いまこの時期だから身につけたい、日常生活にも絶対に役立つ「ディベート思考」【瀧本哲史『武器としての決断思考』星海社新書】
『2020年6月30日にまたここで会おう』という本がある。
経営コンサルタントで京都大学准教授だった瀧本哲史さんが8年前の2012年6月30日に東京大学で行った講義を書籍化したもので、僕はその2020年6月30日に合わせて本を発注しようとしたら、同じことを考えている人が多かったらしくAmazonでまさかの売り切れ状態。ということで、期間限定で全文無料公開されていたnoteでいったんお茶を濁しつつ、瀧本さんのほかの本を読み漁ることにした。
さて、この『武器としての決断思考』のテーマは「ディベート」である。瀧本さんが京都大学で当時行っていた「意思決定の授業」を1冊に凝縮したもの、と「はじめに」で触れられているが、この本一冊そっくりそのままディベートのスキルとして応用することができる。
ちょうどこれを読んだ2週間くらい前に、かの『ファクトフルネス』を読了していた。『ファクトフルネス』ではデータを正しく見抜く力を学んだが、この『武器としての決断思考』ではその情報が本当かどうか疑う力を学ぶことができる。
僕がこの本で一番勉強になったのは、どういう意見が「正しい主張」になりうるか、という論述である。そもそも主張はメリットとデメリットを踏まえて考える必要があり、メリットは「内因性」「重要性」「解決性」の3条件が、デメリットには「発生過程」「深刻性」「固定性」の3条件が含まれる。これらを前提として、「正しい主張」はつぎの3条件を含んでいなければならない、と瀧本さんは記している。
1. 主張に根拠がある
2. 根拠が反論にさらされている
3. 根拠が反論に耐えた
これ、個人的には3.が大きなポイントのように思える。たとえばいまの新型コロナウイルスに関しても、やれGoToキャンペーンはやらないべきだとかPCR検査をもっと増やせだとか、いろんな議論が巻き起こっている。この場でこれがいいのか悪いのかを書くつもりは毛頭ないが、少なくとも「根拠が反論に耐えているのかどうか」と言う基準はものすごく使えるポイントだと思う。この視点で見ると、SNSの数多の議論でも「あ、この人反論にたじろいで論点すり替えようとしてるな」という意見がよくわかるようになってくる。もっとも一番わかり易いのは反論に対して何も言わない、という行動なのだが。
意見を言うにしろ言わないにしろ、情報を見抜くという点ではこの「ディベート思考」は大いに有益だと思う。前述したように『ファクトフルネス』はデータを正しく見抜く力について書かれているとするなら、この『武器としての決断思考』は論理を正しく見抜く力について書かれている。情報過多の時代を生き抜くにあたって、決して侮ってはいけない、いや、ものすごく重要な情報との向き合い方が満載の一冊である。
ちなみに、この本にはこうしたディベート思考をあまり使いすぎないよう釘を刺している。
何度も言うように、ディベートは相手を論破することが目的ではないのですが、自分だけがディベート思考をマスターしている場合、どうしても相手を論破してしまいがちなので(しかも、いともカンタンに)、注意が必要です。
やりすぎると、すぐに人間関係が悪くなってしまいます……。
もしかしたら、瀧本さんがこの本で一番強調したいのはこの一節だったのかもしれない。「2020年6月30日」を待たずして鬼籍に入られてしまった瀧本さんにいまや確認するすべはないのだが、ひとまずディベート思考のやりすぎには十分気をつけたい。