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映画感想『ラストマイル』


怖い

現在進行形で僕たちの背後に潜んでいる危うさを感じ、怖くなりました。
それこそ、ネットでポチるのが当たり前の時代ですから、届いた物が爆弾だったと考えるとおぞましいですし、よく考えてみたら、どういう経緯を辿って到達したかわからない箱を、僕たちは何故信頼しているのでしょう。

そんな疑惑を物流業界へ向けていると、自分がいかに物流業界を舐めているかが浮き出てきました。注文して数日で荷物が届くことが当たり前だと思っていて、その道中に関わる人間の苦労など露知らず、荷物が遅れたら怒ります。かと思えば完全にこっちの都合で宅配予定時刻に外出し、配達員に二度手間をかけ、なんで今来るんだよ、と文句を言い出す始末です。

ドライバーが減っていることも、低賃金が問題になっていることも、あくまでニュースの話で、結局はそんなこと気にせずにネットショッピングをしてしまうのです、僕たちは。

爆弾という、ある意味大衆娯楽的な怖さの入り口から始まって、今目の前に転がっているのに気づかないフリをしている身近な問題まで突きつけられて、それもまた怖かったという感想の一部です。

予習もしっかりしましたし、MIU404とアンナチュラルの面々が出てきた時は馬鹿みたいに面白い!と思いましたが(音楽が流れるだけで血が騒ぎますよね)、それ以外の場面は結構怖くて、椅子に張り付きながら見ていた覚えがあります。

翻弄

主人公であるエレナがどうも最後まで掴みどころがありませんでした。一体何に対して必死なのかわからず、観客である僕たちには教えない別の目的を持って行動しているような怪しさを、最初の方はもちろん最後まで感じた次第でした。

よって、物語が二転三転する度に、わっと盛り上がる感情を抱きつつも、エレナに対する煮え切らなさが原因で終始冷静さを持って画面を凝視する結果となりました。

悪い意味として書き始めましたが、そうでもないかもしれません。というのも、エレナの掴みどころのなさは、多角的視点のような気もするからです。

僕はエレナが、デイリーファストの責任者であるようにも見えたし、ふと次のカットではただのお客さんのようにも見えたし、はたまたある時は全てを操る犯人のようにも見えたのです。

アンナチュラル然り、MIU404然り、完全なハッピーエンドは訪れないのがこの座組の特徴です。

この映画も、ただ爆弾を止めてハッピーというだけでなく、過労死や物流問題、人間関係、仕事環境、復習が根元にある、救いようのない話でもあります。その全ての視点を主人公であるエレナが持っているような気がして、そのせいで、僕もまた、白熱する展開の裏側を覗き込もうと無意識にしていたとしたら、それは映画の持つ魅力がかなり広がっているということです。

まとめ

最近はただ面白い作品よりも、何かメッセージが浮き彫りになっていたり、考えすぎて塞ぎ込んでしまいそうな答えのない問いが含まれている映画が好みになってきました。

ラストマイルはまさにそれで、伊吹!志摩!東海林さん!中堂さん!爆弾!うわぁ!と無邪気に楽しめることは間違いないのに、妙に主人公の言動が、作品の持つテーマ性に僕を惹きつけていき、結果、すごく深みのある映画が出来上がっていたという印象です。

いやぁ、観終わってしまったことが正直悲しいです。まだ観ていない自分に戻れたらいい。


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