アカデミー作品賞、個人的ランキング⑦(30位~21位)
みなさんこんばんは。
本日は作品賞ランキングの続きを書いていきます。
前回の記事はこちら↓
30位 『クラッシュ』(第78回・2004年)
6ノミネート、3受賞
受賞 : 作品賞、脚本賞、編集賞
ノミネート : 監督賞、助演男優賞(マット・ディロン)、歌曲賞(「In the Deep」)
他のノミネート作品
『ブロークバック・マウンテン』(8ノミネート・3受賞)
『ミュンヘン』(5ノミネート・0受賞)
『カポーティ』(5ノミネート・1受賞)
『グッドナイト&グッドラック』(6ノミネート・0受賞)
この回は本当に言及されることが多いですよね。近年で一番議論を呼んだ回でしょう。『ブロークバック・マウンテン』が圧倒的なフロントランナーと言われており、重要前哨戦である英国アカデミー賞、放送映画批評家協会賞、ゴールデングローブ賞、全米製作者組合賞の全てを制していたのに、アカデミー賞では本作にいきました。アカデミー会員が『ブロークバック・マウンテン』の同性愛描写を嫌ったためではないかと批判がされました。
とはいえ本作も全くのノーマークだったわけではなく、全米映画俳優組合賞のキャスト賞を受賞しています。なんとなく今年の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』と『コーダ』を連想させます。
質としては『ブロークバック・マウンテン』の方が圧倒的に高いと思いますし、受賞すべきだったのはそっちだと思います。しかし本作は群像劇として脚本がとてもよくできていて、人種差別や悪意の連鎖といった社会問題を上手くエンタメに落とし込んだ良質作だと思います。ある種わかりやすい面白さがある作品かなと思います。
批判されることが多い作品ですが、個人的には嫌いじゃない、むしろかなり感動して泣きましたしいい作品だと思います。
29位 『ゴッドファーザーPARTⅡ』(第47回・1974年)
11ノミネート・6受賞
受賞 : 作品賞、監督賞、助演男優賞(ロバート・デ・ニーロ)、脚色賞、美術賞、作曲賞
ノミネート : 主演男優賞(アル・パチーノ)、助演男優賞(リー・ストラスバーグ、マイケル・V・ガッツォ)、助演女優賞(タリア・シャイア)、衣装デザイン賞
他のノミネート作品
『チャイナタウン』(11ノミネート・1受賞)
『カンバセーション…盗聴…』(3ノミネート・0受賞)
『レニー・ブルース』(6ノミネート・0受賞)
『タワーリング・インフェルノ』(8ノミネート・3受賞)
『ゴッドファーザー』の続編がオスカーに輝いた年ですが、続編映画が作品賞を受賞したのは史上初、現在も唯一の作品です。また、コッポラはカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『カンバセーション…盗聴…』も作品賞候補に送り込んでいて、まさにコッポラの年と言えるでしょう。
実は一作目では作品賞は受賞したものの、監督賞は逃しています。しかし本作では監督賞も受賞、前作よりも圧倒的な強さでアカデミー賞を席巻しました。
それも納得、続編というとなんとなくダメになっていくような印象がありますが、一作目の雰囲気を引き継いだまま重厚な作品を創りあげました。そこにコッポラの非凡さがあるでしょう。アル・パチーノはもちろんのこと、助演男優賞を受賞したロバート・デ・ニーロを始め役者たちもこの世界にリアルに生きているようにしか思えません。
これ以上ない続編であり、納得の作品賞です。
28位 『ゴッドファーザー』(第45回・1972年)
10ノミネート・3受賞
受賞 : 作品賞、主演男優賞(マーロン・ブラント)、脚色賞
ノミネート : 監督賞、助演男優賞(アル・パチーノ、ジェームズ・カーン、ロバート・デュヴァル)、衣装デザイン賞、録音賞、編集賞
他のノミネート作品
『キャバレー』(10ノミネート・8受賞)
『サウンダー』(4ノミネート・0受賞)
『脱出』(3ノミネート・0受賞)
『移民者たち』(4ノミネート・0受賞)
この回はコッポラの『ゴッドファーザー』とボブ・フォッシーの『キャバレー』の二強と言えるでしょう。ノミネート数では同数ですが、『キャバレー』は監督賞を含む8部門を受賞と本作の3部門を遥かに超えています。
また、本作主演のマーロン・ブランドは、アメリカ先住民に対する扱いを訴えるため受賞を拒否、代わりに先住民の格好をした女性を登壇させ場内からブーイングがあがりました。このことについてつい先日、アカデミー協会はこの女性へ謝罪をしましたね。まあ彼女は実際の先住民ではなくラテン系の女優なのですが…
また、この回では1952年のチャップリン『ライムライト』が作曲賞を受賞しました。それはこの年に初めてロサンゼルスで上映されたため、ということのようです。また、外国語映画の進出も特徴的です。作品賞にノミネートされた『移民者たち』はスウェーデン映画にも関わらず主要4部門にノミネート、ブニュエルの『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』も脚本賞と外国語映画賞にノミネート、後者を受賞しました。
さて本作ですが、上述した通りコッポラの骨太な演出が光る名作だと思います。ドハマり、というわけではないですが、苦手なジャンルなのに全く飽きずに楽しむことができました。
27位 『シカゴ』(第75回・2002年)
12ノミネート・6受賞
受賞 : 作品賞、助演女優賞(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)、美術賞、衣装デザイン賞、音響賞、編集賞
ノミネート : 監督賞、主演女優賞(レネー・ゼルウィガー)、助演男優賞(ジョン・C・ライリー)、助演女優賞(クイーン・ラティファ)、脚色賞、撮影賞、歌曲賞
他のノミネート作品
『ギャング・オブ・ニューヨーク』(10ノミネート・0受賞)
『戦場のピアニスト』(7ノミネート・3受賞)
『めぐりあう時間たち』(9ノミネート・1受賞)
『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(6ノミネート・2受賞)
この回は、監督賞が見ものでした。作品賞レース本命の『シカゴ』ロブ・マーシャルか、無冠の帝王マーティン・スコセッシが『ギャング・オブ・ニューヨーク』でいよいよとるかという勝負でした。しかし本番で名前を呼ばれたのは会場に来てすらいなかった『戦場のピアニスト』ロマン・ポランスキーでした。
また、この年長編アニメーション映画賞を制したのは宮崎駿『千と千尋の神隠し』でした。宮崎駿も会場に来ていなかったですね。英語作品以外でこの部門を制したのは『千と千尋の神隠し』しかありません。
さて、本作ですが、ミュージカルというオスカー受けしにくいジャンルにも関わらずミラマックスという強力な配給のおかげもあり作品賞を受賞しました。ミュージカル映画が作品賞に輝いたのは1969年『オリバー!』以来約30年ぶりのことです。
元々人気だったミュージカルの映画化ということでポテンシャルはあるのでしょう。しかしそれでも失敗する映画化は多く、『オペラ座の怪人』や『プロデューサーズ』、最近だと『ディア・エヴァン・ハンセン』などは失敗作と言えるでしょう。
しかしロブ・マーシャルは元のポテンシャルを活かしつつ映画的な演出を適切に施し、誰もが楽しめるエンターテイメントに見事に仕上げています。役者もみな素晴らしく、演技、歌ともに申し分ない実力を発揮しています。レネー・ゼルウィガーが素晴らしいのですが、キャサリン・ゼタ・ジョーンズやクイーン・ラティファに食われている感はありかわいそうですね。
26位 『オール・ザ・キングスメン』(第22回・1949年)
7ノミネート・3受賞
受賞 : 作品賞、主演男優賞(ブロデリック・クロフォード)、助演女優賞(マーセデス・マッケンブリッジ)
ノミネート : 監督賞、助演男優賞(ジョン・アイアランド)、編集賞、脚色賞
他のノミネート作品
『戦場』(6ノミネート・2受賞)
『女相続人』(8ノミネート・4受賞)
『三人の妻への手紙』(3ノミネート・2受賞)
『頭上の敵機』(4ノミネート・2受賞)
この回の最多ノミネート、最多受賞は本作ではなくウィリアム・ワイラー『女相続人』でした。しかし監督賞は本作でも『女相続人』でもなく『三人の妻への手紙』のジョセフ・L・マンキウィッツにいきました。かなり割れた回なのではないでしょうか。
本作は2006年にショーン・ペン主演でリメイクされるほど名作と誉れ高い作品です。アメリカの政治腐敗を描いていて、戦後GHQ支配下の日本では公開されなかったほど痛烈な作品です。
貧しい農家出身の男が金、権力、欲望にまみれていく様を的確な演出で描き出しています。志は高いが、その理想を実現するためには汚い手を使わざるを得ず、だんだんと堕落していく様がリアルです。
秘書を演じたマーセデス・マッケンブリッジが実に素晴らしく、助演女優賞も納得の名演でした。リメイク版は観ていませんが、正直本作が素晴らしいのでこれで十分かと思います。
25位 『真夜中のカーボーイ』(第42回・1969年)
7ノミネート・3受賞
受賞 : 作品賞、監督賞、脚色賞
ノミネート : 主演男優賞(ダスティン・ホフマン、ジョン・ヴォイト)、助演女優賞(シルヴィア・マイルズ)、編集賞
他のノミネート作品
『1000日のアン』(10ノミネート・1受賞)
『明日に向って撃て!』(7ノミネート・4受賞)
『ハロー・ドーリー!』(7ノミネート・3受賞)
『Z』(5ノミネート・2受賞)
アメリカン・ニューシネマ真っ盛りの年ですね。本作、7部門ノミネートの『明日に向かって撃て!』、2部門ノミネートの『イージー・ライダー』とニューシネマの代表作が勢揃いです。『Z』はアルジェリアの作品にも関わらず作品賞を含む5部門にノミネート、外国語映画賞と編集賞を受賞しました。
これはもうダスティン・ホフマンをキャスティングした時点で勝ちでしたね。社会の片隅で生きる、どうしようもない、どうにもできない人々をそのまま切り取って、でもそこに僅かな救いを見出す、そんな物語に胸を打たれました。
「好きなことで生きていく」なんて建前で、目の前にある現実を受け入れなければならないという残酷な人生を見事に描いています。
24位 『許されざる者』(第65回・1992年)
9ノミネート・4受賞
受賞 : 作品賞、監督賞、助演男優賞(ジーン・ハックマン)、編集賞
ノミネート : 主演男優賞(クリント・イーストウッド)、脚本賞、撮影賞、美術賞、音楽賞
他のノミネート作品
『ハワーズ・エンド』(9ノミネート・3受賞)
『ア・フュー・グッドメン』(4ノミネート・0受賞)
『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(4ノミネート・1受賞)
『クライング・ゲーム』(6ノミネート・1受賞)
西部劇で作品賞を受賞したのは『シマロン』『ダンス・ウィズ・ウルブス』と本作の三作だけです。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が受賞できていれば四作目になったのですが…
日本関係で言うと、『ドラキュラ』の衣装をてがけた石岡瑛子が衣装デザイン賞を受賞しました。
クリント・イーストウッドは上手いなとは思うものの、そんなに心に残る作家ではありませんでした。しかし本作は素晴らしいと思います。
イーストウッドは西部劇スターとして出てきた人であり、本作では今まで演じてきた西部劇の型を自己否定するかのような演出をしています。雨に濡れれば銃は暴発するし、人を殺して平気なはずがない。西部劇のリアルを追求しながらも見事な脚本によってあくまで淡々と進めていく手腕はさすが。
「許されざる者」とは誰のことだろうかと考えさせられる、見事な作品です。
23位 『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(第76回・2003年)
11ノミネート・11受賞
受賞 : 作品賞、監督賞、脚色賞、作曲賞、歌曲賞、美術賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ賞、視覚効果賞、音響賞、編集賞
ノミネート : なし
他のノミネート作品
『ミスティック・リバー』(6ノミネート・2受賞)
『シービスケット』(7ノミネート・0受賞)
『マスター・アンド・コマンダー』(10ノミネート・2受賞)
『ロスト・イン・トランスレーション』(4ノミネート・1受賞)
ピーター・ジャクソンがてがけた『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の最後の作品、もうこれは受賞することが確定したようなものですね。『ベン・ハー』『タイタニック』と並ぶ歴代最多の11部門を受賞、またノミネートされた全ての受賞は『恋の手ほどき』『ラストエンペラー』の9部門を抜いてこれまた歴代最多です。
これはもう参りましたとしか言えないですよね。ここまでの映像美を見せつけられれば何も言えない。個人的には『ハリー・ポッター』派なのですが、作品の完成度ではLOTRの足元にも及ばないと思います。
もちろんファンタジーで作品賞を受賞したのは史上初、その後では『シェイプ・オブ・ウォーター』があるのみです。
22位 『我等の生涯の最良の年』(第19回・1946年)
10ノミネート・9受賞
受賞 : 作品賞、監督賞、主演男優賞(フレドリック・マーチ)、助演男優賞(ハロルド・ラッセル)、脚色賞、編集賞、ドラマ・コメディ音楽賞、特別賞(ハロルド・ラッセル)、記念賞
ノミネート : 録音賞
他のノミネート作品
『ヘンリィ五世』(4ノミネート・0受賞)
『素晴らしき哉、人生!』(5ノミネート・0受賞)
『剃刀の刃』(4ノミネート・1受賞)
『子鹿物語』(7ノミネート・2受賞)
これはもう圧倒的な強さですね。特に言うことはないですが、『素晴らしき哉、人生!』が一部門も受賞できていないのが意外なくらいですかね。
本作、終戦直後なのにアメリカの退役軍人が抱える心の傷をリアルに描き出していて、さすがだなと思います。
また助演男優賞を受賞したハロルド・ラッセルは実際の退役軍人でそれまで演技経験のない素人です。その彼を起用して、というのも凄いところですよね。
3人の退役軍人の仕事復帰の難しさ、体の不自由による偏見や差別、自らのトラウマをとてもリアルに、痛烈に描き出した名作です。
21位 『普通の人々』(第53回・1980年)
6ノミネート・4受賞
受賞 : 作品賞、監督賞、助演男優賞(ティモシー・ハットン)、脚色賞
ノミネート : 主演女優賞(メアリー・タイラー・ムーア)、助演男優賞(ジャド・ハーシュ)
他のノミネート作品
『テス』(6ノミネート・3受賞)
『エレファント・マン』(8ノミネート・0受賞)
『レイジング・ブル』(8ノミネート・2受賞)
『歌え!ロレッタ愛のために』(7ノミネート・1受賞)
この回は非常にハイレベルだと思っていて、ポランスキーの『テス』にリンチの『エレファント・マン』、スコセッシの『レイジング・ブル』とそれぞれの作家性が出た傑作が揃っています。
日本関係だと黒澤明『影武者』が美術賞と外国語映画賞にノミネートされました。
本作はホームドラマ全盛期の時代の遺物とされがちですが、非常に優れた作品で個人的にはすごく好きな作品です。
実際『アニー・ホール』(第50回)『クレイマー、クレイマー』(第52回)『愛と追憶の日々』(第56回)とこの手の作品が持て囃されたのは確かです。
しかし本作は家族という逃れられない閉鎖空間のようなものを意識的に描いているのが素晴らしいと思います。タッチは違いますがアリ・アスターの『ヘレディタリー/継承』と実はかなり近いと思っています。かなり怖い話だなと思うんですよね。
ロバート・レッドフォード、これが監督デビュー作とは思えない完成度で素晴らしいですね。やはり優れた俳優には監督の素質があるのでしょうか。『ミラグロ/奇跡の地』『リバー・ランズ・スルー・イット』『クイズ・ショウ』『モンタナの風に抱かれて』とどれも評判がいいので今後観ていきたいと思います。
ということでいよいよ大詰め!
トップ20とワースト5を書いていきます!
読んでいただきありがとうございました!