映画評 ゴジラXコング 新たなる帝国🇺🇸
ハリウッド版『ゴジラ』シリーズと『キングコング:髑髏島の巨神』の世界観をクロスオーバーさせた『モンスターバース』シリーズの第5作目。
未確認生物特務機関「モナーク」が異常なシグナルを察知したことを発端に、ゴジラが君臨する地上世界とコングが生きる地底世界の2つのテリトリーが交錯し、ゴジラとコングが激突する。しかし、その先には人類にとってさらなる未知の脅威が待ち受けており、怪獣たちの歴史と起源、さらには人類の存在そのものの謎に迫る新たな冒険が繰り広げられる。
怪獣が主役と言われる映画はこの世に沢山存在するが、本作の右に出るものはいないのではないかと思わせてくれた。というのも、怪獣たちが今何を考えているのか理解できるほど、人間の役者顔負けの迫真の演技と際立つキャラクター性に富んでいたからだ。
特に本作の主役であるコングの演技は賞レースもの。言語や仕草など人間と違ったコミュニケーション手段を用いなければならないハンディはあったものの、無声映画のように表情ひとつで喜怒哀楽の感情がハッキリ伝わってきた。VFXを担当したアレッサンドロ・オンガロは素晴らしい仕事をしたと評価できる。
また、ゴジラをはじめ、あくまでも怪獣であることを忘れていないのも良い。人間らしさを追求してしまえば『猿の惑星』のような擬人化になるからだ。人間らしくならないよう、大きな声で雄叫びを出したり、基本怪獣らしく戦闘で解決したりと、怪獣としての側面もしっかりと描いたことで、怪獣として出せる演技の限界まで挑戦できたと言えるだろう。
ストーリー展開はまさかのヤンキー漫画で見るような展開で、驚きと同時に画と展開のギャップからなる馬鹿馬鹿しさが満載で吹き出しそうになった。怪獣たちの演技が上手い分、より拍車をかける。
故郷の地下世界で待ち構えていたのは、仲間たちを奴隷として扱い、人間世界へと侵略を試みるスカーキング軍団。スカーキングの振る舞いはヤンキー漫画に出てくる主人公の地元を支配している不良そのもの。使いっ走りのスーコ、囚われのヒロイン・シーモといった脇を固める怪獣のキャラクター描写やコングがスカーキングとの戦いの末に負った右腕にはめている厨二病満載の器具など、ヤンキー映画と言ってもおかしくない程踏襲しており、尚更面白おかしい。
スカーキングとの戦いの末に敗れたコングは、かつて拳を交わし合ったライバルであるゴジラを仲間に招き入れようとする胸熱絆展開も愛くるしい。「よくも顔向けできたな」と言わんばかりの物分かりの悪さを見せるゴジラの描写は、かつての敵がライバルになる前振りとして百点を叩き出す。しかも、モスラによって説得されるのも見ていて微笑ましい。
コングとゴジラがスカーキング軍団と戦うために地下世界に赴くシーンは、二体の巨大生物が突進してくる迫力はあるものの、前作『ゴジラvs.コング』の緊張感や脅威感は一切無くなっていた。あるのは、なんだかんだでお互いがお互いを求めていたイチャイチャ感。冷静になって考えてみれば、一体何を見せられたのだろうか。でもこれはこれであり。