕事をしてきました。
しかし
実際には「何の役にも立たない」という無力さを思い知らされたといいます。そうして本当に大切なことに気づきました。
それは「実は私の方が支えを必要としており、家族、仲間、友人、先に亡くなった父、関わりお見送りした患者さん、そして、こんな私でも『ここにいてよい』と赦してくださる神さまの存在に支えられている」「たとえ無力でも、患者さんのそばに存在し続けることが大切ではないか」ということでした。
小澤さんは患者さんたちに力をもらいました。小澤さんは力説します。
誰の、どのような人生にも、必ず意味がある
人生はただ、この世に存在しているだけで価値がある
*
再発を告知されて、僕は完全に塞ぎこみました。妻は傍で見ていて、もっと辛い思いをしたと思います。
毎日毎日、僕はため息ばかりついていました。
「もしも俺が死んだら」
とあるとき、妻に言いました。
妻は泣きながら、
「子どもの成長をいっしょに見ようよ。この先、ずっと・・・・・・」と言いました。
その一言で我に返りました。そして、なんとか立ち上がることができたんだと思います。なんとか病気を克服しようとする気持ちが湧いてきたんだと思います。
暗闇の中で、針の穴のように小さいが靭(つよ)い光に向かって、自分のやれることを模索しました。
知人に紹介された看護師さんや同じ病気で回復された方の話を聞きました。本やネットの情報を調べました。そこで行き当たりました。僕ができることは、食を改めることでした。徹底的に玄米、菜食に変えました。甘いものが好きでしたが、完全に断糖しました。ニンジンジュースを毎日飲みました。
そのせいもあってか、ないかはわかりませんが、抗癌剤がとてもよく効いたそうです。あとで先生に言われました。とてもよく効いたケースだと。
辛かった抗癌剤と放射線治療でしたが、おかげで、今は生かせていただいています。
僕は、冒頭の小澤竹俊さんの問いかけを経験してわかりました。何がやりたかったのか。何が大切だったか。いかに普通の日常が有難いことだったか。
人が抱える悩みや苦しみの中には、どうしても消すことができないものがあります。しかし、どのような苦しみからも、人は必ず何かを学びます。
苦しみに直面し、悩むことによって、初めて人生にとって大切なことに気づくのです。それができたとき、人は本当の強さと幸せを手に入れます。
苦しみは辛いことですが、小澤さんのおっしゃっているとおり、人生にとって大切なことに気づかされました。
「人生があと1年で終わる」と考えると、よけいなものがそぎ落とされ、今の自分にとって本当に大事なことだけが見えてきます。
小澤さんはたくさんの患者さんと接してきて、人間の根本に迫ったシンプルな命の輝きを私たちに提示してくれています。
私たちは気づかずに生きています。
そのことを、この本は気づかせてくれます。
今、自分の中に迷いがある方、本当の自分は? 自分のやりたい事がわからない、希望が見出せない方、この本の言葉をどうか感じてみてください。
最終的な目的地は自分自身で気づくしかありませんが、それらに気づかせてくれるナビゲートをしてくれます。とても優しい命の言葉で。
【出典】
「もしあと1年で人生が終わるとしたら?」 小澤竹俊 アスコム