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短編小説

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短編小説(7,000字以上)のまとめ。 ほんの少しのんびりしたい時におすすめです。
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#恋愛

世界で一番綺麗な嘘

世界で一番綺麗な嘘

 失恋をした。
 遠山タイチ、容姿も成績も至って平均的で凡庸だ。事は四月十日の昼下がり。校舎同士を繋ぐ渡り廊下から、春らしい花風がほんの少し髪を揺らす。
 廊下から死角になっている階段の踊り場に僕と僕の好きな人の二人きり。その一角は渡り廊下と比べて日陰になっていて、ほんの少しひんやりとしている。

「す、好きです……僕と付き合ってくれませんか?」
「ごめんね、遠山くん。私好きな人がいるの」

 色

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「君があまりに消えそうだから」【短編】

「君があまりに消えそうだから」【短編】

※本作品はエブリスタ、超妄想コンテスト「雨音」に応募した作品です。

 彼女の長い髪はいつも、決まって緑のいい匂いがした。夏になりかけているのだろう。湿気を帯びた梅雨入り前のこの季節、少し汗ばんだ彼女の首に長い髪がひっついているのが妙に色っぽかった。カラン、とアイスコーヒーの氷が鳴って、水滴がコップを伝う。

「ねえ、散歩に行こうよ」
「外は雨だよ。それでもいいの?」
「いつも言ってるじゃん。雨だ

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