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映画評 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン🇺🇸
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人類初の月面着陸にまつわる噂をモチーフに奇想天外な極秘プロジェクトの行方を描いたドラマを『Love, サイモン 17歳の告白』『かぞくはじめました』のグレッグ・バーランティ監督で映画化。
NASA のPRマーケティング部に雇用されたケリー(スカーレット・ヨハンソン)は、政治家や国民の関心が薄れつつあった「アポロ計画」を注目の的になるよう大胆な施策を打ち出す。ケリーのPR作戦が功を制し、月面着陸が全世界の注目を集めるなか、「月面着陸のフェイク映像を撮影する」という前代未聞の極秘ミッションが政府関係者から告げられる。
アポロ11号が月面着陸を成功させてから半世紀以上経過しているが、その後一度も人類が月面着陸を成功させていない。その間に、生中継で流れた月面着陸の映像はフェイクという根も葉もない噂飛び交うのだが、間が空きすぎているため無理もない。
本作は”月面着陸はフェイク”という陰謀論を逆手に取った物語だ。主人公はNASAを PRするために雇われたマーケターで、脚色も嘘を本当に見せるのもお手のもの。世間の逆風にうまく逆らい、世間の関心を集めるだけでなく、政治家からの支援を勝ち取る技術にはマーケターとしてのプロフェッショナルな姿が見れて清々しい。彼女であれば月面着陸のフェイク映像を作れてしまうのではないかと期待感すらも抱いた。
それでも本作が描こうとしたことは、陰謀論を肯定するものではなく、アポロ11号に携わっている人たちがミッションを成功に導くために奮闘するプロフェッショナルな姿。発射責任者のコール(チャニング・ティタム)をはじめ、NASAの職員らの全力投球で奮闘する姿にカッコよく映すため、陰謀論に対して中指を立てるかのような潔さがある。
誠実なコールと嘘を巧みに操るケリーの凸凹コンビも見応えの一つ。コールはケリーの仕事ぶりに関心を示さなかったものの、互いに理解し合い、協力する姿はバディ物としての楽しさがある。コールとケリーが主導して歴史的瞬間を守り抜いたシーンは、紆余曲折ありながらも互いに共有する崇高な目的のために力を合わせたプロフェッショナルとしての姿勢を守り抜いたシーンに一種の感動を覚えるだろう。
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プロフェッショナルを突き通すお仕事ドラマでもありながら、ロマンティック・コメディの要素もあって楽しい一作であるのだが、ケリーが自身の過去を吐露し、誠実なコールに感化されるフランク・キャプラ的な演出が蛇足に映る。
そもそもケリーがマーケティングのプロに上り詰めるに至った背景があろうがなかろうが、ミッションの成功に何一つ関係がない。登場人物の背景を描くことが目的とかしてしまい、物語における機能が十分に為されていない。
ケリーがコールをはじめNASAの職員たちの熱い想いに感化されるのであれば、自身の過去を反省するのではなく、今どのようにするかによりフォーカスを強めるべきであろう。何でもありの PRの仕方を変えたり、フェイク映像に賛成の立場から反対に変わったりといくらでもやりようがあった。
むしろ計画を立案した人にはフェイク映像を流し、そのままネタバラシをしないしっぺ返しがあっても良かった。熱き想いを持っている現場の人間を馬鹿にするなというメッセージを込めて。そしてその人が陰謀論を撒き散らしてしまう滑稽さと脚色があっても良かったのではないだろうか。