世界で一番綺麗な嘘
失恋をした。
遠山タイチ、容姿も成績も至って平均的で凡庸だ。事は四月十日の昼下がり。校舎同士を繋ぐ渡り廊下から、春らしい花風がほんの少し髪を揺らす。
廊下から死角になっている階段の踊り場に僕と僕の好きな人の二人きり。その一角は渡り廊下と比べて日陰になっていて、ほんの少しひんやりとしている。
「す、好きです……僕と付き合ってくれませんか?」
「ごめんね、遠山くん。私好きな人がいるの」
色々考えていた台詞は緊張で全部吹っ飛び、お手本のような告白台詞を決めた。そしてそれと同様、清々しい程お手本のようなお断り台詞を頂戴した。
「ごめんね、本当に!」と、音を立てて小さな両手をその愛らしい顔の前で合わせて、スカートを翻し僕の好きな人、佐久間メイは踊り場を後にした。
渡り廊下を駆けていく彼女の高く結われた焦茶色の髪と赤いリボンが、日に照らされ黄金色に輝く。そしてそのまま、彼女は一度たりとも僕を振り返りはしなかった。
一人残された僕は、視界から消えていく振り返らない彼女を見て、フラれたという現実が身体に重くのしかかる。
地球に帰還したばかりの宇宙飛行士の如く踊り場にへたりこむ。僕にとっては告白というのはそれだけ大きなことを成し遂げたのと同義だった。
残りの昼休みを踊り場でそのまま放心していると、五限手前のチャイムが鳴った。ズッ、と鼻を啜って重い腰を上げ教室へ戻る途中、グラウンドからサッカー帰りの幼馴染である平澤ヒデに遭遇した。彼は勉強こそできないやつだが、整った容姿のせいでだいぶその弱点が希釈されているらしかった。
「えっ、タイチ、お前何泣いてんの?」
「泣いてねーし、花粉症! んなことより五限遅れんぞ」
「そんな急がなくたって、次の前島せんせーいつも遅刻じゃん」
*
こうして、僕は失恋した。
その後、僕がどのようにして授業を受け、部活をし、このように帰路についているのかまるで記憶がない。
周りの家々の換気扇から漂う夕食の香りが仄かに香り、春先のまだ少し肌寒い風と共にかすかに僕を通り過ぎていく。
ポケットの中で携帯が震えた。連絡は母親からで、「お母さん帰り遅くなりそうだから、夕飯自分で買って先に食べて」というメッセージにかわいいクマのスタンプがついていた。
「メシ作るのはちょっと面倒だけど……一人にしてほしいからちょうどいいか」
「了解」と短く返信を終えた頃、間髪入れず今度は平澤ヒデから連絡が入った。
「オレ、佐久間メイと付き合うことになった! とうとう俺に彼女だぜ! 羨ましいだろータイチ!」
彼のタイミングは最悪だった。僕のHPは0どころかマイナスだ。
「そうか、親友として祝福するさ。佐久間さん泣かせたりするなよ?」と、苦し紛れの返信をする。
しかし彼女、佐久間メイの好きな人がこいつなのだとしたら、その幸せを祈るのが男というものだろう。
これでいいのだ。それに彼女と万が一付き合えたその暁には、僕は幸せを背負う覚悟をしなくてはならないじゃないか。
勝手に納得したふりをして道の真ん中で天を仰いだ。全く、嫌なことがあった日に限って空は綺麗な日の入りをする。そして、まるでその日が素敵な日でした、と嘘をつくんだ。
この日の黄昏は皮肉なことに、それはそれは綺麗な黄昏だった。そして僕は少しまた、花粉症を発症した。
*
夕飯の買い物を済ませて店から出ると、辺りはだいぶ日が落ちていた。鼻腔を満たす酸素は夕方の香りから夜の香りへと移ろいでいる。
ふと、古臭い黒電話が目に入った。
それは向かいの酒屋の店先にポツンと置かれ、よほど古いものなのか風が吹くとカタカタと音を立てていた。黄色い円盤ダイアルには見慣れない古い漢数字がふってある。
店の切れかかった蛍光灯が不規則に黒電話を照らしている。夜だという訳ではないのに、辺りは静まりかえっていてどこか寂しさと不気味さを覚えた。
都心からそう遠くない郊外なのだが、忙しなく動く電車や車、人々の喧騒はまるで遠くの知らない世界、とでもいうように、この街は夜に同じ場所とは思えない別の顔をするのだ。
しかし、公衆電話の生き残りを街中で見かけることがあっても、黒電話はそう見かけない。
僕は物珍しさに黒電話のダイアルを回してみた。カシャ、カラカラカラ……と慣れない音を聞いた。が、何も起こらない。試しに受話器を耳に当てるも、向こうからは何も聞こえなかった。
その時立て付けの悪いドアを開け、酒屋の店主がタバコをふかしながら出てきた。
「あぁその黒電話……そいつァもう動かねェぞ。誰かが捨てていきやがったんだ。丁度いいや少年。アイスやっから、悪ィがそれ持っていってくれねェか」
「えっ、いやちょっと」
「頼んだぜ少年よい。そいつァなんか、願いが叶うだのなんだの言ってオメーら少年みたいな奴らが集って仕方ねェんだ」
「はぁ……わ、分かりました」
春先の日の入り後はまだまだ肌寒いというのにどうしてアイスで釣られようか。
しかしその店主のいう指定のゴミ捨て場は僕の家とは真反対方向だ。失恋に加え、告白した女の子の好きな人が、幼馴染だと言う事実を喰らった、HPマイナス超過の僕にはもうそんな気力は甚だ無いため、明日登校する時に捨てに行こうとその黒電話を家に持ち帰った。
部屋に置かれた黒電話は、元号令和のこの時代、非日常のものであるためか、僕の部屋では異質な存在感を放っている。
店先でやったようにダイアルを回し、受話器に耳を当ててみるも、やっぱり何も起こることはなかった。
*
夜が街を暗く落としていく。
僕しかいない家の中は妙に冷たく色を落としていた。夕食で食べた野菜炒めの濃い味付けはまるでなんの味もせず、垂れ流しているテレビのバラエティをBGMに少年漫画を読み漁るも、テレビにも漫画にも集中できず、ついには寝付けないときた。
人生初の告白は、人生最初の失恋になった。初恋は実らない、という文句や昼間の納得を思い返せどもそんなことで咀嚼して飲み込めるはずもなく、失恋の影響は大きく僕に現れた。
夜は嫌いだ。頭が冴えて、どうしようもない一瞬を思い出しては後悔するからだ。
例えば今日。佐久間メイに告白をしなければよかった、とか、もっと気の利く告白の台詞を言えばよかった、とか、それ以前に好きになんてならなければよかったなどと延々と考えてしまう。
そうやって夜の暗闇は僕のどうしようもないところを煽っては、不条理を嘆いて、屁理屈や御託を並べて明日を準備する。
明日、僕は彼女にどんな顔をして会えばいいのだろう。
寝付けない僕は延々と無駄にネットの海を彷徨った。深夜3時を回ってもいよいよ寝付くことはできなかった。
「ん?なんだこれ。睡眠BGM夜に溶け込む音…?」
動画の題名は『夜に溶け込む音』と書いてあった。ただの興味本位なのだが、妙に気になってその動画をタップしようとした
シャリリリリリリリリン……!
電源も繋いでいなければ、もう動くはずがない黒電話がけたたましく部屋に鳴り響いた。
仕事から遅く帰宅し、寝ている両親を起こすまいと、携帯を放り投げ気味が悪いなど考えるよりも先に受話器を取って耳に当てた。
「も、もしもし……」
次の瞬間、僕は暗闇の中に落ちた。
*
それはどこまでも底がないらしい。僕はずっと落っこちた。段々と、それは落ちているのかすらわからなくなった頃、僕は……
僕は夜に溶けていた。
環状線を走る車のライトが僕に尾を引いて巻きついて、街の灯りは僕をカラフルに彩った。大きな満月は僕に浮かび、街は僕の足元にあった。
一瞬で空に浮かべられ、僕はパニックになる。先程の「夜に溶け込む音」のせいなのだろう。それによって見せられている夢なのだろうと何度も言い聞かせた。
パニックをそれで落ち着かせ、自分に納得させようとした。しかし実際は、その音声を聞く前に黒電話が鳴り、その受話器を取ったから例の音声は聞いていないのだ。頑張ってその事実にシカトを決め込もうとしているうちに、段々と状況が飲み込めてきた。
景色はまるで終わりのないスカイダイビングのようで、体感的には大海に身を委ねているようなそんな感覚だった。眼下に浮かぶ景色は、僕の住んでいるどうしようもなく寂しい場所から、川を隔てた先の都会までと、とても広い。都会はこの時間でもまだ、寝ていないようだった。
暫く浮遊した後、僕は街に降りてみた。降りた先は地元から少し離れたなんの変哲もないただの公園で、小さな遊具の上に一匹黒猫が座っていた。
真っ暗闇の夜の僕と同じくらいに黒く、僕と同様月を浮かべるかの如く綺麗な黄色の目をはめていた。黒猫はじっと僕を見ていた。
そして僕は気がついた。夜を浮遊してかなりの時間が経ったはずなのに、一向に東の空から陽が上らないどころか、明るくすらもならなかった。
「随分と時間が経つのに」
「夜が明けない、と?」
声のした方は黒猫がいた方向。恐る恐る目をやると、案の定その言葉は黒猫のものだった。
「君が夜でいる限り夜は明けないよ」
黒猫はそう付け加えた。
相変わらず、遊具の上から動く様子もなく、淡々と僕に話かけてくる。
夜が明けないはずもない、それにこのままずっと夜でいるだなんてとんでもない。僕は夜が嫌いなのだ。これは「夜に溶け込む音」で僕が眠り、見ている夢なのだから。そうじゃなければ猫が喋るなどという非現実が成立するはずがない。
僕はそう自分に押し通し、公園を後にした。砂利を踏む音がアスファルトを踏む音へと変わった頃、僕はまた、夜を浮遊した。
それから僕は色んな夜を纏った。
ある時は新宿の廃れているのかわからないネオンの看板が連なる飲み屋街。それは一本道のどこまでも続き、また道を挟んだその向こうまで続いていた。
男女が楽しそうに飲み交わし、お金で愛を買って煙草の白い煙を吐いた。それでもその顔には笑顔が貼り付き、幸せだと言っていた。昼間よりも明るく、その電飾と笑顔は新宿の街を彩っていた。
夜は嫌いだ。偽物の明かりが街を埋め尽くすから。嘘の愛してるが聞こえるから。
次は静かなワンルームの一室。女の子が1人、こんな時間に寝ることもなく、月明かりさえも届かない部屋の隅、暗闇の中で泣きながら自分を切りつけていた。
彼女には少し大きめのその白いシャツは、彼女のものではないことは一目瞭然だった。おそらく彼女と関係のある男性のものだろう。父親か、彼氏か、それは定かではない。
彼女はやがてそれを抱きしめて、キュッと身体を小さく丸めて寝ようとした。白いシーツは彼女の血で段々赤く染まった。
夜は嫌いだ。しらない温もりを思い出すから。寂しいことに蓋をするから。自分に傷をつけるから。
またある時は閉園後の遊園地。まだ帰りたくない彼氏と、その彼女。
先刻まで煌びやかで賑やかだったその場所も、今ではシンとして暗闇の中である。どうやら別れ話らしい。
彼女はお洒落したその姿の背を向けて、静けさ故あまりによく響くヒールの音を立てながら去ってしまった。しかしその顔は濡れていて、光る涙の跡が白く筋を作っていた。
一方彼氏も夜の静けさに溶けるくらい静かに泣いていた。彼の手に持っていたのは白い箱に入った指輪だった。
夜は嫌いだ。誰かの泣く声が聞こえるから。誰かの背中を見送るから。
最後に纏ったのは、僕の地元で僕の部屋。僕はベッドに横たわって眠れないでいる。窓の外からは僅かに虫の声が聞こえてくる。今日のことを後悔しているのだろう。今更どうしようもないのだが、初恋相手の彼氏が親友などという、起こり得る最悪のシチュエーションの中でこれから生きていかなければならないのだ。
夜は嫌いだ。君を思い出すから。明日を生きられるか不安になるから。
ふっとまた別の夜を纏うと次の夜はまた、黒猫のいた公園だった。遊具という遊具も、ブランコと背の低い滑り台のみの小さな公園だ。黒猫はまだ、遊具の上に座っていた。
「どうだい? わかっただろう。君が夜でいる限り朝が来ることはないんだよ」
黒猫が言った。シャンと足を揃えて座るその姿はとても美しかった。黒猫の言う通り、いつまで経っても、何度夜を纏ってもこの夜は終わらなかった。どこかで夢ではないのかもしれないと思っていたその不安は、僕が何度も夜を纏ううちに確信へと変わっていた。
「僕はどうしたらいいんだ?」
「どうだった? 夜纏った気分は」
黒猫は姿勢を変えず、その黄色い目で僕を見つめ続けた。瞬きを一切せずただひたすらに僕を見ていた。
質問に質問で返されたことに刹那のイラつきを覚えるも、頼るに頼れるのはもうこの黒猫だけだと思い、グッと我慢した。
「……僕は夜が嫌いなんだ。どこもかしこも嘘だらけじゃないか」
「なあんだ。ワタシはてっきり、君は嘘がわからない人間なんだと思っていたよ。この世界では愛さえも黒く染まっている。しかし唯一、嘘だけ白く染まるんだ」
僕が染まったこの長く沢山の夜には、僕が嫌いな嘘が散りばめられていた。誰かが嘘をつく度、僕の一部が白く染まった。
「綺麗だと思わないか? 嘘だけが光る世界」
黒猫は目を細めた。まんまるの満月のようだったその黄色い目は、三日月のようになった。
「綺麗なわけないだろ。嘘は汚い。誰かを騙すじゃないか。よく綺麗事のように優しい嘘だなんて口にするけれど、優しい嘘だなんてちっとも優しくない。嘘は嘘しか生まないじゃないか。それの何が綺麗なんだよ」
「嘘は本当になれるんだよ。嘘ってのは、理想を吐いた妄言だ。本当にそうだと、自分の中で嘘を本当にしてしまえば、それはもう本当なんだよ。魔法、とかいう奴もその類いさ。祈って、信じて、結果としてその願いがカタチとなって現れたそれを、魔法と呼んだに過ぎない」
雄弁に黒猫はつらつらと話を続けた。艶やかな黒猫の漆黒の毛は時に月明かりを受けて時々銀色に輝いているように見えた。
しかし、僕は嘘なんてついていない。現に、僕の夜を纏った時、僕は白く染まらなかったし、僕は嘘が嫌いだからだ。
「そんなのハッタリだろう。僕は嘘なんてついちゃいない。君の言う通り、嘘が白く染まるのだとしたら、僕の夜では僕は染まらなかった」
「ふうん。じゃあ……君のそれは一体なんだっていうんだい? 君が今の今までずうっと携えているそれは」
「……え?」
黒猫が愛らしい短い手で指し示したのは、月だった。月は僕が夜になったその時からずうっと僕に浮かんでいた。月のまばゆい白い光は僕の一部だった。
「月はこの世で一番の嘘さ。どんな形であろうと、どんな姿として崇拝されようとも、夜の嘘を上からじっと見ている。だからこの嘘だらけの夜の暗闇の王様に相応しいのさ。だから君は夜になってそいつを自分に浮かべているんじゃないのか? それにどうだ、月ばっかりじゃないさ。その星々はどうなんだ。君は沢山嘘をついただろう? よく思い出してごらんよ。君は、誰に嘘をついたんだい?」
「僕は……」
記憶が脳内を駆ける。失恋をした今日を、不思議な体験をした今日を。走馬灯のように巡り廻るそれは映像のように見えた。
最悪な一日を数秒でリプレイする。ビデオの早回しのように、キュルキュルキュルと巻き戻されていく。一時停止したそこには、平澤ヒデからのLINEに返信をしたところ。
『僕は幸せを背負う覚悟をしなければならない』
『それが彼女の幸せだ』
『友達として祝福するさ』
脳内に僕の心の声がリダイレクトされる。再生ビデオはまた早回しされた。
『初恋は実らないんだ』
『これは瞬きする間に眠れる音が見せている夢なんだ』
『僕は嘘なんてついてない』
また僕の声が聞こえた。そこからビデオは僕の知らない僕の声を沢山僕に流し込んだ。
「僕が嘘をついたのは、自分?」
僕は知らない間に自分に沢山嘘をついていた。自分を納得させるための嘘を、誰かを傷つけないために、あるいは自分が傷つかないために自分を殺すような嘘を。一番の嘘つきは僕だった。
「そうだ。君は自分に嘘をつくことで自分を作り上げたんだ。さあ君はどう思うのかな? 君に浮かんだその月の分、そして数多煌めくその星の数。今日だけじゃない今までついてきた自分自身の嘘を見ないふりをして、それらを汚いと言うのかな。それとも、嘘を突き通してそれを綺麗だというのかなあ」
僕は悔しかった。どんなに取り立てて述べるようなものがない僕でも、人並みの幸せがあるのだと思っていた。
親友はその幸せをともに喜んでくれる存在であると思っていた。綺麗な日の入りは本当にその日が綺麗だった証拠だと思っていた。しかし、全てが僕の作った嘘だというのなら、僕の嘘はきっと。
「綺麗だ」
嘘は、本物になる。幸せだって、親友だって、綺麗な空だって、全部僕がそう思っていれば本物になるんだ。それなら、そんなに綺麗な嘘はないだろう。
「僕に見覚えがあるだろう、遠山タイチ。さあ」
黒猫はあの黒電話そっくりだ。目の色はあの文字盤に。体の漆黒は電話の躯体に。僕は店先にいた黒猫を預かっていたのだ。僕は黒猫、いや黒電話の受話器を取った。
シャリリリリリリリリリン……!
僕は目を覚ます。身体を右へ寝返らせると目の前の時計は朝の6時を指している。日にちは四月十日。
時間が戻っている。この日は僕が佐久間メイに告白する日で、同時にフラれた日である。
昼下がり。校舎同士を繋ぐ渡り廊下から、春らしい花風がほんの少し髪を揺らす。廊下から死角になっている階段の踊り場に僕と僕の好きな人の二人きり。その一角は渡り廊下と比べて日陰になっていて、ほんの少しひんやりとしている。
「す、好きです……僕と付き合ってくれませんか?」
「うん。私でよければ。遠山くん」
顔を赤らめて優しく笑い、渡り廊下へ駆けていく。彼女の焦茶色の髪が日に照らされ黄金色に輝く。
嘘は魔法だ。祈って、信じたそれが願いというカタチになって現れる。嘘を本当にしてしまえばそれが本当なのだ。
彼女は渡り廊下で一度立ち止まって振り返り、僕を見て手を振った。
その髪を結う髪留めは真っ白なリボンだった。
僕が信じた、僕が祈った嘘が本当になった魔法のような世界で、彼女はこの夜で一番綺麗な嘘になった。