【絵本】「かぜのでんわ」 いもとようこ
「いままで どれだけのひとが、このでんわで はなしたことでしょう。」
「かぜのでんわ」 いもとようこ
やまのうえに 1だいのでんわがおいてあります。
きょうもだれかがやってきました。
せんのつながっていないそのでんわではなしをするために。
山の上に置かれたその電話は、会えなくなった人に自分の思いを伝えると、必ずその人に届くと言われていました。
誰が置いたのかわかりません。
でも
いつもきれいに、ピカピカにみがかれていました。
たぬきのぼうやが、山に登ってきました。
ぼうやは線のつながっていない
その電話で、おにいちゃんに電話をかけました。
「もしもし、おにいちゃん。
どこに いるの?
はやく かえってきてよ!」
お母さんに「おにいちゃんは、遠くに遊びに行ったんだよ。」って言われていたぼうやは、無心でおにいちゃんに話しかけました。
ぼく さびしいよ!
いつものように あそんでよ!
つぎの日にはうさぎのお母さんが山の上に登ってきて、ぼうやに電話をかけました。
「いつものように
『ただいまー』ってかえってきて!
そして 『おかあさーん』って
よんでちょうだい!
雨がザーザー降っている日には、きつねのお父さんが「かぜのでんわ」にやってきました。
お父さんは電話の前でいつまでも、いつまでも、泣いていました。
ようやく
「もしもし、おれ、
どうしたら いいんだ!
おまえが いないと なんにも
できないんだよー。
ひどいじゃないか!
おれと こどもたちを のこして
いっちゃうなんて・・・・・・。
(中略)
ほんとうは ありがとうを
いいにきたんだ。
ありがとう! ありがとう!
いままで ほんとうにありがとう!」
この絵本のあとがきに、こう書かれてあります。
岩手県大槌町の佐々木格(いたる)さん(ガーデンデザイナー)が、自宅の庭に「風の電話ボックス」をおきました。
「会えなくなった人へ伝えたい・・・・・・」
ひとりきりになって、電話をかけるように相手に想いを伝える空間で、実際の電話線はつながっていません。電話機のよこには、こう書かれています。
風の電話は心で話します
静かに目を閉じ 耳を澄ましてください
風の音が又は浪の音が或いは小鳥のさえずりが
聞こえてきたなら あなたの想いを伝えて下さい
東日本大震災の前から、会えなくなった人に想いをもっている人が多いことを常に考えていた佐々木格さんが、震災で大切な人を亡くされた方々にむけて、自宅の庭に「風の電話」を作りました。
「あまりにも突然、多くの命が奪われた。せめてひとこと、最後に話がしたかった人がたくさんいるはず。
そして今回の震災だけでなく、会えなくなった人につたえたい想いを持っている人は多いと思います。どなたでもいらしてください」
実話に基づいて、書かれたこの絵本。
動物が人として描かれているので、お子様にもわかりやすく、命や、人と人との絆について感覚的にわかります。
いもとようこさんの絵がとてもあたたかく、やさしく、見ているだけで癒されます。
僕も、きつねのお父さんと同じ想いでこの絵本を読みました。
僕は今、生きています。生きているだけで、ありがたいです。
僕は2017年の大半、入院と退院、自宅療養と、命の有限を考えさせられる状況にありました。
理屈ではわかっていたのですが、命の「限り」というものを、目の前につきつけられたときに、何が一番辛かったというと「別れ」でした。
一番大切なものは「命と絆」だったんだと、魂の一番奥深くで感じました。
妻や子供たち、親兄弟や親類、支えてくださった方、便りや、言葉をかけてくださった方々、すべてにただ・・ただ・・感謝しかありませんでした。
きつねのお父さんも、辛い状況だけれど、それ以上に、「ありがとう!」を伝えたかったにちがいありません。
そして
「生と死とは、どういうことなんだろう?」と深く考えました。
大切な人を失った方たちは、こう感じたのではないでしょうか。
おはなしのつづきにもどります。
ねこさんが やってきました。
「もしもし、かみさまですか?
かみさま、おしえてください。
ひとは なぜ しんでしまうのですか? なぜ うまれてきたのですか?
いきるということ、しぬということは・・・・・・どういうことですか?
おしえてください・・・・・・かみさま」
「風の電話」は、大切な人に向けての祈りの『場』です。
自分の心のすべてをかけて、線のつながっていない受話器を耳にあて、言葉をつむぎ出し、大切な人に向けて、全身全霊で話をするための。
祈るために、癒すために、現状を伝えるために、たとえ現実には線がつながっていなくとも、ひとりになれる空間で、風や自然の音を感じながら魂と向き合える『場』なのです。その『場』は大切な人を失った方たちに、絶対必要不可欠な『場』なのです。
今、生きている現実は、刹那であり、幻・・・・・・そして無常。
だから、瞬間、瞬間を大切に。
「精一杯、生きていこう!」
そんな思いが全身から湧いてきた絵本でした。
ある寒い夜に、
山の上の電話が
鳴り出しました。
くまのおじいさんは、
眠っていると、山の方から
なんか音が聞こえてきました。
くまのおじいさんは、
眠りから起きて、
雪のちらつく中、
山の上に歩いてゆきます。
線がつながっていない
電話が鳴っています!
リーン リーン
リーン リーン
「えっ! そんな? そんな・・・・・・?」
見上げると、夜の空には
満天の星が輝いています。
くまのおじいさんは、さけびました。
「とどいたんだ!
みんなのおもいが
とどいたんだ!」
【出典】
「かぜのでんわ」 いもとようこ 金の星社