いつか離れる、その日まで〜キニナル彼女が気になる私⑥〜

　娘が、朝から嘔吐した。
　一度でスッキリしなくて、ご飯を食べかけては、トイレに行く。
　学校、休む？だったら連絡しないと。
　慌てて学校に電話した。担任はおらず、電話口の男性に、伝言をお願いした。

　気持ち悪いのと、背中、痛い。
風邪か、予防接種の影響？　
「どうする？お母さんいた方がいい？お父さんに帰ってきてもらう？親いない方が楽？休むなら職場に連絡しないと、迷惑かかるし。」
矢継ぎ早に聞いてしまった。実際、後5分で出ないと遅刻する。
迷惑、と娘は小さく呟いた。
「‥そら1人の方が楽」

しまった。
娘は「迷惑」と言う言葉で、何かを言うのをやめた。
以前、気持ち悪いと休んだ時は、「いて欲しい」と言われたのを思い出す。

　職場に着いて、ロッカーの戸を開けた時、「消化不良」という言葉が、浮かんだ。

　「宿題やらない」は選択肢に無い！
　そんなんだったら、ずっとゲームもスマホも渡せない。ゲーム依存症なら、施設に入らないといけなくなる。

　両親から、そんな事を言われて、娘は、消化できなくて吐いたのかな。

　何となく心配で、昼休みと夕方に電話した。が、娘は、ご飯食べれてる、熱は、今から測るわ、と、どうもない様子だった。

　このまま、学校行かなかったりして。

　どんどん、不安が膨らみそうになった時、はた、と思い出した。

　朝、ソファに置かれた通学用のカバンを、横によけようと持ち上げた途端、指が千切れそうになった。

何入ってんの？！重すぎやろ。
こんなに教科書いる！？

思わず言うと、トイレからでてきた娘が、
忘れないように、全部入ってる、とさらりと言った。

　私自身、大学までカバン2個持ちが普通だった人なので、気持ちは分かるが‥。

　絶っっっ対、10キロ超えてる、これ。

　テスト前の週末、必ずと言って良いほどやらなあかんワークと解答集を忘れてくる。その都度、私がめっちゃ怒っていたので、こうなった様子。

　こーれーは、背中痛くなるわ。

　肩や首に血が通わず、吐き気も来るだろう。

「‥週末、カバン整理しーや。」

教科書、全部タブレットで見れたらいいのに。

　次の日は週末の休みで、彼女の吐き気は消えたようだった。
　思いつきで、デッサンをしてもらう。
　彼女は、計算や英文作成は、苦手意識で取り組みにくいけれど、絵を描く、となると、いいよ、とすぐやってくれる。観察することと、好きな絵を描くことで、注意力か高まればと、いっとき毎日やってもらっていた。
　言葉で伝えるなら？と言う課題もやって貰った。細かい部分や色は言うが、後は出てこない。その文をみて描いてみて、というと、描けないでいる。
「何を言ってもらったら描ける？」
「外側の、形かな。」
「そーやね！」
　その後、再び現物のパンを描いて貰うと、さっきあれだけ時間かかっていたのが、サラサラと最後まで描けて、よりリアルになっていた。

　いいやん、このシワと側面が繋がってる感じがでてる。
　自分の口から自然に、絵の良いとこがでてくる。

　絵だったら、褒めてやれるのに。

それで、良いんじゃないか。
親は、
断罪するんじゃなく、
安心できる場を作れば良い。
なら、
　ここなら、怒られない、
　自分に自信が持てる、
　やれる事がある。
　それを、一緒に見つける事、
　それを、一緒に大事にすること。
　生きていくのに、方法や技術を身につけるのは大事だ。けれど、それをやり続けられる、しんどくなったら、少し休んで歩き出せるために、褒めてやれることを、親は見つけたら、良いんじゃないかな。
　伝え続けられたら。
　いつか離れる、その日まで。

　そう思うと、きゅーんとなった。
　娘と離れるの、寂しい。
　ホントはそう思っていた。
　何か理由つけて、怒ってたけど、結局、さみしい。

　とりあえず、自覚していよう。
　まだしばらく、母はユラユラ揺れる。

病気？性格？
発達障害？その人らしさ？
変わる？変わらない？
そのままでいい？何かしていかなきゃダメになる？
いつもハザマで揺れる、娘と私の日々。