「保健室経由、かねやま本館。」シリーズが子どもたちに大人気の松素めぐり先生にインタビュー(3)
「少年写真ニュース」で取材させていただいた、「保健室経由、かねやま本館。」シリーズの作者である、松素めぐり先生のインタビュー記事を2回にわたって掲載させていただきました。
最終回となる今回は、松素めぐり先生による「保健室経由、かねやま本館。」シリーズひとこと解説と、インタビューの中にも出てきた、めぐり先生が人生において影響を受けた作品について、お届けいたします。
【第3回 「保健室経由、かねやま本館。」シリーズひとこと解説と人生において影響を受けた作品】
(1)「保健室経由、かねやま本館。」シリーズひとこと解説
─それでは、先生による、「保健室経由、かねやま本館。」シリーズの各巻ひとこと解説をお願いします。
第1巻には、先生の小中学生時代の実体験も存分に盛り込まれています。
「第1巻は、主人公のサーマを通して、中学生女子なら誰もが経験する、ちょっと女子の嫌なところあるあるを書きました。小学校の時には人気者だった主人公のサーマが、転校先の中学校で遭遇する事態は、大人になってから、友人などに聞いてみると、意外とみんな経験があるんですよね。あとは、運命的な出会いの予告編のような、サーマとアリの出会い。必ずみんな『出会える』というのを伝えたくて」
―第2巻は、先生の子どもの頃の夢の一つでもあったお笑い芸人のお話です。
「子どもに干渉しすぎるお母さんが出てきます。子どもを思いやりすぎてしまって、子どもの世界をせばめてしまうという。親、家族の存在は、中学時代はすごく大きいと思うのですが、不思議なもので、大人になると、ある程度距離が持てるようになるんですよね。あとは友人という存在があることで、悩みから抜け出すことができるということを、第2巻では伝えたかったです」
─第3巻には恋愛要素が入ってきます。
「この巻では、キュンとしてほしいという思いがあったのと、純愛ものがすごく好きなので、一途な思いを描いてみたかったんです。私は作家もやりつつ、絵を描く仕事もしていて、『絵を見た人が、それぞれ自分のストーリーを思い浮かべられるといいな』と思いながら描いているのですが、そんな思いもこめています。私も主人公のムギと同じように、公園の遊具に悪口を書かれたことがありました。今はむしろSNSの中で悪口を書かれたり、仲間外れが起きたりすることが常ですが……」
─第4巻では、新しいキャラクターや、死後の世界が出てきます。
「自分は全然ちゃんとした人間じゃないので、周りに助けてもらっているし、亡くなった家族や友人たちといった、先に旅立った人たちも、今ここで生きている私を応援してくれていると信じて生きています。第4巻は、大切な人を亡くした人に読んでほしいという思いが一番にあって、きっとあなたを見守ってくれているんだよというメッセージをこめました」
─第5巻は、自分では気づかぬうちに深刻な悩みを抱えこんでいた少年・ミキに、謎の「かねやま新館」が近づいてきます。
「私たちが生きる今、戦争をはじめ、いろいろな悲しいニュースがあふれています。きれいごとじゃない世の中で、明るい方向を選びとる勇気のようなものを書きたくて。第5巻から悪役のようなものを登場させ、誰もが抱える闇の部分を書こうと思って、『かねやま新館』という、『かねやま本館』と対極に位置するような場所を登場させました」
─そして、5月に出た第6巻ではさらに踏みこみます。
「今回は、自分を好きになれずに、ちょっとやけになっている女の子、ヨシノが主人公です。『自分なんて誰にも愛されていない』と思っていたヨシノが、『かねやま本館』と出会い、どう変わっていくのか。主人公といっしょになって迷ったり、癒されたり、時にハラハラしながら、物語を楽しんでもらいたいです。マイナスに引っ張られていく誘惑に勝てるのか? 世の中には心を惑わされるような出来事がたくさんあります。その中でも必死に光のさす方向へと足を踏み出していく、そんな力強い瞬間を書きました」
─ありがとうございます。これに続く第7巻も楽しみです。ちなみに、「かねやま本館」にはいろいろな効能の温泉が登場しますが、先生だったらどのお湯に入りたいですか?
「漆黒の湯(効能:内省)ですね。本当は全部入ってみたいですけれども、内省は、もう本当に調子に乗って失言することが多いので、もっと反省して次に生かせるように自分を顧みるという温泉に入らなくてはいけないなと思っています」
(2)松素めぐり先生が人生において影響を受けた作品
─インタビューの中でも「人生の中で苦しい時、悩みの中にいる時も、本を読んで物語や登場人物たちから力をもらう」、「悩みや問題に直面した時は、自分の原点となる本があるので、それを読み返す」とありましたが、先生が人生において影響を受けた作品について教えてください。
📕『ナルニア国物語 ライオンと魔女』(岩波書店)
「読後、主人公といっしょになって自分まで成長しているような気持ちになれて、アスランがどこかで見守ってくれているような勇気をもらえます。読む時の自分の状況によって、共感する登場人物も変わってきたりして、読むたびに発見をもらっています」
📕『パスワードは、ひ・み・つ─パソコン通信探偵団事件ノート』(講談社)「このシリーズはおもしろすぎて教えたくないと思ったくらいです。大好きな友人を独り占めしたい気持ちと同じです。読み終わってからもずっとかばんに入れていて、持っているだけで『自分もメンバーの一員だ』というようなワクワク感に酔いしれていました」
📕『ホームレス中学生』(ワニブックス)
「何度も読み返している愛読書。初めて読んだ日に『私も作者の田村裕さんのような、やさしい人間になりたい』と日記に書いたことを今でも覚えています。おもしろくて、切なくて、がむしゃらで、何度読んでも心が熱くなります。田村さんは私の尊敬する人です」
📕アニメ『世界名作劇場』(日本アニメーション)
「『小公女セーラ』や『ロミオの青い空』など、切なさ、悲しさ、忍耐、苛立ち、憎しみ、愛しさ、喜び、ありとあらゆる感情を追体験させてもらったと思っています」■
3回にわたり、お届けした松素めぐり先生のインタビュー記事がいかがでしたか? この機会に、一人でも多くの方に、「保健室経由、かねやま本館。」シリーズに興味をもっていただき、読んでいただけたらと思っております。
最後になりますが、このたび、このような貴重な機会をいただき、松素めぐり先生、講談社様、本当にありがとうございました!
めぐり先生とたくさんお話しできたことは、本当に私の中ではとても大きな財産です。引き続き、よろしくお願いいたします!
📚「保健室経由、かねやま本館。」シリーズ
著:松素めぐり/イラスト:おとないちあき
(聞き手:「少年写真ニュース」編集部)
松素めぐり(まつもとめぐり)
1985年生まれ。東京都出身。多摩美術大学美術学部絵画学科卒業。『保健室経由、かねやま本館。』で第60回講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。同シリーズ1〜3巻で第50回児童文芸新人賞を受賞(シリーズは現在第6巻まで刊行中、この冬に第7巻刊行予定)。アンソロジー短編集『1話10分 謎解きホームルーム』(新星出版社)第4、5巻にも作品が収録されている。そのほかの作品に『おはなしサイエンス 宇宙の未来 パパが宇宙へ行くなんて!』(講談社)がある。
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