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映画評 花嫁はどこへ?🇮🇳

(C)Aamir Khan Films LLP 2024

インドの人気俳優アミール・カーンが製作を手がけ、ひょんなことから取り違えられた2人の花嫁の思いがけない人生の行方を描いたヒューマンドラマ。

大安吉日のインド。育ちも性格も全く異なる2人の女性プールとジャヤは、それぞれの花婿の家へ向かう途中で、同じ満員列車に乗り合わせる。しかし2人とも赤いベールで顔が隠れていたため知らぬ間に入れ替わり、そのまま別の嫁ぎ先に連れて行かれてしまう。予期せぬ旅を通して新しい価値観と可能性に気づいたプールとジャヤは、自分自身の手で人生を切りひらいていく。

小学生の時、世界で起こった事件を特集する番組で、結婚を間近に控えた女性が自殺する事件を特集していたのを見たことがある。この番組を見て勉強になったのは、結婚式の費用は花嫁側の負担であること、さらに花嫁側が「ダウリー(持参財)」を用意すること。

インドの女性にとって結婚は経済的負担が重くのしかかる行事であることを小学生ながら思ったことが記憶に残ってる。ジャヤが実家の畑の一部を売ってまで結婚費用を作っているため、家計によっては首を絞めることにもなる。「前ではなく下を向きなさい」。インドの女性の結婚事情と立場を象徴しているかのようであった。

本作を鑑賞後、インドの結婚事情について調べて分かったのだが、男女共に結婚相手を選ぶことができない。両親や親戚が同じカースト内で結婚相手を探し、本人の意思とは裏腹に決まるのが風習らしい。自由恋愛を得て結婚することも中にはあるのだが、保守的な農村部や地方では親族間で村八分状態に追い込まれることもあるそう。

また、互いに遠隔地在住の場合はお見合い写真だけで選ばれることもあり「夫の靴を見慣れてない」ジャヤの台詞の背景に納得がいくと同時に、制限された自由を見せられて居た堪れない気持ちになるだろう。


(C)Aamir Khan Films LLP 2024

花嫁を取り違えられ、見知らぬ地でなんとかしなければならないフックとインドの結婚事情から、重苦しい内容になりそうな所ではあったが、コメディとして描かれた明るい映画でありながら、フェミニズムの枠に収まらない多くの観客に当てはまる人生の勇気を貰える映画として昇華できている。

見るからに無垢で夫がいないと何もできなさそうなプールが経済活動を通じた自立心が芽生えていく過程は、シンプルな描かれ方でありながらも喝采もの。これまで母の手伝い及び花嫁修行に専念してきたであろう彼女に取って、「母」「妻」に「社会人」としての選択肢が増えたことに喜びを感じた。ラストにおける彼女は人として一皮剥けただけでなく、女性の多様な生き方を尊重するかのよう。

一方ジャヤのパートは重めの雰囲気が漂うミステリー風味で物語が進行する。自分の名前や実家など周辺情報を語らず、警察の捜査にも非協力的、警察が尾行して見えてきたのは、携帯で誰かと話してる様子や身につけてるものを金に変え、どこかへと振り込む姿。

のちに明かされる真実に、インドの結婚事情における負の側面が垣間見得た。ここまでしなければ、自由も自立も手にできないのかと。日本では性別によって機会を奪われることは無いが、世界にはまだまだ性別によって機会が奪われている現状があるのでは無いかと考えてしまった。

それでも本作は社会風刺も若干取り入れつつコメディに仕立て上げられた映画だ。主役を囲む周りの人たちが向ける助けたい眼差しや個性的なキャラクターがより温かみのある雰囲気を演出する。そして2人の取り違えられた妻の結末には、自分の人生は自分で切り開く勇気を貰えることだろう。

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