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映画評 マッドマックス:フュリオサ🇺🇸

(C)2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

マッドマックス』シリーズを手がけたジョージ・ミラー監督によるマッドマックスシリーズの最新作。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に登場したフュリオサの若き日を描いた前日譚。

世界の崩壊から45年。フュリオサ(アニャ・テイラー=ジョイ)は暴君ディメンタス将軍の率いるバイカー軍団に連れ去られる。やがてディメンタス将軍と鉄壁の要塞を牛耳るイモータン・ジョーが土地の覇権をかけた不毛な争いに巻き込まれていく。狂ったものだけが生き残れる過酷な世界で、フュリオサは復讐のため、そして故郷に帰るため、人生を懸けて修羅の道を歩む。

本作におけるストーリー軸は、フュリオサの若き日を描くことだが、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で貼られた謎を回収する形で描かれる。

なぜフュリオサがこれほどに強いのか。怒りの根源はどこから来たのか。なぜ片腕が無いのか。緑に満ち溢れた故郷や目の前で殺された母親への強い想いなど、見応えのあるアクションや惚れ惚れするビジュアルとは裏腹に、謎が多いキャラクターでもあった。

含みのありそうなフュリオサを根掘り葉掘り描く価値は当然あるのだが、本作は答え合わせに終始していた印象は否めない。というのも答え合わせの要素が多すぎて目的化してしまっている。『スター・ウォーズ4/新たなる希望』の前日譚であり、革命軍がデス・スターの設計図を持っていた謎を描いた『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』と比較すると、より答え合わせ要素がフュリオサには多すぎて説明のための描写であることが際立つ。

また、本作の結末は鑑賞前から分かっている分、ハラハラ感やドキドキ感は薄くなってしまう。特に本作から登場したディメンタス将軍の運命は予測可能のため「でしょうね」としかならない点も不満が残る。ここは裏切って欲しい所。

もう一つ、イモータン・ジョーとフュリオサの関係性が薄い点も気になる。フュリオサとイモータン・ジョーの最初の関係は、彼の子供を産むための母親的な役割なのだが、行為をせずすんなりと脱出し身を隠す。その後、身分を偽りウォー・タンクの製造及びドライバーとして雇われる。40日間戦争では、イモータン・ジョーと共闘し、ディメンタス将軍を打ち破っているため、仲が良いわけではないが、悪い関係性にも見えない。怒りを込めて放った「Remember Me?」の深みは消えてしまった。


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答え合わせが軸と評価しつつも、アクション描写は全体的に素晴らしくハズレはない。バイクを乗りこなしているかのような疾走感の如く目まぐるしい展開に「これぞマッドマックス」と心の中で雄叫びを上げたくなる。沢山のバイクが一斉に砂漠を走り抜けるシーンは圧巻だ。

重機を使いこなすアクションも素晴らしく、演者の技術力の高さに惚れ惚れしつつも重厚感のある衝撃もあり、まさにその場にいるかのような体験を身をもって経験できた。特にフュリオサの運転するウォー・タンクを略奪者らが襲いにかかる描写はシリーズ最高の出来と評価できる。

マッドマックス』シリーズといえば無慈悲さが特色。フュリオサは目の前で母親を殺され、相棒のジャックも彼女の前で悲惨な結末を迎える。イモータン・ジョーに仕えるウォーボーイズが身を投げ出して戦うシーンは、宗教に心酔しなければ生きていけない脆さとのめり込む危うさが両方現れて良い。侵略者と略奪者、そのどちらかに従わなければ生きていけない世界で、人の命なんてものは軽く扱われる無慈悲さは過去作を更新している。

無慈悲さが濃くなったことはつまり、世界観の広がりにも繋がる。フュリオサの故郷である「緑の地」は誰しもが喉から手が出るほど欲しがるのも理解できる。イモータン・ジョーが統治するシタデル、ガスタウン、爆薬畑、人々が生きていく上での資源と反乱が起きないよう武器を取り上げる独裁者ぶりが、より濃く描かれる。

怒りのデス・ロードでは、行って帰ってくるだけの一本道で直線的にしか描かれなかったが、広大な砂漠地帯をはじめ360°立体的に描かれたこともあり、壮大な物語に昇華できたことは間違いない。ストーリー展開としては物足りなさは残るものの、アクションに力を入れ、世界観の広がりを見せたことは評価したい。


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