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映画評 コンクリート・ユートピア🇰🇷

(C)2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CLIMAX STUDIO, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

隠された時間』のオム・テファ監督による、大災害によって崩壊し荒野化した韓国・ソウルを舞台に、唯一崩落を免れた住宅マンションで巻き起こる生存者たちによる抗争を描いたディザスタースリラー。

世界を未曾有の大災害で、唯一崩落しなかった住宅マンションに生存者が押し寄せる。902号室に住む職業不明の男性ヨンタク(イ・ビョンホン)を主導者とし、住民らはマンションを守るため、災害を乗り切るために立ち上がる。しかし、彼の支配が頂点に近づくにつれて狂気が漏れ出し、思いもよらない抗争の幕を開けることとなる。

韓国におけるマンションは富の象徴であり、社会的ステータスだ。韓国経済が発展した70年代から80年代に次々と建設され、時代の流れを経て、建設地域・不動産会社・マンション名・住人など、自分らの階級を決め、他者と差別化するためのブランド化が進められてきた。

当然、経済格差は広がり、下の階級のマンションに住む人たちは見下される。住人の1人が「助けを求める人は、これまで私たちを見下してきた人たち」という台詞は強く印象に残る。

また『パラサイト 半地下の家族』で、半地下でついた匂いに嫌悪感を示した相手に腹を立てる描写があることから、韓国では住居を馬鹿にすることはプライドを刺激することにつながるのだろう。


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ヨンタクをはじめとする男性陣がマンションを守るモチベーションが高く描かれるのも韓国社会における家父長制を批評する。

徐々に緩んでいる慣習ではあると思うが、韓国では結婚する際、男性側が家を用意する決まりがあるそう。しかも、物件物価は高騰しているため、男性の経済的負担は計り知れない。ヨンタクの過激な政策にのめり込む新婚夫ミンソンと妻ミョンファの温度差に、経済的背景が関係する。

「家族を守るのは父親の務め」というミンタクのスローガンにも繋がってくる。兵役出身者による防衛隊を結成し、住民以外の人を追い出し、スローガンに反する行為を取る住民を追い出すなど、都合の悪い人物らを徹底的に排除する。さらに物資が底をつく際、「働かざるもの食うべからず」の基で物資が分配される始末。

ミンタクのスローガンは、有事であるにも関わらず資本主義的だ。しかも、これからの経済成長が見込めず、自己責任や差別など資本主義の負の側面だけが肥大する。これまで社会に支配され苦しめられていた側の人間らが支配する側に回った時、支配欲に支配されていたのは何とも皮肉な末路だ。


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ヨンタクだけが圧倒的に悪いわけではないのは確かだ。彼はあくまで住民投票で選ばれた側。路頭の迷う災害時において強く行動に移せる人が魅力的に見えるのは仕方がないかもしれない。のちに惨劇になる結末を選んだのも住民であることは皮肉な運命だ。

マンションを訪ねた政治家が「この有事を共に乗り込めましょう」と演説していたのが印象的だ。正しいことを言ってるようで、なぜ平時にできなかったのか。おそらく何もしてない。『逆転のトライアングル』でも「有事は平等」と搾取してきた側が謳う皮肉と通づるものがある。

であるからこそ、人の上に立つ者をしっかりと見ているかの疑問が本作から投げかけてくる。強い言葉や綺麗事、票取りのためのパフォーマンスでないか見極められているのか。我々の政治への関心度が炙り出されていらのかもしれない。


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