ずっと山盛りのパフェの夢を見て
大きなパフェに憧れている。椅子に座って、少し背筋を伸ばさないとてっぺんが見えないくらいの大きなパフェ。
生クリームがどでーん、と乗っていて、チョコレートがたっぷりとかけられた、まるで夢の国のような、非日常を感じるような食べもの。
それが『パフェ』である。
私は慌ただしい日々が続くと、「甘いものをたらふく食べたい!!!!!もう限界だー!!」と身体の内側が私の脳内に向けて叫ぶようになり、ふつふつとパフェへの憧れが湧いてくるのだ。
ということで、数日前からどうしてもパフェが食べたくて、3連休の最終日にパートナーと近所の行きつけの喫茶店にパフェを食べに行った。
路面電車沿いにある、昔ながらの喫茶店。(しかもなんと喫煙可能!)
木製のドアを引くと、「カランカラン」と高い音がなり、マスターとウェイトレスが出迎えてくれるのだ。
そのうち、「いつもので」なんてお決まりのフレーズを言えるようになりたいのだけど、それはまだまだ先のことになりそう。
奥のテーブルに通されて、赤いソファーに腰をかけてメニューをパラパラとめくってみる。
パートナーは躊躇せず「バナナチョコレートパフェと、アイスコーヒーを」とすでに頼んでいて、その隙に私は一瞬だけ悩んだ後、強い意志で、「チョコレートパフェを、もう1つ」と加えたのだった。
ちなみに、この喫茶店の赤いソファーは座ると沈むような柔らかさで、すごく好き。
やっぱり、喫茶店の椅子がふかふかだと"この喫茶店はわかってるな"と思ってしまう。
本を読んだり、考えに耽ったりするには椅子はふかふかでなくっちゃ。
どすん、と腰かけて本を読む心地よさったら、もう。
そういえば、私がパフェへの憧れがあるのには大きな理由がある。
遡ること15年以上前。かつて私が小学生だった頃、地元、愛媛県松山市のジャスコ(現在はイオン)にはとっても大きなパフェを食べることができるお店があった。
『ピア・ジョリー』というそのお店は、ジャスコの3階にあって、大きなガラスのショーケースにパスタやハンバーグ、スイーツトーストなどがそれはもう、綺麗に陳列されており、看板は煌びやかにネオンが輝く、どことなく艶やかな雰囲気があるお店だった。
当時のジャスコは窓が一切なく、建物全体的にどことなく暗い雰囲気が漂っていた。
私はその雰囲気があまり好きではなく、せっかくの週末のお出かけに連れて行ってもらったとしても、どちらかと言えば早く帰りたい、と思ってしまう子どもだった。
そんな私でも唯一、ジャスコの中の好きなお店、それが『ピア・ジョリー』だった。
通常サイズのパフェは家族で出かけた際に何度か食べたことがあった。
ただ、お店のすごいところは、とにかく大きな『ジャンボパフェ』の存在!!!
30センチほどはあるんじゃないか、というくらい大きな器に入っていて、アイスやバナナ、生クリームが所狭しと詰めこまれている。
私は最下層に入っているコーンフレークを推していて、アイスに浸してふやかしながら、生クリームと一緒に食べるのがたまらなく好きだった。
あと、驚くべきことなのだけど、このジャンボパフェには花火が乗った状態で登場する。
当時はスマートフォンがまだ普及していなかったので、写真映えなどの概念はなく、ただただパフェの上に花火が乗っている、という構図が愉快でおかしくてたまらなかったのだ。
いつしかジャスコはイオンに変わり、ピア・ジョリーもなくなってしまった。
そして、私は1度しか食べる機会がないまま青春が終わってしまった。
だからこそ、こうやってたまに思い出しては、無性にパフェを食べたくなるのだ。
人は機会を逃して食べられなかったものをこうして、人生の中で何度も思い出すのだろう。
そんなことを考えている間に、カトラリーとお皿が目の前に置かれて、ついにはパフェが目の前に運ばれてきた!
パフェという存在は変わらずきらきらしている。
生クリームはふわふわで、私が溶けてしまいそうなくらいに甘ったるい。
だからこそ、たまに感じるオレンジなどの果実の酸味が心地よいのだ。
半分ほど食べ進めてから、さくらんぼに溶けたチョコレートをいっぱいに浸して口に頬張る。口の中が大渋滞を起こすのだけど、その”むつこさ”が、よかったりする。
(むつこい、というのは愛媛ならでは※の方言らしい。上京後に最も驚いたことのひとつである。)
※諸説あり
そんなことを考えながら、スプーンを無心で掬い続けてようやくカチャン、と底に当たる音がした。
27歳。ジャンボパフェに夢見ていた10歳の頃の私が想像することができない日々を今、きっと生きている。
ただ、あの頃焦がれていたパフェ1つ食べただけで胸焼けしてしまう、なんて未来もまた、想像していなかったのだろうな。
そんなことを考えながら、私はまた明日から働いて、生きていくのだ。
時々、あのパフェに出会った頃の感動と、愉快な様と、生クリームの甘ったるさを思い出しながら。
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