【総評】第54回アカデミー賞
総評
10作品の選定
まず作品賞にあがった5作品は
『炎のランナー』
『レッズ』
『アトランティック・シティ』
『黄昏』
『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』
です。
そしてノミネート数でみていくと
『ラグタイム』(8部門)
『フランス軍中尉の女』(5部門)
『ミスター・アーサー』(4部門)
で8作品です。
そして3部門ノミネート作品は
『スクープ 悪意の不在』
『ペニーズ・フロム・ヘブン』
『泣かないで』
です。
このうち脚本賞、脚色賞にあがっているのは
『スクープ 悪意の不在』
『ペニーズ・フロム・ヘブン』
です。
以上より
『炎のランナー』
『レッズ』
『アトランティック・シティ』
『黄昏』
『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』
『ラグタイム』
『フランス軍中尉の女』
『ミスター・アーサー』
『スクープ 悪意の不在』
『ペニーズ・フロム・ヘブン』
の10作品を今回の対象とします。
個人的ランキング
10位 炎のランナー
受賞 : 作品賞、脚本賞、衣装デザイン賞、作曲賞
ノミネート : 監督賞、助演男優賞(イアン・ホルム)、編集賞
英国映画らしい格式高いお上品な作品です。でもまあ退屈だったかな…大して盛り上がりもないですし。
冒頭、海辺を走る選手たちのシークエンスがピークであとは興味を失っていきました…あのテーマ曲はすごいですね。テンションあがります。
やはりそこまで厳格な宗教観というのは馴染みがないですし「意志を貫く」というよりも我儘にみえてイライラしました。もちろんそれが宗教家としての一面も持っている者として大切なことは分かってはいるのですが…
9位 ミスター・アーサー
受賞 : 助演男優賞(ジョン・ギールグッド)、歌曲賞
ノミネート : 主演男優賞(ダドリー・ムーア)、脚本賞
コメディとしてまあまあ楽しめました。放蕩息子アーサーが下町の娘リンダと出会い真実の愛をみつけるというよくある話ではありますが、豪華な美術やダドリー・ムーアとライザ・ミネリのケミストリー、そして執事を演じたジョン・ギールグッドの暖かみのある演技が華を添えています。
一方で婚約者スーザンの扱いに関しては疑問です。彼女は何も悪くないですし、妨害するようなことは何もしていない。にも関わらずあんな形で恥をかかせていいのでしょうか。父親の怒りももっともです。
主演カップルのコメディ演技、執事とアーサーの暖かい絆の描き方はよかったですが、「勝手な男性性」という問題が前面に出てしまった作品ではあると思います。
8位 アトランティック・シティ
受賞 : なし
ノミネート : 作品賞、監督賞、主演男優賞(バート・ランカスター)、主演女優賞(スーザン・サランドン)、脚本賞
うーん、イマイチルイ・マルにはハマれないんですよね。なぜだろう。特徴が今のところ見いだせていません。
寂れゆくカジノ街、老いた小物のヤクザもの、真面目に働く女といった情緒あふれる舞台立てではあるのですが何となく入り込めず…
観終わっても結局この映画は何がしたかったのかがよく分かりません。バート・ランカスターとスーザン・サランドンの演技は素晴らしかったですが。
7位 黄昏
受賞 : 主演男優賞(ヘンリー・フォンダ)、主演女優賞(キャサリン・ヘプバーン)、脚色賞
ノミネート : 作品賞、監督賞、助演女優賞(ジェーン・フォンダ)、撮影賞、編集賞、作曲賞、録音賞
1978年にブロードウェイで上演された戯曲が元になっており、父親と娘の不和を描いた物語である。それはジェーンとヘンリーの不和と重なります。
娘や孫との交流が中盤描かれるが、最初と最後を通して一貫してこの物語の軸となるのはヘンリー・フォンダ演じる偏屈なノーマンが愛を取り戻すということです。
厳しく育てられたと思われるジェーン・フォンダ演じる娘チェルシーとはあまり根本的な解決を示していないように思えます。また孫ビリーとの交流も心温まるものでありますが、反抗するのは最初のみで、意外と簡単にノーマンやエセルと仲良くなってしまうので葛藤が生まれようがない。
あくまでノーマンの心を描きたいというのは分かるのですが、娘と孫というある程度時間をかけて語らされているはずの話があまりに中途半端ではないかと思います。チェルシーの夫であるビルに関しては後半登場もしなくなるんですよね。
ヘンリー・フォンダとキャサリン・ヘプバーンの演技は素晴らしく、ユーモアたっぷりの毒舌っぷりは楽しいあたりです。
しかし葛藤があまりにあっさり解決したり、そもそも葛藤が描かれていなかったりと家族映画としては不満が多く残ります。チェルシーがあれで納得したのか甚だ疑問です。
6位 レッズ
受賞 : 監督賞、助演女優賞(モーリン・ステイプルトン)、撮影賞
ノミネート : 作品賞、主演男優賞(ウォーレン・ビーティ)、主演女優賞(ダイアン・キートン)、助演男優賞(ジャック・ニコルソン)、脚本賞、編集賞、美術賞、衣装デザイン賞、録音賞
実在したジャーナリストのジョン・リードとその妻でフェミニストのルイーズを描いています。196分という長尺を持たせるだけの強度を持った作品であることは間違いなく、ウォーレン・ベイティが監督賞を取ったのも納得です。
ドキュメンタリーのような形式が挟み込まれたりとなかなかに芸が細かいです。
見て損はないと思います。ただ、終始あまり興味が持てなかったのでこれくらいかな。ロシア革命とかに興味があれば楽しめるかもしれません。
演者はみな非常に良かったです。この役はダイアン・キートンじゃなきゃ説得力がなかったでしょうし、ジャック・ニコルソンもいつもとはちょっと違う一歩引いた感じでよかったです。
5位 スクープ 悪意の不在
受賞 : なし
ノミネート : 主演男優賞(ポール・ニューマン)、助演女優賞(メリンダ・ディロン)、脚本賞
非常に面白い社会派サスペンスでした。真実を追い求めるはずの報道が次々と人を傷つけていきます。
ポール・ニューマンをはじめとするキャスト陣も素晴らしく、サスペンスフルな展開に息を呑みます。
無冠なのは勿体ない、傑作サスペンスでした。
4位 フランス軍中尉の女
受賞 : なし
ノミネート : 主演女優賞(メリル・ストリープ)、脚色賞、編集賞、美術賞、衣装デザイン賞
映画の撮影をするキャストたち、そして劇中劇として描かれるその映画を並行して描くというトリッキーな構成になっています。劇中劇でアンナが演じるサラは、最近ケイト・ウィンスレットが『アンモナイトの目覚め』で演じた実在の化石収集家メアリー・アニングをモデルとしています。
19世紀を舞台にサラとチャールズ、そして現代を舞台に彼らを演じるアンナとマイクの不倫劇を呼応させて描いています。ラブロマンスと言っていいのかな。
構造自体が面白く、メリル・ストリープとジェレミー・アイアンズの演じ分けとそれが一致するような瞬間が興味深いです。役者と演技、現実と虚構の境目を曖昧にするような倒錯感が味わえます。
ただし不倫劇自体はそんなに面白いものではありません。ありがちな展開で飽きてしまったのは確かです。
それでもやはり演技巧者であるメリルの微細な表情の変化を観ているだけで感心しますし上手いと思います。ジェレミー・アイアンズのカッコよさも改めて思い知りました。『ハウス・オブ・グッチ』の年老いた姿でしか印象になかったので、いい役者なんだなと思いました。
トータルではまあまあかなとは思いますが演技合戦とクラシカルな演出がよかったです。
3位 レイダース/失われたアーク《聖櫃》
受賞 : 編集賞、美術賞、録音賞、視覚効果賞
ノミネート : 作品賞、監督賞、撮影賞、作曲賞
文句なしに楽しくてハラハラドキドキするアドベンチャー大作!流石スピルバーグですね。お宝を探しつつ出会った女性とのロマンスもあり、という冒険映画の定型の話ですがスピルバーグの抜かりない演出、奇想天外な怪奇要素や残酷描写、造形感覚がこの映画を1段階上に押し上げています。
2位 ペニーズ・フロム・ヘブン
受賞 : なし
ノミネート : 脚色賞、衣装デザイン賞、録音賞
『グッバイガール』『愛と喝采の日々』のハーバート・ロス監督のミュージカル映画です。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を彷彿とさせるなかなかの鬱映画でした。
楽譜のセールスマンが転落していくというダークな話とは裏腹にエドワード・ホッパーを意識したような構図だったり、往年のミュージカルをトレースしたようなあえてのクラシカルな魅力に溢れた作品です。
実際に歌っているのではなく、スタンダード・ナンバーを口パクに当て込んでいるという形なのですが、それが逆にダークなユーモアになっていてよかったです。
1位 ラグタイム
受賞 : なし
ノミネート : 助演男優賞(ハワード・E・ロリンズ・Jr)、助演女優賞(エリザベス・マクガヴァン)、脚色賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、作曲賞、歌曲賞
さすがミロス・フォアマン、息もつかせぬ展開で20世紀初頭のアメリカを上手く描いています。少々詰め込みすぎにも感じますが、一切飽きることなく鑑賞させる手腕は見事なものです。
消防士から嫌がらせを受けた黒人を中心に、この時代にはびこる社会の闇を多角的に描いています。
人種差別をきっかけに大事件へと発展していく様子をスリリングに描いています。常識的な白人もいる中、差別的な白人が暴走していく。彼のとった行動は過激ながらもごく真っ当です。それだけにラストには胸が痛くなりました。
人種差別というテーマを真っ向から描いており、当時のアカデミー賞には早すぎたのでしょう。作品賞に入ってもいいレベルの傑作に仕上がっていると思います。無冠というのはさすがに…
ミロス・フォアマンのキレが冴え渡る演出、ヒートアップしていく脚本、適材適所の配役など文句のつけようがない一作になっています。
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