映画評 スオミの話をしよう🇯🇵
『ラヂオの時間』『THE 有頂天ホテル』の三谷幸喜が『記憶にございません!』以来5年ぶりの映画監督・脚本作品。突然失踪した女性と、彼女について語り出す5人の男たちを描いたミステリーコメディ。
豪邸に暮らす著名な詩人・寒川(坂東彌十郎)の新妻・スオミ(長澤まさみ)が行方不明となった。元夫で刑事の草野(西島秀俊)をはじめスオミを知る4人の元夫ら(遠藤憲一、松坂桃李、小林隆)が次々と屋敷にやってくる。操作そっちのけで、誰がスオミをよく知っているか、誰が一番愛されていたか白熱した議論が巻き起こる。男たちの口から語られるスオミはそれぞれがまったく違う性格の女性。一体スオミは何者なのか。
本作は役者陣の演技合戦を見る映画だ。長澤まさみの5人の人格を使い分ける技量に脱帽させられ、元夫・夫らのマウント合戦によりコメディとして昇華させる。互いが互いを活かし合うことで、キャラクターの個性が輝き、スオミの苦悩や元夫・夫らが気づいてない自分自身の性格が炙り出される。役者陣の演技を見るだけでも十分元は取れよう。
しかし、あくまでも物語。ストーリー展開は役者陣の演技力だけではカバーしきれなかった問題点が山積みであることは否めない。
そもそもスオミの性格に難がありすぎる。結婚と離婚を繰り返している理由は大雑把にまとめれば「自分らしさの追求」なのだが、ワガママにしか見えない。百歩譲って、無自覚に否定してくる4番目の夫と別れ、トロフィーワイフとしか見てくれない5番目の夫と別れたくなるのは理解できよう。だが、以前に3度の離婚している事実から線で見ると、別れたくなる説得力が薄くなる。
1番目の夫に関しては、スオミの威勢からすれば最初から否定することはできたはず。2番目の夫は、経済的援助だけでなく、社会的地位が与えられる。離婚理由は致し方なかったとしても事が去れば再婚もできた。また、スオミと一番本質的に近いため、より2番目の夫が努力をし、スオミが怠惰である事が際立ってしまう。
3番目の夫に関しては警察官として法外なピンチから守られるウルトラCを発動してもらった。にも関わらず、中国人のふりをして結婚生活を送っていることに理解が追いつかない。「引くに引けなくなった」と語るが、打ち明ける機会はなくは無い。彼女自身も相手と向き合えていない落ち度は否めない。
5人の夫・元夫がスオミを求めるのは単純にルッキズムだ。スオミは「相手の理想の人物像を演じた」と言いつつも、具体的な結婚生活においては、殆ど何もしていないに等しく、取り柄は見た目が良いくらいだ。何もせず、相手の機嫌を伺えば大事にしてくれる、要は甘やかされてるだけなのだ。よりスオミのワガママさに拍車をかける。見た目、若しくは性別が違っていたら、間違いなく物語は変わっていた。
突然、スオミの成長なんてものは皆無。スオミは5度の結婚と4度の離婚を繰り返すことで、真に自分が欲しいものを手にする、もしくは欲しいものに気づく学習をしなければならない。しかし、依存先が男からフィンランドに乗り換えただけ。つまり”相手の理想像に合わせて自分を偽る”から抜け出せていない。おそらくフィンランド用の自分がいるのだろう。だが彼女が数年おきに国境を跨いでる姿が容易に想像できる。国を変えたところで貴方の問題点は変わらないよと声高らかに叫びたい。