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映画評 ライオン・キング:ムファサ🇺🇸

(C)2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

2019年に公開されたディズニーアニメ映画普及の名作を実写化した『ライオン・キング』の前日譚。若き日のムファサとスカーの兄弟の絆を描く。

両親と逸れひとりさまよっていた幼き日のムファサは、王家の血を引く思いやりに満ちたライオン、タカ(後のスカー)に救われる。血のつながりを超えて兄弟の絆で結ばれたムファサとタカは、冷酷な敵ライオンから群れを守るため、新天地を目指してアフリカ横断の旅に出る。

観る前から鑑賞後に至るまで、どういう心持ちで見れば良いのか分からなかった。本作は若き日のムファサとスカーを主人公として描いているのだが、前作及びアニメ映画を見たことがある人ならお分かりの通り、両者とも悲惨な死を遂げる。

愛くるしい幼少期や若き日ならではの荒さからの成長を見せられたとしても「こいつら後に死ぬんだよな」とムファサとスカーが絶命するシーンが頭をよぎる。むしろ愛くるしい様子や苦難を乗り越えた先の成長を見せられると、より残酷な末路が際立ってしまい、悪い意味で感情移入させる隙が無くなってしまった。


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本作のテーマはムファサの成長や兄弟の関係性に焦点を当てつつ、血統主義批評を含んでいる。血筋や伝統に縛られず、自分がどうなりたいかを考え、なりたい自分になるために努力するメッセージを発しているように見えた。

テーマやメッセージそのものは悪くはないのだが、”ライオン”でやることに問題が生じる。ライオンは自然界きっての血統主義。雄ライオンが群れを乗っ取った際、前リーダーの雄ライオンの子供を殺して子孫を繁栄させる残酷な生態系であることは有名な話。だがライオンはライオンなりの理屈や正義のもとで生きている。

前作及びアニメ映画ではムファサがシンバに王家を継がせるゴリゴリの世襲であり血統主義であったものの、ライオンの生態系に則していたためノイズにはならなかった。しかし人間社会の血統主義批評をライオンの生態系に持ち込んだ本作は、人間及び作り手の都合を押し付ける自然界へのレイプにしか見えない。

アニメならともかく、なまじ実写にしてる分、ムファサとスカーの末路に加わる形で余計にノイズとなった。


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本作の評価を決定打にしたのがムファサとスカーの対照的なラスト。両親をハンターに殺され二度と会うことができないスカーに対し、幼少期に逸れた母親と再会するムファサ。

全てを失ったスカーに対して見せつけるかのように感動の再会を果たすムファサという構図及び絵面には流石にデリカシーが無さすぎる。しかもスカーの両親は2人を守るために犠牲になっている分、ムファサのデリカシーの無さっぷりには腹が立つ。

様々な裏切り行為によってムファサの信頼を失ったスカーは、ムファサの意向でプライド・ロックに留まることになるのだが、晒し者にされているようにしか見えない。スカーを王国から追放せず、皆が見える形で晒し者にするムファサのやってることはむしろイジメに近い。この物語だけを観た分には、ムファサは王座としての器はない。

https://www.disney.co.jp/movie/lionking-mufasa

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