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自動車業界トップに見る日本的経営と米国的経営
少々堅苦しい話になりますが、2023年初めに改めて思ったこと。
それは、自動車産業が百年に一度といわれる革命期にある中、この数年で日米トップ企業の会社の哲学の違いが顕著に表れたなぁと感じたことです。
日本のトップ企業トヨタ自動車(以下、トヨタ)は日本らしい経営、米国のトップ企業テスラは米国らしい経営。
では、3000文字以上と少々長くなりますが、2020年7月の記事より時系列でお伝えします。
①テスラ時価総額、トヨタを超え首位に
テスラ時価総額22兆円、トヨタ超え自動車首位に(2020年7月1日:日経新聞の見出し)
2019年度の自動車年間販売台数は、テスラは36.7万台、トヨタは1,074万台と30倍近い開きがあるにもかかわらず、創業約20年のテスラが巨大企業であるトヨタの時価総額を抜いたという驚くべき話題。
環境・社会・企業統治を重視するESG投資の広がりを追い風に、テスラの株価は約22.6兆円と過去1年で5倍近くに伸びた。
テスラは電動化や自動運転など「CASE(Connected、Automated、Shared、Electric)」と呼ばれるクルマの次世代技術を先取りしており、将来の成長への期待が株式市場への評価につながっている。
時価総額で従来型メーカーであるトヨタの約21.7兆円を上回ったことは、自動車産業の変化を象徴するもの。
②テスラ時価総額、日本の全自動車メーカー合計を上回る
テスラの時価総額 日本の上場全自動車メーカーの合計を上回る(2020年7月14日:日経新聞の見出し)
テスラの時価総額は一時、約35.7兆円となり日本に上場する全自動車メーカー9社の合計34.5兆円を上回った、と。
その勢いは、トヨタ1社を超えるだけでなく、日本に上場する全社の時価総額を超えるという、止まることを知らないようです。
③トヨタ中間決算 異例の社長出席
(2020年11月6日:トヨタ2021年3月期中間決算発表)
テスラが時価総額を大幅に増加して従来の自動車業界を脅かしているからか、豊田社長は異例となる中間決算発表に出席。
そこで、決算発表を踏まえ、豊田社長は思いを語った。
それは、トヨタの今後の見通しから自動車産業界、日本経済、そして60年以上前に纏められた豊田綱領に至るまで。
トヨタのフィロソフィー、トヨタの使命は「幸せの量産」。
ビジョンは「可動性を社会の可能性に変える」、即ち「一人ひとりが行動を起こす」、という。
その中には、花とミツバチの関係、キッチンやシェフ、スキが大事、といったワードを使った説明は非常にわかりやすく、親近感が湧きました。
noteもスキが大事ですよね。
豊田社長の一問一答、素晴らしい回答だと思いますので是非ご覧ください。
Q.フィロソフィーを何故このタイミングで伝えたか?
A.
「フィロソフィーを言い始めて監査役からの問いかけがありました、何故ネアンデルタール人は滅びてホモサピエンスが生き残ったか?と。ネアンデルタール人は必要なものをしっかり作っていたが、ホモサピエンスは、そこに美しさとか楽しさを加味した。必要なものだけ作っていても生き残れないとのことがわかった。
トヨタ生産方式は、これまで従業員は生産効率を追求して楽にする事だったが、本来は楽しくすることだ。
楽しさ、嬉しさ、スキ、が大事で、それが会社を支持して生き残らせてくれる原動力となる。
大事なことは、今回フィロソフィーを作って伝えることで、問いかけが生まれ、議論が生ずることだと思ったから。」
Q.テスラと比較して電気自動車MIRAIのメッセージ性は弱いと思うが、トヨタでは未来のカタチをどう考えているか?
A.
「電動化の進展は花とミツバチの関係と考えている、車とインフラは両輪、すなわち車だけ電動化してもダメで、インフラと車がともに新しい電動化の波をもたらす。また、トヨタでは電動化だけでなくハイブリッドや水素など多くの選択肢を提供していく社会にあうものを作っている。」
Q.電動化が加速する中、テスラの業績が堅調だが、トヨタはテスラをどう見ているのか?
A.
「テスラの時価総額は40兆円、日本車全メーカー7社を合計しても30兆円、大きな企業価値を生んでいる。テスラには学ぶべき点はある。
ただ、トヨタにあってテスラに無いものは、1億を超える保有の母体とリアルの世界。
テスラは、レシピをトレードして将来はスタンダードになるという考え方が評価されている。
トヨタには、キッチンがありシェフがリアルな料理を作り提供、目の前で食べて頂ける口うるさいお客様もいる。
全世界はエネルギー事情も違い、電動化も多様する中、トヨタはメニューを持っている。リアルの世界のフルラインアップメーカーが選ばれ一歩先に行っていると思っている。」
④トヨタ時価総額初の40兆円
EV30車種 挽回に期待(2022年1月19日:日経新聞の見出し)
トヨタはEVについて、2021年12月14日に2030年の生産台数を350万台とする目標と4兆円の投資計画、そして2022年半ばにEV専用車を発売して30年までに30車種を投入すると発表。
その発表により、1月18日に時価総額が初めて40兆円を上回った。
⑤米テスラ株急落
年初から7割下落 トヨタ3社分の時価総額吹き飛ぶ(2022年12月28日:産経新聞の見出し)
なんとテスラの株価が急落。年初の約138.6兆円から約45.7兆円に減少、減少額は約106.3兆円。トヨタ3社分の時価総額が1年間で減少したことになる。
米証券取引委員会(SEC)報告書によると、テスラ代表者イーロン・マスク氏はテスラ株を、2022年4月、8月、11月、12月と計4回、約3兆円売却しているという。
この資金は、米Twitter社買収資金約440億ドル(約5.8兆円)の一部に充てられたと推察されます。
これによるテスラ株主の不満に対して、イーロン・マスク氏は「テスラ株主が長い目で見てTwitter社から利益を得られるようにする」とツイートしたという。
⑥現時点のテスラとトヨタの時価総額
(2023年1月24日時点)
・テスラ(1月23日終値):約 59.0兆円(4,539億$、130円/$で計算)
・トヨタ(1月24日終値):約 31.1兆円
2020年7月と比較すると、テスラは2,076億$の約2.2倍、トヨタは21.7兆円の約1.4倍。
2022年年初と比較すると、テスラは11,366億$の約0.4倍、トヨタは0.8倍となったが、それでもテスラはトヨタの時価総額を上回っている。
最後に
トヨタは60年以上前より受け継がれる使命、「幸せの量産」。そして、ビジョンは「一人ひとりが行動を起こす」、という。
この豊田綱領、仏教に素人ながら似ているような感覚がある。
最終目的の「自利利他の精神で悟りを開く」、そして伝教大師・最澄のいう「一隅を照らす」に通ずるものがあるように思う。
そういえば、豊田家一門が眠るお寺をみかけた。
トヨタに見られるように日本の経営は、お客さんの声を聞き、関係する全ての人々の満足(幸福感)を考えて長期的な視点で地道にコツコツと積み上げていく。
一方、単純ではないが概ね米国の経営の強みは、GAFAMに代表するようイノベーションを起こして需要を喚起、プラットフォームをつくり満足(圧倒的な利便性)を創出する。
どちらも優れているが、わたしは長期的に寄り添って貰える会社を応援したい。
わたしの心に残る豊田社長の秀逸なメッセージ、
・「モノづくりは人づくり」
・「幸せそうな顔をすることがみんなの幸せ」
・「石にかじりついてでも守り抜く」
ご参考までに、私が感動をした豊田社長の思いが詰まった記事を添付します。
最後までお読みいただきありがとうございました。
【ご参考】
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