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【絵本】「さっちゃんのまほうのて」 たばたせいいち のべあきこ しざわさよこ



「さちこのては まるでまほうのてだね。」



「さっちゃんのまほうのて」 たばたせいいち のべあきこ しざわさよこ



さっちゃんの幼稚園では、ままごとあそびがさかんで、みんな夢中になってあそんでいます。

さっちゃんは きょう、おかあさんに なりたかったのです。


なぜなら

けさ、おかあさんが いいました。
「さっちゃん、もうすぐ おねえさんね。」


さっちゃんには、もうすぐ弟か妹ができるのです。


だから


さっちゃんはどうしてもお母さんになって、赤ちゃんにミルクを飲ませたかったんです。


でも


いつもお母さん役は、背の高い
みよちゃんかまりちゃんになってしまいます。


今日はお母さん役を、一番に名乗り出たさっちゃんでしたが

「あたしよ、おかあさんは!」


とまりちゃんが、あわてて言いました。

「ちがうよ、きょうは あたしよ。
あたしだって おかあさん やりたいもん。」


とさっちゃんは言いました。

「さっちゃんは おかあさんには なれないよ!
だって てのないおかあさんなんて へんだもん。」


とまりちゃんは言いました。

「そうよ!」
「へんだよ!」


まわりの子どもたちも、そう言いました。

「おれ、おとうさん やーめた!」


とあきらくんは、言いました。


さっちゃんは


まりちゃんにとびかかり、エプロンをまりちゃんになげつけて、部屋の外に飛び出して行きます。

「みんな みんな、だいきらい! だいっきらい!」


家に帰ったさっちゃんは、「ただいま」も言わずに

「おかあさん、さちこのては どうして みんなとちがうの? 

どうして みんなみたいに ゆびがないの? どうしてなの?」


とさっちゃんは、おかあさんに聞きました。


さっちゃんの右手には、五つの指がありません。


さっちゃんのように、手や足、指などの一部がないままの状態で生まれてくる子どもたちは、先天性四肢障碍児(せんてんせいしししょうがいじ)と呼ばれています。

共同制作の野辺明子さんも、さっちゃんと同じように指のない娘さんがいらっしゃって、2歳半の頃に「こっちのおてて、へん」と不思議そうに言ったのだそうです。


また、おなじく共同制作の志沢小夜子さんは、生まれつき左手指がなく、娘さんが2歳をすぎた頃に、とつぜん「お母さんの手 お化けの手みたい」と言ったそうです。


あまりのことに悲しくて娘を抱いて泣きました。と志沢さんは語っておられます。


そのような思いから、「障碍(しょうがい)を上手に伝える方法はないだろうか」と思い悩んだ末に、絵本の形で幼い子どもたちに手渡したいと考えられたそうです。


お話を続けます。

「おかあさん、さちこのては どうして みんなとちがうの? どうして みんなみたいに ゆびがないの? どうしてなの?」


お母さんはだまってさっちゃんをぎゅうっと抱きしめ、小さな声で、そして、とっても真剣な声で

「さちこはね、おかあさんの おなかのなかで、はじめ、ちいさな ちいさな いのちのつぶだったの。

その いのちのつぶが だんだん おおきくなって、てや あしや しんぞうが できて、 にんげんのからだに なっていくの。

でも さちこは そのときに、 おなかのなかでけがをしてしまって、 ゆびだけ どうしても できなかったの。

どうして おなかのなかで けがなんかしてしまうのか、まだ だれにも わからないの。」


そうお母さんは、さっちゃんに言いました。

「しょうがくせいに なったら、さっちゃんのゆび、みんなみたいに はえてくる?」


さっちゃんは、おかあさんにたずねました。


お母さんは、さっちゃんに言いました。

「さちこのてはね、しょうがくせいに なっても いまのままよ。ずっと、 いまのままよ。

でもね、さっちゃん。これが さちこの だいじな だいじなてなんだから。 おかあさんのだいすきな さちこの かわいいかわいいて なんだから・・・・・・。」



しばらくさっちゃんは、幼稚園に行かなくなりました。




待ちに待った赤ちゃんが産まれました。さっちゃんの弟です。さっちゃんは、お姉さんになりました。

病院の帰り道、お父さんとさっちゃんは、夕焼け色の町を手をつないで歩いています。

お父さんは、さっちゃんの指ない方の手をしっかり握りました。

さっちゃんが、ぽつんと言います。

「さっちゃん、ゆびが なくても おかあさんに なれるかな。」


お父さんは、「心配しなくても誰にも負けないお母さんになれるぞ!」とさっちゃんに言いました。


そして

「それにね さちこ、 こうして さちこと てを つないであるいていると、 とっても ふしぎな ちからが さちこのてから やってきて、 おとうさんのからだいっぱいになるんだ。 

さちこのては まるで まほうの てだね。」


お父さんは、そうさっちゃんに言いました。


 

あったかい あったかい 絵本でした。

読み終えたあとは、ただ・・・ ただ・・・ 

感謝の気持ちでいっぱいになりました。



【出典】

「さっちゃんのまほうのて」 たばたせいいち  のべあきこ   しざわさよこ 偕成社


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