画期的な「売れるフォーマット」を発明したスゴい本
今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。
今回は、編集者である私自身が本当にスゴいと感服した本をいくつか紹介したいと思います。
作り手の視点で見ちゃいます
本の評価って個人差があって難しいですよね?
普通に読者として評価する場合は、書かれている内容とか、レイアウトの見やすさとか、実際に本を受け取った側が感じとる「届けられたもの」に対しての評価だと思います。
今回、私が紹介するのは、こうした読者側の視点ではなく、作り手側の視点から見た場合に「これはスゲ〜」と思った本。どちらかというと「届け方」に基準を置いています。
個人的にポイントは2つ
私が思わず見てしまう「本の届け方」視点のポイントは、主に2つあります。
ひとつは「企画の切り口」。これは出版社や編プロに限らず、出版関係者なら誰もが気にするポイントだと思います。
企画の切り口は、中身を見ずとも書名やカバーのデザインで一目瞭然。なので、書店を回っていると、立ち止まって「そう来るか!」「やられた!」と瞬間的に嫉妬してしまうこともしばしばあります。
企画の切り口が優れていれば、もう「出落ち」みたいなもの(笑)。中身云々とかは関係なく、ただただ、なぜ自分がそれを思いつかなかったのか反省するばかりです。
眠れなくなるほど面白い 図解 カラスの話(日本文芸社)
「マジか!? このヒットシリーズでカラスを持ってくるのか!? 」と、ちょっとした意外性のある企画にも反応してしまいます。キリがなくなるので、この要素に関して今回はスルーとさせていただきます(笑)。
というわけで、本の中身を実際につくる「編プロ」の編集者である私が、特に注目するのが2つ目のポイント。「表現の方法」です。
取り上げたテーマ(企画の切り口)を実際にどのように表現するのか? これは私自身、毎回頭をひねってアイデアを絞り出すことに全力を注いでいます。
しかも、その表現が単なる思いつきみたいな短絡的なものではなく、適切かつ画期的なアイデアで形式化されたもの、「フォーマット化」にまで到達していると、「おお!」と感動すら覚えてしまいます。
「売れるフォーマット」の発明こそが偉大!
企画の切り口は、まぐれでスゴいものが生まれることもありますが、この表現法だけはまぐれはあり得ません。
優れた表現は、編集者の技術と感性なくして生まれることはないと思っています(デザイナー、カメラマン、イラストレーターさんらの力をまとめるという意味で)。
しかも、優れたフォーマット表現にまでアイデアを昇華し、大ベストセラーになる本は、シリーズ本やその形式を採用した類似本を大量に生み出し、出版市場全体に活気をもたらします。
こういう本(アイデア)は、本当に偉大です。
前置きが長くなりましたが、ここからは私が思う「売れるフォーマット」を生み出した偉大な本を紹介します。
『おもしろい! 進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(高橋書店)
Youtubeシュッパン前夜ch でも度々紹介していますが、このシリーズの第1作目は本当にスゴいと思います。
ルーツとしては、かつてのベストセラー「へんないきもの」(バジリコ)の流れを汲むものなのかもしれませんが、児童書としては画期的でした。
フォーマットとしての要素は、いたってシンプル。
◎「ざんねん」というキーワードに則したユーモラスで悲哀のあるキャッチ
◎キャッチの世界観とマッチするイラスト
◎短めの本文
これだけ。
シンプルながら、ここに読者が面白いと感じる要素が凝縮されています。
しかも、このフォーマットはシンプルゆえに汎用性がめちゃめちゃ高い! 上記のキーワード(ざんねん)を変えれば、いろいろな方向性にアレンジできるので、類似本ヒット作も大量に生まれました。
まさに「売れるフォーマット」。個人的には特許ものだと思います。2016年の1作目の発行以来、いまだにシリーズ作や類似本が出てますからね。
実は文芸書にも「売れるフォーマット」が!
こういうフォーマットは、実用書や児童書にしか存在しないと思われるかもしれませんが、実は文芸書にも見られます。
「オーデュボンの祈り」(新潮文庫)
伊坂幸太郎さんのデビュー作ですね。この時点で「なるほど」と察した方も多いのではないでしょうか?
伊坂幸太郎フォーマットとは?
◎複数のエピソードがバラバラに進行し終盤ひとつに収斂
◎日常の中に非日常な設定(人物)をなじませる
◎スターシステム的な作品リンク
この形式を見るだけで伊坂幸太郎作品だと認識できますよね? 特に初期の作品に色濃く現れていました。これも優れたフォーマットの一種だと考えています。
なかでも登場人物の作品リンクのフォーマットは、昔からあるものですが、最近は特に顕著。辻村深月さんをはじめ同時期の作家さんに高頻度で採用されていますよね?
ファンとしては、単純に楽しみな作品リンクですが、「届け方」の視点で見ると、この仕掛けは意義深いものだともいえます。
出版不況となった近年。かつては普通にあった同一著者を追いかける「著者買い」が減少したとされているからです。人気著者であろうと、すべての作品が売れるわけではないという厳しい現状。
そういう中で「作品リンク」という仕掛けを入れれば、一度ハマった読者に同著者の他作品に興味を抱かせ、著者買いに誘導することができます。
厳しいとされる文芸市場において、人気作家であるならば、なおさら必要不可欠なフォーマットだったといえるかもしれませんね。
売れるフォーマットを意識してるんですが…
私自身、上記のような偉大なフォーマットを生み出せるよう、毎回チャレンジはしておりますが、なかなか……。
恐縮ながら自分の担当本のフォーマットを紹介します。
サクッとわかるビジネス教養シリーズ(新星出版社)
◎難しそうな教養知識を徹底的にビジュアル化
◎見出しを追うだけで会話レベルの情報をゲットできる
新しい腸の教科書(池田書店)
◎最新の医学情報を基本見開きでビジュアル解説
◎基礎知識から対策まで一冊あれば必要な情報は網羅できる
世界一細かすぎる筋トレ図鑑(小学館)
◎「普段使い」目的のビジュアル事典
◎一つを浅く、項目数と情報の幅で網羅感
◎異常に細かすぎる情報で真剣だけどユーモア演出
このように、なんとかシリーズ化に結びついた本もありますが、まだまだ修行が必要ですね……。いつの日か、自分も偉大なフォーマットを発明してみたいです。
文/編プロのケーハク
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