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映画評 アメリカン・フィクション🇺🇸

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ドラマ脚本家として活躍してきたコード・ジェファーソンによる監督デビュー作。トロント国際映画祭観客賞受賞。第96回アカデミー賞では作品賞ほか5部門にノミネートされ、脚色賞を受賞。

作品に「黒人らしさが足りない」と評された黒人の小説家モンク(ジェフリー・ライト)が、半ばやけになって書いた冗談のようなステレオタイプな黒人小説がベストセラーとなり、思いがけないかたちで名声を得てしまう。

特定の人種であるからこそ描ける物語・演じることができる役柄があり、それらは唯一無二の特異性として健在する。しかし、それらがステレオタイプを助長し誤ったイメージが定着することになるのであれば本末転倒だ。

モンクが書いた小説には、貧困、マリファナ、ギャング、白人警察に撃たれるなどステレオタイプな黒人像をこれでもかと詰め合わせた幕内弁当。それらが評価されるとなると、ステレオタイプは益々固定化されてしまい、既存の枠内でしか評価及び表現できなくなる負の循環に陥る。

モンクは黒人ではあるものの小説家及び大学教授というエリートであり、実家では家政婦を雇えるほど富裕層に近い。家族間とのやりとりも決して犯罪の匂いはしない。モンクは所謂”普通”の生活を送っている黒人だ。本屋で自身の小説がアメリカ文学ではなく黒人文学に分類されて憤りを感じるのも理解できなくはない。

ステレオタイプが助長される要因を本作なりに紐解いて描かれるのだがその実態は皮肉めいている。当事者でもないのに声を荒げる自称エリートの第三者、贖罪を求めていると言いつつステレオタイプの物語しか求めてない白人層、リサーチして書いた結果白人エリート層に迎合する内容になった作品の数々。門戸を開けたつもりが次々と狭い場所に追いやられる状況に、問題の根はかなり深い。

ラストシーンでモンクがとある人物とアイコンタクトを送るのだが「まだやってるのか」「白人様が求めているんだよ」と会話しているかのよう。黒人系に出演の機会を与えるも人種差別や奴隷制の物語に落ち着いてしまうハリウッドに向けた批評的視線にも読み取れなくもない。

モンクのような境遇は決して他人事ではない。日本を舞台にしたハリウッド映画で東京の街中に城が建てられていたり、何の文脈も無く忍者が出てきたりと憤りを感じるようなもの。お城や忍者は日本固有の文化であり唯一無二の特異性ではあるがステレオタイプ化してしまっているのが現実だ。本作は黒人を主人公に添えた物語なのだが、日本をはじめ、どの人種にも当てはまる物語なのだ。

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