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映画評 シビル・ウォー アメリカ最後の日🇺🇸

(C)2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

エクス・マキナ』『MEN 同じ顔の男たち』のアレックス・ガーランド監督・脚本による、戦前を取材するジャーナリスト視点から、内戦と化したアメリカを映し出す。

連邦政府から19の州が離脱したアメリカでは、テキサス州とカリフォルニア州の同盟からなる「西部勢力」と政府軍の間で内戦が勃発。各地で激しい武力衝突が繰り広げられていたが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。4人のジャーナリストは、政府陥落前に大統領にインタビューを目論見、ニューヨークからホワイトハウスを目指す。しかし、内戦の恐怖と狂気を目の当たりにしていく。

アメリカの内戦の様子をジャーナリズムの視点から映す本作は、いちジャーナリズム映画としては物足りなさが残ってしまう。というのも、ジャーナリズムが正しく機能していたかの自己批評性が描かれていないからだ。

戦争が起こる前はどのような報道をしていたのか、権力の監視を真っ当できたのか、反戦・平和のメッセージを正しく伝えられたのか、など映画内で具体的に示されていない。戦争カメラマンを務める主人公リー(キルスティン・ダストン)は、戦争を食い止めることができなかったことに苦悩しているが、苦悩に感情移入するどころか、被害者面してるように見えてしまう。

ジャーナリズム映画の傑作は、常に自己批評と向き合ってきた。『スポットライト 世紀のスクープ』では、巨大権力に対し疑いも関心も向けなかったこと。『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』では、性被害をゴシップとして軽く扱っていたことに、それぞれ自己批評性があった。

本作は起こり得るかもしれない近未来。トランプ共和党代表が暗殺されそうになった記事の一説で「内戦の一歩手前」とあったように、目と鼻の先の話だ。今のままでは戦争が起こるという危機感を募らせているのであれば、具体的にメディアの問題点を示し、リーが反省しながら現状を戦うことで、正きジャーナリズムとは何かのメッセージを伝えなければならなかっただろう。結果的に、多くの人たちに平和や反戦の関心が向くのだから。


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戦争映画としては、見応えのある映画であることは保証できる。飛び交う怒号と四方八方から飛んでくる銃弾。全ての戦闘シーンに緊張感と緊迫感に溢れ、実際にいるかのような没入体験を味わえる。過去最高制作費をかけたA24の本気が垣間見えた。

新人カメラマンであるジェシー(ケイリー・スピーニー)がNYからワシントンD.C.に向かう過程で成長するロードムービーと内戦の実態がリンクしているストーリー展開も気が利いている。

内戦の激化や悍ましい人の業を目の当たりにしたジェシーは、戦場カメラマンとしての厳しさを痛感するが、最終的には『ナイトクローラー』のルイスのようなのめり込みを見せる。目の前で起きている悍ましい事実をどこか楽しんでいるかのよう。いい写真を撮ることを大義としながらも、人の死を狙っていたかのような強かさ・ずる賢さに目覚める。彼女は仕事に魂を売った。

内戦の様子を政府軍VS反政府軍という単純な構造ではなく、兵士と市民が互いを殺し合い、市民同士でも殺し合いをする、無差別テロ。この時点で正義など存在しない。交渉もせず慈悲も聞き入れない。見つけ次第その場で殺す。あらゆる立場の人たちの視点から描かれるため、本作は誰が悪くて正義なのか肩入れはせず、客観的に描いたと言えるだろう。

倫理観のタガが外れた国民は一つの戦いが終わると安堵したのか、満面の笑みを浮かべる。内戦下ではもはや生きてる実感を得られるのは戦争だけかのように。ラストシーンでジェシー撮った反政府軍が満面の笑みを浮かべる一枚の写真は、戦争によって多くの人が狂っていった象徴であろう、

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