見出し画像

異文化と働く:変化に強い遅刻魔たち|The Culture Map

コロナによる突然のロックダウン、在宅勤務の開始、変化し続ける市場環境。そんな中で私(タイ駐在中)は東南アジア出身の同僚たちの活躍(「変化」に対する適応力の高さ)に目を見張りました。

その気付きを深めるきっかけをくれた、『The Culture Map(邦題:異文化理解力)』という本をお供に、そんなコロナ体験を振り返ってみようと思います。

引用は、8章の「How Late Is Late? Scheduling and Cross-Cultural Perceptions of Time(遅いってどれくらい?スケジューリングと各文化の時間に対する認識)」から。

本のまとめ:時間感覚の違いが生産性の定義を変える

世界の時間感覚の違いを二つに表すと、下記にまとめられるとのことです。

画像1

LINEAR-TIMEの日本人の私と、FLEXIBLE-TIMEの東南アジアの同僚の違いが仕事の場でどのように現れるか、変化の特に激しい場合(コロナ下)と平常時とでそれぞれ振り返ります。(※私以外の登場人物は全員東南アジア出身です。)

変化の激しい環境下で輝くFLEXIBLE-TIME

タイではコロナ感染者の増加を受けて3月末にロックダウンが始まり、私の会社ではそれに少し先立って3月中旬から在宅勤務生活に移っていました。予定通り仕事が進められなくなって立ち往生する私と、東南アジア出身の同僚たちの環境変化を察知してそれに適応的に動く能力の高さの鮮やかな対比をご笑覧ください。

私はというと、「明日から在宅勤務開始ね」と突然言われたことに動揺しながらも、その前日までにやっていた仕事を家で継続していました。その間同僚は会社で起こっている変化(=コロナ対応に注力するため、私のチームで手掛けてきたような未来志向のプロジェクトに労力を回している余力がなくなってきている)を一早く察知し、プロジェクトの一時中断を提案していました。

後日、以上の提案を受けて私は自分が手掛けてきたプロジェクトを中断することを聞かされ意気消沈していました。その間に、上司は会社内の複数部署に聞き込みを行い、新しい機会は何か見定め、それに合わせてリソースの再配分を行いました。

私が変化を受け止めきれずぐずぐずしている間に、チームメンバーは変化を察知し、それを受け止め、新しい機会を探すことに注力し、リソースの再配分までの素早い判断を下したのです。
上司はコロナの状況下で新しく芽生えたニーズをしっかり捉え、私たちが元々やっていた仕事の中で培った能力を発揮できる領域とのマッチングを考え、そこにリソースを宛がいました。チームの士気を維持することに寄与する、見事なリーダーシップでした。

LINEAR-TIMEの私がぽんこつを極め、FLEXIBLE-TIMEのチームメンバーの強みが輝いた瞬間でした。

mind like water 
水のような心持ち:変化に対して抵抗しすぎず必要十分に変化すること
(在宅勤務が始まった頃教わったコンセプトで、気に入っています。)

平常時での実例:時間にルーズは臨機応変さの証

以上、環境変化が激しい環境で私の非生産性をさらしましたが、平常時の私はどうだったかというと、東南アジアの同僚のミーティング中のこんな態度にイライラしていました。

- 議題を1、2、3の順番で設定し、順番に合意していったはずなのに、3の話をしている最中に1の話を蒸し返す。

- 同上に議題を捌いていたところ、3の話をしている最中に遅刻してきた同僚が1の話を再度議題に挙げる。

- 前回の会議で合意したアクションの報告をしようとしたら、そもそもやるべきことが変わったとちゃぶ台返しをされる。


私は合意事項を守り、予定通りに終わらせることに重きを置いて働こうとする傾向があります。一方、臨機応変にそのときに一番良いと思われるアプローチを取ろうとする上司の提言に、(一理あると感じつつも)指示がコロコロ変わり”振り回される”ことのストレスも感じていました。

これらのような「時間に対して適応的な態度」は、平常時私は「ルーズで一緒に仕事する相手の時間を尊重しない」と低評価を下していたのです。しかし今回コロナを受けて、このルーズさは「環境変化が特に激しい状況において強みを発揮する」能力と表裏一体であり、FLEXIBLE-TIMEであることの表れだったんだなと理解することができました。コロナを直面して初めて、そのルーツ、強みと弱みが真に理解できたと思います。

平常時での実例:「もっとクリエイティブになりなさい」

これまで見てきた通り、LINEAR-TIME/FLEXIBLE-TIMEでは前提としている生産性の定義がずれているのでしばしばお互いに「相手は非効率的な人間だ」と思ってしまうところに注意が必要です。

特に、日本人の私が東南アジアで働くときなど、異なる時間認識の文化の中にマイノリティがいる場合は、そのプラスの面・マイナスの面がともに強調されるので、この違いについて自覚的であると異文化の中でも働きやすくなると思います。

FLEXIBLE-TIMEで働くLINEAR-TIMEマイノリティの強み:
会議の議題をあらかじめ設定し、会議の後には議事録を配信し、次回の会議までに必ずアクションを終わらせてこようとする私の態度は、同僚から見て驚異的に責任感に満ちており、規律が高く見えるようです。決めたことをやり切り、チームの仕事をしっかり前に進める点において貢献できていると思います。 

FLEXIBLE-TIMEで働くLINEAR-TIMEマイノリティの弱み:
一方、私がよく上司から言われるのは、「もっと制約を外して考えて、クリエイティブになりなさい」ということです。合意した事項に対して思考停止になるのではなく、常に「今、何が最善か?」を制約(会社の制度や前回の会議の合意事項など)から離れて考え続けることの習慣は同僚に比べて圧倒的に足りていないです。

コロナのときに証明された通り、「やり切ることを自分に課している」ということは、しばしば環境が変化したときにも盲目的にやり切ることに重きを置いてしまい、変化に適応しにくい可能性があると学びました。   

さらに一般化して考えると、日本人が働きすぎで生産性が低くなっていると感じるときがあったら、思考停止している可能性を疑ってみるのは有効な手かもしれません。ルールに盲目的で、仕事の棚卸ができておらず、昔は必要だったけど今は不要な仕事を続けてしまっている場合はありませんか?

私は今後、「環境は変わる」ということ、「それに伴ってやるべきことが変わる可能性がある」ということ、それぞれ念頭に置いてアンテナを張りながら仕事したいなと思っています。

横道に逸れますが、日本で働いたことがある上司の言葉の引用です。

日本人はみんないい人なのにいろんな制約の中で生きてて大変そうに見えるよ。もっと自由にしていいのに。
なんで真冬に取引先の会社のビルに訪問したら、ビルの外でコートを脱がないといけないの?風邪を引いてしまうよ。

合理的ではなく見えるところで礼儀作法を守ろうとしていると、制約の中で生きているように見えるらしいです。

まとめ:今働いている環境は安定してる?変化してる?

私は以上の経験を通して、チーム内にLINEAR-TIMEとFLEXIBLE-TIMEどちらもいることで、仕事の推進力(安定した環境下で強い)と環境変化への適応性(変化する環境下で強い)の両方が確保でき、チームのパフォーマンスを最大化できるのではないかと思うようになりました。

このとき、チームのパフォーマンスを真に発揮するために気をつけないといけないことは、それぞれの個性を尊重することです。お互いの生産性の定義が違う以上、お互いのことを「非効率的だ」と思ってしまうリスクだけは避けなければいけません。

また、個人のレベルでも、今働いている環境は安定していて、決まった通り規律高く動くことの方が効果的なのか、今働いている環境は変化していて、新しい機会にオープンであり臨機応変に働くことの方が効果的なのか、自問自答しながら軸足を少し調整し続けることでパフォーマンスを最大化できそうです。


サポートありがとうございます。サポートは本の購入費にあて、note記事で還元できるように頑張ります。