「保健室経由、かねやま本館。」シリーズが子どもたちに大人気の松素めぐり先生にインタビュー(2)
子どもたちに大人気の「保健室経由、かねやま本館。」シリーズ。
シリーズの作者である松素めぐり先生のインタビュー、2回目では、松素めぐり先生の「『保健室経由、かねやま本館。』への思い」をお届けいたします。
お話の作り方など、作家を目指している方の参考にもなると思います。また、これを読むと、現在第6巻まで刊行されている、「保健室経由、かねやま本館。」シリーズを、より深く、より愛情を持って読むことができるのではないかと思っています。
【第2回】『保健室経由、かねやま本館。』への思い
─「保健室経由、かねやま本館。」シリーズはどのようなきっかけから生まれたのですか?
「自分が中学生だったら、悩んで疲れていた時に学校に何があったらうれしいかなと考えたときに、すぐに『温泉だ!』とひらめきました。もともと、子どものころから温泉番組を録画して見るほど、温泉が大好きだったので、学校に行く前に、一風呂浴びれたらいいなと思ったんです。そこに、全国からいろいろな中学生が集まってきて、悩みを分かり合えたらいいなあって、どんどんストーリーが広がっていきました」
─お話が浮かぶのはどんな時ですか?
「散歩をしている時や、音楽を聴きながら家事をしている時に思い浮かぶことが多いです。思い浮かんだら、すぐに手や足を止めてメモをします。すぐに記録しないと忘れてしまう時があるので」
─お話を書く上での必須アイテムはあるんですか?
「音楽です! 書く時には必須です。ジャンルはJ-POPですね。映画を作るような気持ちでシーンを組み立てているので、音楽は欠かせません。編集者さんにもプロット(小説の設計図のようなもの)の時点で、作品のテーマ曲を決めてお伝えするんです。なんなら『今回はこれです!』って送ります(笑)。世界観を編集者さんにも理解していただいて、脳内を共有してもらいます」
─作品を完成させるまでに、どのような作業をしていくのですか?
「作品で伝えたいテーマをまず決めて、そこから『描きたいシーン=クライマックス』を頭の中で想像します。ノートを開いて、走り書きのように、浮かんだことを自由に書いていきます。ざっくりとイメージができたら、登場人物の細かい設定を決めるんです。名前はもちろん、顔や身長、性格なども決めます。映画を作るような気持ちで書きたいので、実際にいる俳優さんからイメージに合う方をインターネットで検索したりします」
─そのあとは、先ほど出てきたテーマ曲でしょうか?
「登場人物が決まったら、プロットを書いて、その時のテーマ曲を決めます。この曲をどのタイミングで生かすかを考えながら、映画の予告編を作るような気持ちで物語を組み立てていきます。出来上がったら、編集者さんに送ってアドバイスをいただき、方向性が決まったら原稿を書き始めます。プロットの文章をそのまま一度原稿に落としこんで、上書きしていくようなイメージです。何かに影響されて話が変わることもありますし、編集者さんとのやりとりの中で大きく変わることもあります」
─1冊仕上げるのにどれくらいの時間がかかるのですか?
「大体3か月くらいです。編集者さんとコミュニケーションをとりながら、最初の段階に1か月半くらいかけて、そこから修正を重ねて、3か月くらいで脱稿(原稿を書き上げること)します」
─それぞれの作品から、先生の人生の断片も見て取れます。
「あまり強く意識しているわけではないのですが、つねに自分のままを書いているんです。自分の心情を隠さずに、自分だったらどうするのかという気持ちを考えながら、素直に書いています。それが、自分にしか書けない物語になるのかなと」
─先生にとっての「自分らしさ」とは?
「『弱い人間だ』と言えるところです。調子に乗ってすぐに失敗するし、でも『もっとやさしい人間になりたい!』という志だけはあるし、『こんな自分でも生きていていい!』という自信もある。年齢は『大人』ですが、まだまだ成長段階。中途半端ですけれども、それが自分らしさかなって」
─「保健室経由、かねやま本館。」シリーズにこめた思いについて教えてください。
「シリーズを通してひとつあるんですけれども。大人になってから出会った友人やお仕事をいっしょにする人たちは、子どものころ、例えば、中学生の時の私は、その人たちのことを当然知りません。歳も違うだろうし、住む場所も違うけれど、大人になってから出会うことをその段階ではまだ『知る由もない』。『知る由もない』っていう言葉が好きで……当時の私は知る由もなかった。けれども、大人になってから出会った人たちがたくさんいます。今悩んでいっぱいいっぱいになっているかもしれない子どもたちも、これからどんな人に会うかなんて知る由もないし、大人になって出会う人だって、かつては子どもだったり、中学生だったりという時があって。つらい時期もあるかもしれないけれど、いずれ『出会えるよ』と。このシリーズも、登場人物のさまざまな出会いによって物語が動いていきます。また、『疲れたら休むこと』、『何があっても、何もできなくても、あなたは大事な人だよ』というメッセージをこめています。中学校の先生をしている友人が『子どもはみんな、愛のシャワーを浴びまくって成長するべきだ』と言っていて、すごく納得しました。だから私も、作品を通して、『愛の源泉シャワー』を浴びてもらいたいです。子どもたちはいるだけで、大人や社会にエネルギーを与えてくれていると思います。何もしなくても愛されていると思って、大人になってほしいです。それを、物語を通じて、読んでくれている方、みんなに伝えたいです」
─ちなみに先生が悩みや問題に直面した時はどうしますか?
「自分の原点となる本があるので、それを読み返します。それでもスッキリしない時は、人に打ち明けます。友人や家族、近所の人たちだったり、もっと若い高校生や大学生とか、いろいろな人に聞いてもらって、意見をもらったりします。あとは悩んだ内容を小説風に文章に打ちこんでみたり。活字になると客観視できてスッキリします。現実よりもちょっと大袈裟に、笑い話っぽく書くと『大したことじゃないかも』と思えたりします」
─そうして、今がある。
「私は何度もやりたいことが変わって、回り道ばかりしてきた人間です。いろいろな仕事をしてきたけれど、どの職場でも決して『できる人』ではありませんでした。怒られてばかりです。でも、そこでの経験、出会えた人たちは、本当に大きな財産になっています。何かを成し遂げることではなく、その道のりを味わうことこそ、いちばん大切なんだと今は思います」
─これからの夢や目標があれば教えてください。
「やりたいことはたくさんありますが、まずは物語を書き続けたいです。読んでいる間はワクワクが止まらず、読後も、持っているだけで元気がわいてくるような『心地よい読後感』が続く作品を生み出したいです。そして、日本だけではなく、世界の子どもたちにも読んでもらえる作品を書くこと。あとは映画が大好きなので、自分の作品が映像化されるのを見てみたいですね。そして、いつか理想のアトリエもつくりたいです。和風の古民家のような場所で。近所の子どもたちが集まる家庭文庫や足湯があって、思いっきり絵の具で描いて汚しても大丈夫で、みんなでのんびりゴロゴロできて、おなかがすいたらおいしい塩おにぎりが食べられるような、リアル『かねやま本館』をつくりたいです」
─読者の皆様へのメッセージをお願いします。
「これからいっぱい挑戦して、いっぱい自分の可能性を探って、いっぱい失敗をして、いろいろな人にいっぱい会ってください! 遠回りだと思う道にこそ、素敵なおみやげがいっぱいあると思います」■
(第3回(最終回)「めぐり先生による「保健室経由、かねやま本館。」シリーズひとこと解説、人生において影響を受けた作品の紹介へと続きます)
(聞き手:「少年写真ニュース」編集部)
松素めぐり(まつもとめぐり)
1985年生まれ。東京都出身。多摩美術大学美術学部絵画学科卒業。『保健室経由、かねやま本館。』で第60回講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。同シリーズ1〜3巻で第50回児童文芸新人賞を受賞(シリーズは現在第6巻まで刊行中、この冬に第7巻刊行予定)。アンソロジー短編集『1話10分 謎解きホームルーム』(新星出版社)第4、5巻にも作品が収録されている。そのほかの作品に『おはなしサイエンス 宇宙の未来 パパが宇宙へ行くなんて!』(講談社)がある。
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