映画評 破墓/パミョ🇰🇷
2人の巫堂(ムーダン=朝鮮半島のシャーマン)と風水師、葬儀師が掘り返した墓に隠された恐ろしい秘密を描くサスペンススリラー。第60回百想芸術大賞にて監督賞初め4部門受賞。
墓地を見る風水師サンドク(チェ・ミンシク)、改装を仕切る葬儀師ヨングン、お祓いを行いつつ、祈祷を捧げる2人の巫堂ファリムとボンギル。4人は跡継ぎが代々謎の病気にかかるという奇妙な家族の先祖の墓を掘り起こす破墓を行う。しかし、その墓には奇妙で恐ろしい秘密が隠されていた。
韓国の宗教事情に触れる機会は少ない我々日本人にとっては、韓国の伝統宗教である巫俗の儀式を観れることに新鮮味を感じる。特にボンギルら楽士がケンガリ(鉦)やチン(銅鑼)などの楽器を打ち鳴らす中、ファリムが伝統衣装を身にまといながらトランス状態になるまで踊り狂う祈祷するシーンは圧巻だ。掘り起こした墓から漂う霊気に、命懸けで挑んでいることが伝わる。また、死者を憑依させ会話するシーンは緊張感にも包まれる。
お墓一つとっても韓国の宗教事情が現れているのも面白い。冒頭、サンドクらが墓を掘り起こし、風土の良い場所に移すシーンは、「明堂」という一族が繁栄するためには良い場所に墓を建てなければならない風習で、逆を言えば墓の場所がよくなければ滅びる風説がある。サンドクに祖父の墓を取り壊したいという依頼も明堂の影響からだ。そしてサンドクの職業である地官も陰陽五行の考えから来ている。
しかし本作は、墓から蘇った悪霊に対し韓国伝統宗教で対峙するオカルトホラー映画ではない。厳密に言えば前半は『エクソシスト』のような悪魔祓い的な内容ではあるのだが、それだけでは、韓国で観客動員1200万人は達しなかっただろう。掘り下げていくうちに見えてきたのは、韓国人の潜在意識を刺激するような根深いものであったからだ。
日本人にとっては耳の痛い話だが、日本が1900年代前半に朝鮮半島を植民地にしていた時代背景が大きく関わる。怨霊から度々発せられる「狐が虎の腰を切った」や墓の位置を表す緯度と経度、実存した反日運動家の名前から取った4人の主要登場人物など、植民地時代を想起させられる要素が細かに伏線が貼られている。
冒頭、ファリムとボンギルがアメリカ行きの飛行機で日本語で話しかけられた際「私は韓国人です」と否定する描写から、韓国人の中に潜在的に持っている日本人として見られたくない意識が垣間見える。かつて、隣国に植民地扱いされた負の歴史を持っていれば想像に容易い。
墓に眠る祖父の正体、墓が建てられた場所、ファリムらが目にした者から、韓国史が抱える負の歴史からの清算と新たな一歩というテーマが浮かび上がる。韓国で根付いた伝統宗教で立ち向かう展開は、日本によって植え付けられた負の感情を韓国人のアイデンティティによって乗り越えていくカタルシスとして機能する。
韓国では1200万人の観客が殺到する理由も頷ける。単に反日というだけではなく国全体が抱える負の側面とどのように向き合い、前へと進んでいくかという普遍的なテーマでもあるからだ。日本では『ゴジラ-1.0』や『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』といった、敗戦国としての日本が立ち上がるための解を導いた映画がヒットしたように。『破墓/パミョ』のヒットはいまだに韓国人が精神的に囚われてる歴史的事実という鉄杭を抜き取りたい比喩なのだろう。