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映画評 ブルーピリオド🇯🇵

(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会

「マンガ大賞2020」を受賞した山口つばさによる同名原作漫画を『東京喰種 トーキョーグール』『サヨナラまでの30分』の萩原健太郎監督によって実写映画化。

成績優秀で人付き合いもそつなくこなせる高校生の矢口八虎は、空気を読んで生きる毎日に物足りなさを感じていた。そんなある日、美術の授業で「明け方の青い渋谷」を描いたことで、またたく間に美術へとのめりこんでいく。そして、国内最難関の美術大学への受験を決意するのだが。

実技が重要視される美術は、制作する人の感性が最大限に求められる。そこが国語や数学といった5教科9科目には無い魅力であり面白さだ。

八虎が美術にのめり込むきっかけとなった「明け方の青い渋谷」はこれまで自分が見てきた物や感じてきた感性が肯定される瞬間だ。また、美術を通じて抑えてきた自分を解き放たれ、等身大の自分をさらけ出せる希望に満ち溢れる。

自分自身を表現する、つまり自分自身を解放させることを第一とする美術とカタルシスの解放という映画的爽快感が見事に融合できた描写と言えよう。

明け方の青い渋谷の街を浮遊し、自分を解放させてからの美術部に入部し、制作の様子をダイジェストで描かれるシーンは、止まっていた時計の針が動き出す疾走感に満ち溢れている。何気ない日常を淡々と過ごしていた八虎自身の人生を取り戻したかのような高揚感は、改めて好きなことがあることの幸せを再確認させられる。


(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会

国内最難関の美術大学である東京藝術大学を受験しようと志す八虎だが、5教科9科目にはない美術の難しさに直面する。

上には上がいる現実、酷評される自信作、露呈される自分自身の弱さなど、目を背けたくなることから向き合わなければならなくなる。上を目指し、競争に打ち勝ち、ベストに近づけようと努力することは、必ずしも楽しいことばかりではないことは、一つや二つ努力したことがある人であれば分かり身が深く感じ取れるだろう。

だが「情熱は武器だ」の本作のコピーや薬師丸ひろ子演じる美術部の先生の台詞「好きなことをする努力家は最強なんです」が、八虎自身の弱さや厳しい現実と向き合う糧となり、着実に成長していく。特に美術予備校で出された「縁」のお題は、等身大の自分自身と美術に対する情熱が溢れ出し融合したかのような作品となり、八虎の成長が見える描写となる。

また、美術は技術だけではなく、他者からの厳しい批評や自分自身の感性など、全ての経験が制作に活かされ、無駄にはならない過程は、八虎が美術に目覚めた瞬間と同じ解放感に満ち溢れる。


(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会

映画全体的に良い方に部類されるが、ラストの藝大試験は多少の物足りない感は触れざる得ない。「明け方の青い渋谷」や「縁」を描いた際の八虎の内面を表す突拍子のない演出は八虎の芸術を爆発させる瞬間だからだ。

試験では八虎の内面を表す突拍子のない演出はなく、淡々と書いているだけのため、シンプルな受験映画に矮小化されてしまっている。製作陣のアイデア不足が最後の最後に露呈してしまったことは何とも勿体無い。

評価:⭐️⭐️⭐️⭐️☆

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