【アカデミー主演女優賞】個人的ランキング③【80位~71位】
今回は、アカデミー主演女優賞を受賞した作品を全部みたので、それをランキング形式で振り返っていこうと思います。
前回の記事はこちら↓
80位 『帰郷』 ジェーン・フォンダ
受賞 : 主演女優賞、主演男優賞(ジョン・ヴォイト)、脚本賞
ノミネート : 作品賞、監督賞、助演女優賞(ペネロープ・ミルフォード)、助演男優賞(ブルース・ダーン)、編集賞
他の候補者たち
『秋のソナタ』イングリッド・バーグマン
『結婚しない女』ジル・クレイバーグ
『インテリア』ジェラルディン・ペイジ
『セイム・タイム、ネクスト・イヤー』エレン・バースティン
『さらば冬のかもめ』ハル・アシュビー監督の反戦映画です。カンヌ映画祭コンペに出品されジョン・ヴォイドが男優賞を受賞、アカデミー賞では8部門にノミネートされ、脚本賞、主演男優賞、主演女優賞(ジェーン・フォンダ)の3部門で受賞しました。
うーん、凡庸な反戦メロドラマとしか思えなかったです。あんまり言うことがありません。
確かに下半身麻痺の負傷兵、夫の帰りを待つ妻という役柄はオスカー受けしそうではあります。でも彼らのベストアクトかというと違うと思います。特にジェーン・フォンダはこれじゃないでしょう…
演出も脚本もそつなくこなしてはいます。美術や衣装といったクオリティは高いですし、主演二人の演技もいいです。ただそれ以上がないんですよね。
79位 『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』 メリル・ストリープ
受賞 : 主演女優賞、メイクアップ賞
ノミネート : なし
他の候補者たち
『アルバート氏の人生』グレン・クローズ
『ドラゴン・タトゥーの女』ルーニー・マーラ
『マリリン 7日間の恋』ミシェル・ウィリアムズ
『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』ヴィオラ・デイヴィス
伝記映画というジャンルに囚われずに純粋にドラマとして楽しめました。過去を回想しつつ、夫の幻が導いていくみたいな語り方もよく、最後去っていくところで泣きました。
強い人だけど彼女なりに夫を愛していて国も愛していたのですね。でもそれが上手くいかずにどんどん空回りしてしまう虚しさと焦りも分かりました。きっと夫もそんな彼女だけど愛していたんでしょうし、容赦ない政策も国のためにやったということはみんな分かりつつあるんでしょうね。普通に上質な映画でした。あんな夫がいたら楽しいだろうなと思います。
メリル・ストリープ演技はいつもながら素晴らしいですね。芯がある強い女性を演じさせたら右に出る者はいない。彼女の三度目の受賞に相応しいパワーがある演技でした。
78位 『マデロンの悲劇』 ヘレン・ヘイズ
受賞 : 主演女優賞
ノミネート : なし
他の候補者たち
『愛に叛く者』マリー・ドレスラー
『近衛兵』リン・フォンテイン
エドワード・ノブロック原作舞台劇『子守唄』を脚色した作品です。舞台出身のヘレン・ヘイズは本格映画デビューにしてアカデミー主演女優賞を受賞しました。
泣いたけど、これ間に入った医師が一番悪いのではと思ってしまいました。それこそ女性の立場がひどく軽視された作品であり、美談として描いていい話ではないと思います。
ヘレン・ヘイズは可憐な娘から老婆までを見事に演じています。恋する乙女、裏切られても信じ続ける母、商売女に成り果てた年増女、貧乏な老婆と一人の役者が演じたとは思えない変わりっぷりです。
でも母が犯罪歴があるからって社会から隠す医師には怒りしかありません。少なくとも開業医になってからは息子に知らせるべきだろと…いくら彼女が嫌がっても親子なんだからさ。
短い尺で一生を語る早い展開はよかったです。こんだけ辛い話を延々やられてもという気がします。全体的な演出は文句はないです。演技派のヘレン・ヘイズを称えるべき作品であることは疑いようがないでしょう。でも当時の「ひたすら耐える良き女性」というステレオタイプそのままであることはちょっといただけないです。
77位 『惨劇の波止場』 マリー・ドレスラー
受賞 : 主演女優賞
ノミネート : なし
他の候補者たち
『モロッコ』マレーネ・ディートリッヒ
『シマロン』アイリーン・ダン
『HOLIDAY』アン・ハーディング
『自由の魂』ノーマ・シアラー
『ビッグ・ハウス』ジョージ・ウィリアム・ヒル監督作品。60歳をすぎてからスターになった舞台出身の遅咲き女優マリー・ドレスラーが主演を務め高い評価を得た作品です。
チャップリン共演の『醜女の深情け』などの個性派マリー・ドレスラーは主演女優賞受賞女優としては異質の存在、現在までみても彼女のような俳優が主演女優賞を受賞したことってないのでは?
安宿を営む女主人ミンとそこに下宿する湾岸労働者ビル、ミンが育てる捨てられた娘ナンシーは喧嘩しながらもなんとか暮らしていましたが、ナンシーの実母が現われたことで運命が狂っていきます。
ナンシーを一見ぞんざいに扱っているようで実は彼女を深く愛しているミンが健気で切なかったです。そして反発しつつもその愛を分かっているナンシー、浮気もするけどミンとともにいるビル、それぞれ優しくて愛情深いのにおもてに出せないのがもどかしい。
「あんたのためじゃないから!」と言いつつナンシーには自分のように、そして実母のようになってほしくないと学校に入れ、ずっと貯めてきたありったけのお金を使って女子校に入れるのです。不器用な愛が辛かったです。
終盤の展開は非常に辛いがミンのラストカットは爽やかだった。ナンシーは何も知らずにここを去った、それだけで幸せだと嬉しそうな顔に感動しました。マリー・ドレスラーは名演技です。人ごみで彼女を無言で見送る姿、連行されているのに清々しい表情の全てが素晴らしいです。
無駄がなくスッキリしつつもアクが強い演出はなかなかよかったです。なるほどこれは主演女優賞あげたくなるかもという納得の演技でした。
76位 『ボーン・イエスタデイ』 ジュディ・ホリデイ
受賞 : 主演女優賞
ノミネート : 作品賞、監督賞、脚色賞、衣装デザイン賞(白黒)
他の候補者たち
『イヴの総て』ベティ・デイヴィス
『イヴの総て』アン・バクスター
『女囚の掟』エリノア・パーカー
『サンセット大通り』グロリア・スワンソン
アメリカ万歳な『マイ・フェア・レディ』といった趣の作品です。甲高い声で教養のないビリーをジャーナリストのポールが家庭教師するうちに愛が芽生えるというよくあるラブコメです。
ビリーが学ぶのは専らアメリカの独立史です。ホワイトハウスやナショナルギャラリーなどアメリカが誇る文化のみを学ぶのが引っかかります。教養と言うのなら外国にも目を向けるべきだと思うのですが…
とはいえつまらない訳ではなく、ジュディ・ホリデイとウィリアム・ホールデンのケミストリーはみていて微笑ましい。ビリーが一人の人間としての自我を目覚めさせていく過程がユーモアたっぷりに描かれていきます。
最後までビリーの甲高い声は変わりません。一朝一夕の教育でずば抜けて賢くなるわけでもありません。そのあたりは誠実な描写だと思います。無理のない成長がリアルに感じられました。
75位 『愛しのシバよ帰れ』 シャーリー・ブース
受賞 : 主演女優賞
ノミネート : 助演女優賞(テリー・ムーア)、編集賞
他の候補者たち
『突然の恐怖』ジョーン・クロフォード
『THE STAR』ベティ・デイヴィス
『THE MEMBER OF WEDDING』ジュリー・ハリス
『わが心に歌えば』スーザン・ヘイワード
主演女優賞を獲得したシャーリー・ブースも37歳にして映画デビューとなりました。とはいえ素人ではなくベテランのブロードウェイ俳優で、トニー賞も三度受賞、そのうちの一つが本作の舞台版です。アカデミー賞では他に助演女優賞と編集賞ノミネートされています。
話としては完全なる男のエゴというか、どうなんだこれは、みたいな感じではあります。ただやはりシャーリー・ブースが良すぎるんです。昔のハリウッドっぽい「耐える妻」という役柄だとは言えますが、中年女性で欲求不満、アルコール依存症の夫を心配する繊細な感情表現が本当に素晴らしい。
これが単なる「昔のハリウッド映画」として片付けられないのは全編に貫く「欲求不満」という要素があるからです。運動部のユニフォームを着た若い男を見るローラ、居候のマリーを明らかに女として見ているバート・ランカスター演じる夫と、あまり昔のハリウッド映画では描かれない「性的欲求」を見事なバランスで描いています。
直接は描かずに過去の子供や結婚への後悔やいなくなって犬のシバなどうまーくオブラートに包んでいるのがいいですね。
74位 『断崖』 ジョーン・フォンテイン
受賞 : 主演女優賞
ノミネート : 作品賞、作曲賞(劇映画)
他の候補者たち
『偽りの花園』ベティ・デイヴィス
『HOLD BACK THE DAWN』オリヴィア・デ・ハヴィランド
『塵に咲く花』グリア・ガーソン
『教授と美女』バーバラ・スタンウィック
ヒッチコック作品で、主演のジョーン・フォンテインはオスカーを獲得しました。またケイリー・グラントはこれがヒッチコック作品初参加です。
影の使い方や終盤の夫が殺そうとしているのか?というサスペンス演出は流石です。ジョニーが牛乳を持って階段を上がってくるところ(牛乳に電球を入れて光らせることで毒が入ってるのかという疑惑を演出しているそう)とか、終盤の車の恐怖感などは素晴らしい。
ただ、そこに至るまでがいくらなんでも平板で冗長に感じます。ケイリー・グラントがラスト弁解するのですが、彼のキャラクターの積み上げがイマイチないので納得できないんですよね。
走り去る車を背後から捉え、リナの肩へ手を伸ばすのですが、やはりジョニーがリナを騙しているのではないかという疑惑が拭えなません。
それがもし意図的だとしても中盤までのジョニーの怪しさの積み上げが中途半端になってしまっています。
元々ヒッチコックが監督すると決まる前はB級映画として企画されていたそうなので、まあそれなりの内容な気がします。
ヒッチコック作品の中ではつまらない寄りだと思います。
73位 『ミニヴァー夫人』 グリア・ガーソン
受賞 : 作品賞、監督賞、主演女優賞、助演女優賞(テレサ・ライト)、脚色賞、撮影賞(白黒)
ノミネート : 主演男優賞(ウォルター・ピジョン)、助演男優賞(ヘンリー・トラヴァース)、助演女優賞(メイ・ウィッティ)、編集賞、録音賞、視覚効果賞
他の候補者たち
『女性No.1』キャサリン・ヘプバーン
『MY SISTER EILEEN』ロザリンド・ラッセル
『打撃王』テレサ・ライト
『情熱の航路』ベティ・デイヴィス
『カサブランカ』と並ぶ戦意高揚映画の傑作とされる本作、主演のグリア・ガースンがアカデミー賞で主演女優賞を獲得し史上最長となる5分半ものスピーチをしたことでも記録に残ります。
流れるようなプロットの上手さと演出の上手さは流石ウィリアム・ワイラーだけあり素晴らしいです。文句のつけようがないシンプルながらスマートな演出がいいですね。
主演女優賞を受賞したグリア・ガーソンもいいですが、個人的には息子のヴィンと恋に落ちるテレサ・ライトがキュートで一番魅力的でした。従うだけの女性じゃなくてちゃんと一本芯が通っている感じが素敵でした。
企画段階では戦争前だったためドイツ人のみを悪役に描くつもりはなく、始まってしまったためそう変えたというが、変える前の名残りがある気がします。途中登場するドイツ軍のパイロットはただの悪役という映し方ではなく何かもっと描きたかったんじゃないかと思わせます。監督自身ドイツ人だったわけですし。
こういう作品をどう観るかは難しいですが、映画としては文句のないクオリティだと思いますし、最後に死ぬのその人なの!?という驚きもありなかなか涙しました。最後の教会の演説はとってつけた感があり違和感がありましたが、敵に立ち向かおう!というよりも戦争が及ぼす精神的、物理的な傷を描いた反戦映画のように感じました。
72位 『ボーイズ・ドント・クライ』 ヒラリー・スワンク
受賞 : 主演女優賞
ノミネート : 助演女優賞(クロエ・セヴィニー)
他の候補者たち
『アメリカン・ビューティー』アネット・ベニング
『Tumbleweeds』ジャネット・マクティア
『ことの終わり』ジュリアン・ムーア
『ミュージック・オブ・ハート』メリル・ストリープ
予想していた通りかなり辛い話でした。終盤ブランドンが脱がされるシーンからはもういちいち止めないと観られませんでした。舞台は1993年のアメリカ南部ネブラスカ。まだLGBTQが「性同一性障害」とされていた時期であり、よりによって保守的な南部という。一番行っちゃいけない場所ですよね。
ヒラリー・スワンクは前半はナチュラルなティーンエイジャーという感じでしたが、厳しい展開になってくると演技力を発揮します。あの切れ長の目がいいですよね。
長編デビュー作ということで洗練されているかというとあまり…荒削りな部分がかなり多いという印象でした。同じく初長編でレズビアンを描いた『モンスター』パティ・ジェンキンスと比べても劣ると感じました。ガチャガチャした編集が気になり落ち着きがありません。
音楽の使い方は独特でフレッシュな感じで悪くなかったです。「ボーイズ・ドント・クライ」の曲のシーンやカラオケのシーンはよかったですね。
青春映画とサスペンス、マイノリティ要素を合わせて薄めたような感じです。ヒラリー・スワンクとクロエ・セヴィニーなど演技は素晴らしいですが映画としてはイマイチでした。
71位 『しあわせの隠れ場所』 サンドラ・ブロック
受賞 : 主演女優賞
ノミネート : 作品賞
他の候補者たち
『終着駅 トルストイ最後の旅』ヘレン・ミレン
『17歳の肖像』キャリー・マリガン
『プレシャス』ガボレイ・シディベ
『ジュリー&ジュリア』メリル・ストリープ
なかなか面白かったです。白人が貧しい黒人を育てるってなんか欺瞞じゃない?と思ってたんですが、ちゃんとそこにも触れるフェアなつくりでした。
裕福な白人に育てられてよかったね、というんじゃなくて、実の母親に寄り添う姿勢があったり、彼が本当に望むことは?という言及もあったりとよく考えられています。
サンドラ・ブロックはよかったですが、このノミニーの中では正直『プレシャス』ガボレイ・シディベや『17歳の肖像』キャリー・マリガンの方が…とは思ってしまいます。この二人の方が演技という面ではサンドラ・ブロック以上の貢献をしている気がします。