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映画評 ARGYLLE/アーガイル🇺🇸

(C)Universal Pictures

キック・アス』『キングスマン』シリーズのマシュー・ボーン監督による、スパイ小説家が本物のスパイとして世界を救う騒動に巻き込まれた姿を描いた痛快スパイアクション。

謎のスパイ組織の正体に迫る凄腕エージェント・アーガイルの活躍を描いたベストセラー小説「アーガイル」の作者エリー・コンウェイは、旅行中に謎の男たちに命を狙われる。エイダンと名乗るスパイに助けられ、エリーの小説が偶然にも現実のスパイ組織の行動を言い当てていたことが判明する。

展開が二転三転する物語の魅力は、騙されたことに対して湧いてくる感情が、怒りや悲しみではなく、心地の良さを感じることにある。物語に向き合えているからこその至福の時間ともいえよう。

目まぐるしく変わっていく展開に説得力をもたらせるためには、整合性の取れる伏線と質の高い貼り方が必要不可欠だが、本作は伏線の質と貼り方が非常に上手いと評価できる。

スパイ小説に出てくる人物の真の正体。主人公がリアリティのあるスパイ小説を書くことができた理由とスパイ小説の内容と実際のスパイ組織の行動と一致していた訳。電車で多くの男たちに襲われた動機など、謎と伏線が同時に機能しており、判明した時の成る程と思わせてくれる意外性が倍に返ってくる爽快感に溢れる。

また、伏線事態がミスリードの役割をもたらせているため、真相が判明した際には、いい意味で裏切ってくれる痛快さも本作の魅力といえよう。


(C)Universal Pictures

ストーリー展開は申し分ないのだが、アクション描写は良い出来と悪い出来の差が激しく、全体的には物足りなさが勝る内容であると評価せざるを得ない。

本作は主人公の正体が判明する前半と後半で作品のテイストが変わるのだが、判明前の前半は見応えがある。というのも、サム・ロックウェル演じるエイデンによる拳銃やナイフなどスマートな武器捌きとコミカルなキャラクター性が融合され、本作のポップな雰囲気を作り出す役割になっていた。また、アーガイルとのギャップも魅力的だ。

物語後半からはブライス・ダラス・ハワード演じる主人公エリーがメインでアクションをするのだが、巨漢体系でスマートに動けるとは到底思えず説得力に欠けてしまう。銃撃戦ならまだしも、しなやか且つ俊敏な動きが求められるアクションに対するミスキャスト感は否めない。そのため、見た目で笑いを取りに行ってるのかと思わざる得なくなり、コミカルさが逆に気まずい雰囲気へと一変した。

エリーとエイデンが共闘するアクションは『キングスマン』を放物とさせられるシーンではあるが、完全なる劣化版だ。これでもかと多用されるスローモーション、リアリティのないCG、強そうに見えない敵など、アクションの痛快さを半減させる。

さらに、2人の仲が良くなるためのシーンでしかないため、敵の扱い方は単なる踏み台だ。露悪以外の何でもない。『キングスマン』のように露悪さを逆手に取ってギャグとして昇華させるわけでもなければ、『キック・アス』のようにヒーローと露悪性の批評性があるわけでもない。カタルシスの解放の仕方を間違っていると指摘せざる得ない。


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