#18 ショートショートらしきもの「契約」
ガンッ
「いっっって!!ふざけんなよ!!なんで朝から小指ぶつけなきゃなんないんだよ!あーーもう!!ぜんっっぶあのクソ上司のせいだ!!!」
ピンポーン
「この時間から誰なんだよ。」
ピンポーン
ピンポンピンポンピンポーン
「うわ。うるせーな!」
ガチャッ
「はい?」
「あなたを助けに来ました。」
「え?どちら様ですか?」
「死神です。」
「は?」
「お困りのようでしたので助けに参りました。」
「いや。宗教とか興味ないんで。すみません。」
「宗教ではないです。死神です。あなたを助けに参りました。」
「死神?よく分からないですけど、そういうの興味ないんで帰ってください。」
「いいんですか?休日なのに上司からの電話で平日よりも30分早く起こされたのも、会社の資料を自分の仕事ではないのに作ったのも、急いでタンスに小指をぶつけたのも、報われませんよ?」
「は?なんで知ってんですか?ストーカー?」
「死神です。私と契約すれば、あなたが日頃から思っている、何をしても報われないという気持ちを晴らすことができます。」
「契約?全然意味わかんないんだけど。」
「いつもあなた様は、上司に無理矢理仕事を押し付けられてますよね。仕事を押し付けられる事はさほど気にしていない。ですが、ありがとうの一言くらいくれても良いじゃないかと思っていますね?」
「・・・はい。若いうちはなんでもやらされる物だと思ってるから多少はいいんですけど、明らかにぼくに関係ないものまでやった時は、さすがにありがとうくらいは欲しいかなと。」
「そこで、私と契約すれば、人のために働いた、誰かのために行動した時にその対価、幸せがもらえるんです。例えば・・・」
ピロンッ
「え?・・・うわ!経理の佐々木さんからLINE返ってきた!3日間無視されてたのに!しかも映画の誘いまで来てる!なんで!すげぇ!」
「そちらは、上司の代わりに重要な資料のデータを作成した対価です。サービスですよ。」
「すごい!ありがとうございます!でも死神と契約って、寿命とか取られるんですよね?」
「そんな事はしませんよ。契約の条件は簡単です。あなたが誰かのためになる事をしたら、その対価が返ってくる。逆に、誰かに自分のためになる事をしてもらったら、恩返しをする。ただそれだけです。」
「恩返し?」
「はい。なんでも結構です。直接お礼を言うでも、物をあげるでも、お金でも。状況によってすぐに恩返しが難しい時もあるかと思うので、そういう時は心の中で感謝の気持ちを述べてください。絶対です。相手にしっかり恩返し。これを忘れないでください。」
「簡単ですね。感謝の気持ちを伝える恩返しなら、ぼくにでもできそうです。」
「ただし、心の中での感謝、または恩返し自体を忘れてしまうとあなたに不幸がおとずれます。」
「不幸?」
「はい。不幸の大きさは相手にしてもらった事によって変わってきます。小指をぶつけたり、家にゴキブリが出たり。幸せも不幸も、等価交換なのでもらった物以上の事は起きません。」
「気をつけないと。感謝する気持ちを忘れないようにします。」
「それではご契約でよろしいですね?」
「はい。お願いします。」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・?これっていつから始まるんですか?」
「もう契約は済みましたので、家の玄関を出た所からすぐに始まります。そういえば、お仕事大丈夫ですか?」
「あ!やばいです!すみません。ありがとうございました!」
「いってらっしゃい。」
「いってきます!」
キキーーーッ!!
ドンッ!!
「あーあ。早速、感謝の気持ちを忘れてしまいましたか。若い人に多いんですよね。自分が存在している事を、ご両親に感謝しないとね。」
〜おわり〜